著者
山中 裕樹 源 利文 高原 輝彦 内井 喜美子 土居 秀幸
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.601-611, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
58
被引用文献数
19

大型水棲動物を対象とした環境DNA分析は、野外調査時には水を汲むだけで済むという簡便性から、広域的かつ長期的な生態学的調査や生物相調査への適用が期待されている。環境DNA分析は種の分布や生物量、そして種組成の解析にまで利用され始めているが、大型水棲生物を対象とした研究が行われるようになってからまだ日が浅く、野外調査などへの適用に当たっては当然知っておくべき基礎情報の中にも、環境DNAの水中での分解や拡散の過程など、未だ明らかとなっていないブラックボックスが残されているのが現状である。本稿ではこれまでの多くの野外適用例をレビューして、環境DNA分析の野外調査への適用の場面で想定される様々な疑問や課題について解説し、今後の展望を述べる。環境DNA分析から得られる結果は採捕や目視といった既存の調査で得られた知見との比較検討の上で適切に解釈する必要があり、この新たな手法が今後各方面からの評価と改善を繰り返して、一般的な調査手法として大きく発展することを期待したい。
著者
山中 裕樹 崔 恩瀞 吉田 則裕 井上 克郎 佐野 建樹
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2012論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.1-8, 2012-08-21

ソフトウェア保守における大きな問題の一つとしてコードクローンが指摘されている.コードクローンとは,ソースコード中に,互いに一致または類似した部分を持つコード片のことである.コードクローンに対する主な保守作業として,クローンセット(互いにコードクローンとなっているコード片の集合)に含まれる全てのコード片を一貫して編集する同時修正と,クローンセットを1つのサブルーチンにまとめる集約が挙げられる.本研究では,コードクローンに対する保守作業を支援することを目的としたコードクローン変更管理システムの開発を行った.そして,企業で行われているソフトウェア開発に適用することによって,本システムの有用性を確かめることができた.
著者
高原 輝彦 山中 裕樹 源 利文 土居 秀幸 内井 喜美子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.583-599, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
81
被引用文献数
4

要旨: 湖沼や河川、海洋沿岸域で採取した水試料に浮遊・存在するDNA(環境DNA)の分析により、水棲動物の生息状況(在・不在やバイオマスなど)を推定する生物モニタリング手法は、“環境DNA分析”と呼ばれる。これまでに、淡水域から海水域までの様々な環境において、環境DNA分析を用いた生物モニタリングが実施されており、目視や採捕などによる従来の調査法と比べて、低コスト・高パフォーマンスであることが報告されている。現在まで、環境DNAの分析に必要となる水試料の採取量や保存の仕方、水試料に含まれるDNAの回収・濃縮方法、DNAの抽出・精製方法、およびDNA情報の解析方法については、研究者ごとに様々な方法が採用されており、統一的なプロトコルはない。いくつかの研究では、水試料に含まれるDNAの濃縮方法やDNA抽出方法の違いが、得られるDNA濃度や検出率に及ぼす影響を比較・検討しており、その結果、野外環境条件や対象生物種によって、効果的なプロトコルに相違があることがわかってきた。そこで本稿では、著者らのこれまでの研究を含めた既報の論文における実験手法を概説し、環境DNA分析を用いた効率的な生物モニタリング手法の確立に向けて議論を展開する。本稿によって、環境DNA分析が広く認知されるとともに、本稿がこれから環境DNAの研究分野に参画する研究者の技術マニュアルとして活用されることを願う。さらに、環境DNA分析が、様々な局面での環境調査において、採捕や目視といった既存の手法と同様に、一般的に利用される生物モニタリング手法となることを期待している。
著者
平石 優美子 小澤 宏之 若井 嘉人 山中 裕樹 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1914, (Released:2020-02-13)
参考文献数
20

沖縄周辺での地域絶滅が危惧される中型海棲哺乳類ジュゴン(Dugong dugon)の環境 DNA分析による分布調査を可能にすべく、ジュゴン由来の DNAを特異的に検出する PCRプライマーセットの開発を試みた。データベース上の DNA配列情報をもとにジュゴンに特異的な配列にプライマーセットを設計し(チトクロム b領域、増幅産物長: 138 bp)、プライマーセットの有効性と特異性を鳥羽水族館の展示水槽で飼育されているジュゴンの組織片(毛根)、糞、飼育水、および近縁種アフリカマナティーの飼育水を用いて確認した。SYBR-Green法を用いた定量 PCRの結果、ジュゴン飼育個体の毛根、糞、飼育水から抽出した DNAは、設計したプライマーセットによって増幅が確認された。ジュゴンの人工合成 DNAは、ウェルあたり 1コピーの条件でも検出可能であった。一方、アフリカマナティーの飼育水から抽出した DNAおよびアフリカマナティーの人工合成 DNAは、増幅が見られなかった。すなわち、このプライマーセットを用いたジュゴンの DNA検出系が、ジュゴンの糞や生息場所の水に対して有効である一方、近縁種が共存していることで生じうる偽陽性は否定できた。これらの結果より、試料保存や多地点同時調査が容易な環境 DNA分析を従来の目視調査と効果的に組み合わせて、ジュゴンの生活範囲をより詳細に確認することが望まれる。
著者
赤松 良久 後藤 益滋 乾 隆帝 山中 裕樹 小室 隆 河野 誉仁
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-8, 2018-07-28 (Released:2018-09-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3

ヌートリアは,西日本の本州・四国に定着した特定外来生物に指定されている哺乳類であり,生態系保全・河川管理の両面から,効率的に侵入を防止し,防除方法を確立することが望まれている.そのためには,簡易かつ有効的な侵入モニタリング方法の確立,さらには,好適な生息環境を明らかにする必要がある.そこで,本研究では,環境 DNA 分析を用いることにより,山口県広域における分布状況を明らかにし,さらに,GIS を用いてヌートリアの生息適地を明らかにするとともに,分布予測モデルを用いた潜在的生息地の推定をおこなった.その結果,山口県においては,既に県内の広域にヌートリアの分布が拡大していること,そして,流域特性に関係なく,県内の河川の中下流域で侵入・定着のリスクあることが示された.
著者
渡邉 崚 中尾 航平 平石 優美子 釣 健司 山中 裕樹 遊磨 正秀 丸山 敦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.279-293, 2021-02-28 (Released:2021-04-06)
参考文献数
31

ゲンジボタル(Luciola cruciata)は,観光資源や環境指標種として注目されるが,近年,都市化などの人為的影響や大規模な出水による攪乱で個体数は減少しているとされる.保全に不可欠なゲンジボタルの個体数調査は,成虫を目視計数することが多く,幼虫の捕獲調査は破壊的であるため避けられている.本研究では,環境 DNA 分析用の種特異的なプライマーセットを設計し,野外でのゲンジボタル幼虫の定量の可否を検証することで,幼虫の非破壊的な定量調査を提案する.さらに,ゲンジボタルの個体群サイズを制限するイベントを探索することが可能か否かを検証する第一歩として,前世代と同世代の成虫個体数を同地点で計数し,環境 DNA 濃度との関係も調べた.データベースの DNA 配列情報を基に,ゲンジボタルの DNA のみを種特異的に増幅させる非定量プライマーセットⅠ,定量プライマー・プローブセットⅡを設計した.種特異性は,当該種ゲンジボタルおよび最近縁種ヘイケボタルの肉片から抽出した DNA で確認された.定量性は,両種を模した人工合成 DNA の希釈系列に対する定量 PCR によって確認された.プライマー・プローブセットⅡが野外にも適用可能かを確認すべく,2018 年 11 月に野外で採取された環境水に由来する環境 DNA 試料に対して定量 PCR を行った.その結果,環境 DNA 濃度と同時期に捕獲された幼虫個体数との間には正の関係が示された.最後に,幼虫捕獲数および環境 DNA 濃度,その前後の繁殖期の成虫個体数との関係を調べたところ,幼虫捕獲数と前後の成虫個体数には関係は得られなかった.一方,同時期の環境 DNA 濃度との間には負の関係すら得られた.これらの不一致は,長い幼虫期に個体数変動をもたらすイベントが存在することを示唆している.本研究は,野外において,ゲンジボタル幼虫の個体数と環境 DNA 濃度が正相関することを示した初の報告である.今後,幼虫期の定期モニタリングが可能となり,個体数変動を起こすイベントの探索が期待される