著者
遠藤 秀紀 川嶋 舟 堤 たか雄 佐々木 基樹 山際 大志郎 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1087-1091, s・iii, 1999-10
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

350年以上生態学的に隔離された可能性をもつ,皇居産のアズマモグラ集団の形態学的,および分子遺伝学的特質を把握するため,頭骨の骨計測学的検討を進め,ミトコンドリアDNAのチトクロームbおよび12SrRNA遺伝子の塩基配列を明らかにし,他のアズマモグラ集団およびサドモグラと比較した.頭骨の形態において,皇居産は,ほかの関東地区集団と比較して,大きなサイズをもつことが明らかになった.主成分分析においては,皇居集団が,関東地方産アズマモグラの大型タイプとして,ひとつのクラスターをつくる可能性が示された.しかし,これはアズマモグラの種内変異以上の分離ではないことが推測された.一方,皇居集団は,東京都日野市集団との間に,チトクロームb遺伝子の塩基配列においては98.5%,12SrRNA遺伝子では98.7%という高いホモロジーを示した.
著者
遠藤 秀紀 林 良博 山際 大志郎 鯉江 洋 山谷 吉樹 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.67-76, 2000-03
被引用文献数
1

太平洋戦争中の東京都によるいわゆる猛獣処分によって, 3頭のアジアゾウが殺処分となったことは, よく知られている。これら3頭のゾウに関しては, 東京大学や国立科学博物館などに遺体の一部が残されている可能性が示唆されていた。本研究では, 3頭のアジアゾウの遺体に関し, 文献と聞き取り調査を行うとともに, 関連が疑われる東京大学農学部収蔵の下顎骨に関しては, X線撮影による年齢査定を進めて処分個体との異同を検討した。その結果, 東京大学農学部に残された下顎骨は他個体のものである可能性が強く, 戦後発掘され国立科学博物館に移送された部分骨は標本化されなかったことが明らかになった。したがって, 東京都恩賜上野動物園に残る雄の切歯を除き, 該当する3頭の遺体は後世に残されることがなかったと判断された。また遺体から残された形態学的研究成果は, 剖検現場の懸命の努力を物語っていたが, 研究水準はけっして高いとはいえず, 十分な歴史的評価を与えることはできなかった。
著者
遠藤 秀紀 前田 誠司 山際 大志郎 九郎丸 正道 林 良博 服部 正策 黒澤 弥悦 田中 一栄
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.57-61, 1998-01-25
被引用文献数
7 10

リュウキュウイノシシ (Sus scrofa riukiuanus) の下顎骨の形態に関して, 奄美大島, 加計呂間島, 沖縄島, 石垣島, 西表島の5島間の島嶼間変異を明らかにするため, 骨計測学的検討を行った. 上記5島より得られた下顎骨の内, 成獣と判定された95例の標本を用い, 14の計測部位を採用して議論した. 下顎骨全長において, 石垣島産標本は, 西表島産より明らかに大きかった. また, これまで提唱されてきた下顎骨全長に関するクラインを, 沖縄島を含む南西諸島全体において認めることはできなかった. 下顎骨全長に対する各項目の割合から, 石垣島産および西表島産は, 他島嶼産に比較して, 下顎枝が側方に発達し, 下顎体が背腹方向に成長するという傾向が見られ, また奄美大島産においては, M_2からP_3までの臼歯長と下顎連合面長が短いことが明らかになった. 以上の結果から, イノシシは, 種内集団間の形態学的変異がきわめて多様な種であることが示唆され, いくつかの形質の相違のみで, 南西諸島産集団を日本本土産集団に対して独立した種のレベルで扱うことは適切でない, と結論できた. 今後蓄積される形態学的データを基に, 各島嶼集団の形態変異に関する適応的意義が検討され, 歴史時代における各集団のサイズとプロポーションの変化に関する考古学的解明が進むことが期待される.
著者
遠藤 秀紀 山際 大志郎 有嶋 和義 山本 雅子 佐々木 基樹 林 良博 神谷 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1137-1141, s・iv, 1999-10
被引用文献数
2 7

ガンジスカワイルカ(Platanista gangetica)は,ガンジス・ブラマプトラ川周辺の水系に限られて分布する,珍しいイルカである.同種は,原始的とされる形態学的形質が注目されてきたが,近年生息数を減らし,保護の必要性が指摘されている.筆者らは,東京大学総合研究博物館に収蔵されてきた世界的に貴重な全身の液浸標本を利用して,気管と気管支の走行を,非破壊的に検討した.ガンジスカワイルカの気管は,右肺葉前部に向けて,気管の気管支を分岐させることが明らかとなった.MRIデータにおいては,気管の気管支と左右の気管支の計3気道が,胸腔前方において並列する像が確認された.原始的鯨類とされるカワイルカで気管の気管支が確認されることは,鯨類と偶蹄類の進化学的類縁性を示唆している.一方で,左気管支は右気管支より太く発達していた.気管の気管支によって,右肺前葉に空気を供給する同種では,気管支のガス交換機能は,左側が右側より明らかに大きいことが示唆された.MRIによる非破壊的解剖学は,希少種の標本を活用して形態学的データの収集を可能にする,きわめて有効な手段として注目されよう.
著者
佐々木 基樹 遠藤 秀紀 山際 大志郎 高木 博隆 有嶋 和義 牧田 登之 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-14, s・iii, 2000-01
被引用文献数
3 8

ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の頭部は,ヒグマ(U. arctos)やジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)に比べて扁平で,体の大きさの割に小さいことはよく知られている.本研究では,ホッキョクグマとヒグマの頭部を解剖して咀嚼筋を調べた.さらに,ホッキョクグマ,ヒグマそしてジャイアントパンダの頭骨を比較検討した.ホッキョクグマの浅層咬筋の前腹側部は,折り重なった豊富な筋質であった.また,ホッキョクグマの側頭筋は,下顎骨筋突起の前縁を完全に覆っていたが,ヒグマの側頭筋は,筋突起前縁を完全には覆っていなかった.ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースは,ヒグマやジャイアントパンダに比べて狭かった.さらに,側頭筋の力に対する下顎のテコの効果は,ホッキョクグマが最も小さく,ジャイアントパンダが最も大きかった.これらの結果から,ホッキョクグマは,下顎骨筋突起の前縁を側頭筋で完全に覆うことによって,下顎の小さくなったテコの効果を補っていると考えられる.また,ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースが狭いことから,ホッキョクグマは,ヒグマ同様の開口を保つために豊富な筋質の浅層咬筋前腹側部を保有していると推測される.本研究では,ホッキョクグマが,頭骨形態の変化に伴う咀嚼機能の低下を,咀嚼筋の形態を適応させることによって補っていることが示唆された.