著者
チャン ミン ハイ 岩元 泉
出版者
日本農業市場学会
雑誌
農業市場研究 (ISSN:1341934X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.31-39, 2014-09-30

ベトナムの農協は1954年の設立以来紆余曲折を経てきている。1975年までは北ベトナムでソビエト型の合作社として展開してきた。1975年から1995年まで南北ベトナムに拡大してきたが、ほとんどが失敗に終わっている。この段階までを旧農協という。1996年に初めて協同組合法が成立し、それ以降に設立された農協を新農協という。旧農協も新農協もその後再編されたところが多い。本稿では1996年の協同組合法制定後のベトナム農協が直面している課題と困難について、協同組合を取り巻くマクロ環境、ミクロ環境、内部環境の三つの局面について検討した。考察の結果は以下のようにまとめられる。第一に、協同組合法制定後、マクロ環境レベルでは農協は加盟脱退の自由、民主的公平な管理と透明性、自己責任と相互扶助、地域の協力と発展という原則のもと、国会と政府は農協の発展を数多くの政策や決定によって支援した。ミクロ環境レベルでは、農民の農協への加入率は向上し、ベトナム農協は活動を多角化し、多くの利益を組合員、非組合員にもたらした。内部環境レベルでは農協の収益も改善し、小規模農協は合併し組合員を拡大し、経営管理も改善された。第二に、一方でベトナム農協は協同組合法制定後多くの困難に直面している。マクロ環境レベルでは協同組合法は2003年と2012年に改正されたがICA原則と一致していない面がある。また改善策は財政的基盤を伴っていない。また旧農協の負債も名目評価と異なっており多額の負債を抱え、旧農協への不信感も農協発展の阻害要因となっている。また、ベトナムでは農協を監督する部署が投資計画省、ベトナム農協連合、農業・農村開発省にまたがっており、役割分担が明確でない。ミクロ環境レベルでは農民の加入率が低いことが問題である。また農家グループや農業関連産業との競争力も弱い。内部環境レベルでは農協の役員の管理能力が低いことが問題である。教育水準が低いため、能力や知識に欠けている。技術者も少ないため農家の要求に応えられていない。また農協の財政基盤・資金の弱さも問題である。このように協同組合法制定後、ベトナム農協は多くの課題と困難に直面してきた。南北農協が抱える課題も大きく異っている。多くの農協がミクロ環境レベル、内部環境レベルで困難に直面している。しかし、最も根本的な問題はマクロ環境レベルの法律や制度の曖昧さ、財政的支援の弱さ、および国家レベルの主導の不明確さにあることが明らかとなった。
著者
岩元 泉
出版者
日本農業経営学会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.9-19, 2013-03-25 (Released:2015-05-25)

Japanese farming entities were characterized as family farms for a long time. Recently, however, family farms are relativized in the context of the diversification of types of farming entities. The definition of family farms has become vague despite agricultural policies to promote the establishment of vital family farms as a new structural policy target. We can observe the polarization of farming entities ranging from large scale farm businesses to small and rather small scale family farms throughout the world. In this symposium, we discussed first the changing internal and external factors of Japanese family farms. Second, we pointed out the roles and significance of family to farming business. Third, several features regarding the future of Japanese family farm are argued. Fourth, we presented the problems of family farms in a globalized economy.
著者
徐 屹暉 岩元 泉
出版者
鹿児島大學農學部
雑誌
鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.63, pp.1-12, 2013-03

近年,中国当局は頻発した食中毒や残留農薬などの問題を非常に重視し,環境の質と食品の安全の向上を重要な政策に位置づけ,全国で「無公害・緑色食品,有機食品」の推進政策を実施している。それに伴い,中国の有機農業の進展が加速され,特に,沿岸部及び内陸大都市部で有機農産物需要が高まりをみせている。とりわけ富裕層,及び健康関心層の有機農産物への需要が高まりつつあることで国内市場が成長し,それが現時点の有機ブームになっている。本研究では,中国有機農業の発展にともなう有機認証システムの構築についての整理し,有機認証機関の役割について明らかにする。とくに,中国においては二つの国家レベルの有機認証機関が設立されており,近年は国内向けの有機認証機関と輸出するための外国向けの有機認証機関が分かれており,認証対象についても各々明確に仕分けが行われ,それぞれの役割を果たしていると言われているが,その実態を明らかにする。
著者
ローシュングリ アブリミテイ 岩元 泉 坂爪 浩史 高梨子 文恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.37-53, 2005-03-01

現在,新彊ウイグル自治区の農村女性において教育レベルの格差が拡大している。そこで我々は農村地域における女性の教育レベルの現状,および低学歴が家庭経済状況とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的として,トルファン市ヤル村およびウルムチ県三坪農場の2つの地域で調査研究を行った.この2つの村で調査した結果,ウイグル農村女性においては教育機会が乏しく依然として低学歴状態に置かれていることが分かった.また,伝統的慣習による早婚の傾向,早婚による離婚,さらに低学歴に深い相関関係が見られた.これらは低い経済生活水準とも相まって,悪循環に陥っている.しかし次第に女性の収入が世帯の収入に寄与する割合も高くなってきている.経済的収入機会を増やすことが農村女性の地位向上には重要であることが明らかになった.
著者
木下 謙治 山下 祐介 吉良 伸一 坂本 喜久雄 米澤 和彦 篠原 隆弘 岩元 泉
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1. 九州の農業は、国内での農業生産のシェアを伸ばし、生産額も全国平均をかなり上回る数値をあげてきた。しかし、農外所得が低いために、農家所得は都府県平均の8割程度にとどまっている。2. 九州の各地で、佐賀県の代表的な水田地帯のようなところまで含めて、有力な専業農家は稲作への依存度を低めている。土地利用型農業の衰退化といえるが、それとともに、水田を如何に維持してゆくかが大きな問題となってきている。集落営農、機械共同利用組合、農作業センターなど様々な共同が必要となってきている。3. 南九州を中心とする畑作地帯では、茶、疏采園芸、花卉、畜産など多様な生産活動が展開しており、水田地帯よりも見通しは明るい。畑作地帯が有望となってきた背景には畑地潅漑が進展してきたことが大きい。いっそうの潅漑施設の整備が望まれる。゛4. 中山間地の農林業については、大分県上津江村でみたように、複雑な山間立地にみあった複合経営が必須である。そして、それを補うものとして、地場産業起こしが必要である。いわゆる、官民一体の地域づくりの運動の中に農林業を位置づけねばならない。5. 九州の農業を担っている中核的農家は、直系的家族である。家的な構成は、やはり、農家では今後とも維持されてゆくであろう。家=家父長制と考える必要はない。21世紀においても、農業の中心的な担い手は農家であると思われる。6. グローバルにみれば、九州農業は、日本農業と同じく零細な小農経営にとどまっている。むらに関わる共同は、なお、必要である。しかし、自治組織と生産組織との乖離は進んでいる。新しい農村コミュニティの形成も視野にいれなければならない。