著者
鈴木 康行 金井 章 石川 敬 鈴木 美好 松原 美保 山口 通孝
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第24回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O001, 2008 (Released:2008-12-09)

【目的】 股関節疾患では,股関節外転筋筋力低下によるTrendelenburg跛行やそれに伴う日常生活活動能力低下がしばしば大きな問題となる.そのため股関節疾患に対するリハビリテーションでは,open kinetic chain(以下OKC)での外転反復運動や異常歩行を防ぐために歩行を前提としたclosed kinetic chain(以下CKC)での荷重負荷を伴う運動などが用いられている.しかし,OKCトレーニングは股関節外転筋に関してはオーバーロードの原則を満たすものの,特異性の原則を満たす運動ではない.そこで今回我々は,CKCでの股関節外転筋活動に焦点を当てた運動として,横歩きに着目し,股関節外転モーメントおよび中殿筋活動を,歩行と比較・検証したので報告する. 【方法】 対象は,整形外科的疾患・神経学的疾患の既往のない健常男性8名(年齢19.6±0.7歳,身長169.8±3.4cm,体重63.6±9.0kg)とした.被験者には本研究の趣旨を十分に説明し,参加への同意を得て行った.被験者は,床に記した50cm間隔の線を踏むようにさせ,裸足にて10mの歩行路を歩行した.歩行課題は,歩行と横歩きとし,歩行率はメトロノームにて110 steps/minに統一して各3回計測した.横歩きは,すべて左方向に行い,左右の下肢について検討した.関節モーメントは,三次元動作解析装置VICON MX (VICON社製)と3枚のフォースプレート(AMTI社製)を用いて測定した.筋活動は,表面筋電計TELEMYO2400TG2(NORAXON社製)を用いて,中殿筋・長内転筋について計測し,平均振幅の最大収縮時に対する割合を算出した. 【結果】 股関節外転モーメントは,歩行時に比べ横歩き時の方が左右ともに有意に低い値となった.中殿筋活動は,左右の立脚相・遊脚相ともに横歩き時で有意に高値を示した.また,長内転筋活動は左右の立脚相・遊脚相ともに,横歩き時に有意に低値を示した. 【考察】 歩行に比べ,横歩きの方が中殿筋活動は有意に高値を示し,股関節外転モーメントは有意に低値を示したことから,横歩きは股関節に対して低負荷で中殿筋筋力増強できる運動方法であると考えられた.また横歩きでは,左側が立脚相で内転運動となり,右側で外転運動となっていたことから,中殿筋の求心性収縮・遠心性収縮をより意識したトレーニングになると考えられた.今後は,より効果的な運動方法を探るために,歩行率を変え中殿筋活動・股関節外転モーメントはどのように変化するのか研究していきたい.
著者
村澤 実香 金井 章 今泉 史生 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1788, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】スポーツ場面における重篤な外傷の一つとしてあげられる前十字靭帯損傷(以下,ACL損傷)の発生率は女性では男性に比べ2から8倍高いといわれている。女性に多い理由として,Q-angleが大きい,全身弛緩性を有する者が多い,膝外反位を呈するものが多いことなどが報告されている。受傷機転には,ジャンプ着地動作,減速動作,カッティング動作などが指摘されている。その中でもジャンプ着地動作において,Noyesらはドロップジャンプテスト(以下DJT)では,女性において股関節内転,膝関節外反角度が増加したと報告しているが性差による動作パターンの影響についての検討はなされていない。そこで本研究では,DJT着地時における下腿内側傾斜角度に性差が及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名(男性16名,女性24名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。DJTは,高さ30cmの台から前方に飛び降り,両脚での着地後に両手を振り上げ真上にジャンプし,再び着地し立位姿勢となるまでの動作とした。計測は測定前に充分練習した後3回施行し,台から飛び降りた際の着地時における左膝関節最大屈曲時を解析対象とした。真上にジャンプできなかったり,着地後にバランスを崩した場合は再度測定を行なった。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,関節角度,下腿内側傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜),関節モーメント,足圧中心,床反力,上前腸骨間距離,重心の高さを算出した。関節モーメントは得られた値を体重で除し,上前腸骨間距離と重心の高さは得られた値を身長で除して正規化した。筋力は股関節屈曲,伸展,外転,内転,膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性最大筋力を測定した。筋力は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用いて計測し,得られた値を体重で除して正規化した。統計学的手法は対応のないt検定を用いた。【結果】男女の比較では(男性群,女性群),下腿内側傾斜角度(-1.7±3.9,8.2±5.6°),上前腸骨間距離(0.15±0.1,0.16±0.1mm/cm,),骨盤前傾角度(12.1±7.0,19.6±7.8°),股関節内転モーメント(0.7±2.2,4.5±4.4 Nm/kg),重心の高さ(3.6±0.4,3.9±0.2mm/cm)が女性群で有意(P<0.05)に高値を示した。脊柱屈曲角度(27.5±11.9,12.2±11.7°),胸郭前傾角度(40.0±14.0,31.8±9.5°),股関節外転角度(-5.1±3.5,-0.3±5.7°),足部外転角度(7.0±4.1,-1.3±4.4°)が男性群で有意に高値を示した。筋力(N/kg)は,股関節伸展(5.6±1.2,5.0±1.2),股関節外転(4.4±0.9,3.6±0.9),股関節内転(4.2±1.0,3.3±1.1),膝関節屈曲(1.5±0.2,1.0±0.2),膝関節伸展(2.9±0.5,2.5±0.5),足関節背屈(3.1±0.6,2.6±0.5),足関節底屈(8.7±1.8,7.0±1.3)の各筋力が男性群で有意(P<0.05)に高値を示した。【考察】女性は男性に比べて骨盤前傾角度が有意に高値を示し,脊柱屈曲,胸郭前傾角度が有意に低値を示した。一般的には,ジャンプ跳躍高を上げるためには,重心位置を低くする必要があるが,今回女性は男性と比較して重心位置は有意に高くなっていた。このことは女性は男性と比較し,股関節屈曲筋力以外の下肢筋力が有意に低値を示していたことから,重心位置を低くすることが困難であるためと考えられた。そのため,骨盤前傾角度を増加して,大殿筋とハムストリングスの張力を高めジャンプ跳躍動作に対応していると考えられた。また女性において,股関節内転モーメントが有意に高値を示したのは,上前腸骨間距離で表される骨盤幅の広さが要因と考えられ,それに伴い下腿内側傾斜角度も増加したと考えられた。そのため着地時には下腿内側傾斜角度を軽減させるために股関節外転角度を増加させ,床反力が股関節中心の近くを通るような着地を指導する事が予防において重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】DJT着地時における性差が下腿内側傾斜角度に及ぼす影響を検討することにより,ACL損傷の予防の一助となることが考えられた。
著者
今泉 史生 金井 章 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 村澤 実香 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0342, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
著者
今泉 史生 金井 章 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 村澤 実香 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
著者
木村 宏樹 元田 英一 鈴木 康雄 金井 章 吉倉 孝則 種田 裕也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.225-232, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
19
被引用文献数
1

前十字靱帯(ACL)再建術術後の大腿四頭筋筋力訓練の一つにレッグプレス運動がある.本研究では,レッグプレス運 動において,姿勢の違いがACL にかかる負荷である脛骨引き出し力や筋張力に与える影響について考察した.矢状面から動作計測を行い,下肢関節角度と足部に作用する反力から筋骨格モデルを用いて脛骨引き出し力や筋張力を推定した.11 種の姿勢について検討した結果,脛骨へは常に後方引き出し力が作用しACL 再建術術後の大腿四頭筋筋力訓練としてレッグプレス運動は安全であること,体幹を屈曲させることでより大きな後方引き出し力が作用しより安全に行えることが示唆された.
著者
金井 章 渡辺 さつき 小林 小綾香 大瀬 恵子 植田 和也 後藤 寛司 森田 せつ子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0453-Ab0453, 2012

【目的】 妊婦は、その経過とともに外力の影響を受けやすくなり、子宮破裂、常位胎盤早期剥離、後腹膜血腫などが生じやすい。そのため、災害時における外傷の予防には非常に注意を要する。特に、大規模地震の頻発する本邦では、地震時における妊婦の安全確保のための対策は非常に重要であるにもかかわらず、震災時の妊婦被災状況は明らかになっていないのが実情である。また、2007年より緊急地震速報の運用が始まったことで、数秒から数十秒前に揺れへの対応を取ることが可能となったものの、妊婦のサポートについて十分な検討は行われていない。そこで、妊婦における地震の揺れに備えるための安全な姿勢を検討することを目的として、揺れによる身体への外力の程度について検証した。【方法】 対象は、妊娠経験のある健常女性19名(平均年齢33.4±3.2歳、平均体重54.2±8.1kg、平均身長160.0±4.7cm)とした。被験者は、妊婦を模擬するための妊婦体験ジャケットLM-054(高研社製、重量7.2kg、妊娠8ヶ月から9ヶ月に相当)を装着・非装着の状態とし、起震車(カバヤシステムマシナリー社製)を用いて震度5弱の揺れにより身体へ加わる力を加速度計(WWA-006:ワイヤレステクノロジー社製)を用いて計測した。加速度計のサンプリング周波数は200Hzとし、左右の上後腸骨棘中央に装着した。振動時間は15秒で、中間10秒間について、3軸方向の合成加速度を解析した。計測姿勢は、揺れに備える姿勢として姿勢1:かがむ、姿勢2:膝をついてかがむ、姿勢3:お尻をついてかがむ、姿勢4:四つん這い、姿勢5:四つん這いで頭と胸を床に近づける、姿勢6:机を支えにした立位、姿勢7:壁を支えにした立位の7姿勢とした。得られた結果から、ジャケット装着の有無による差を対応のあるt検定で、姿勢による差を分散分析にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者へは本研究について説明し、研究への参加承諾を得た。また、本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認を受け実施した。【結果】 平均加速度・最大加速度(単位;mG)は、ジャケット無しで姿勢1:211.6±90.5・497.1±86.3、姿勢2:234.5±99.8 ・566.4±144.7 、姿勢3:295.4±132.2 ・712.4±198.5 、姿勢4:209.5±88.7 ・503.4±149.7 、姿勢5:235.7±98.6 ・584.7±152.0 、姿勢6:248.0±121.6 ・657.6±127.9 、姿勢7:301.2±145.9・789.9±125.3 であった。ジャケット有りでは、姿勢1:200.4±79.0 ・447.1±75.0 、姿勢2:220.4±88.6 ・544.4±131.5 、姿勢3:252.8±109.4 ・607.4±110.5 、姿勢4:169.5±72.6 ・403.4±70.2 、姿勢5:219.0±89.8 ・526.1±61.7 、姿勢6:193.0±98.9 ・544.6±73.5 、姿勢7:225.0±111.8 ・586.6±102.3 であった。両群ともに、姿勢4が最も低い値を示し、ジャケット無しに比べジャケット有りで低い値を示していた。【考察】 妊婦では、平均11kgの体重増加が起こり、腹部と乳房が前方にせり出してくるため、身体重心位置が変化する。また、ホルモン環境の変化により関節が柔らかくなり、可動域が増大するため、立位姿勢が不安定となり、日常生活における種々の動作も制限される。このような状況の中で、地震時に揺れに対応するための、身体へ負担の少ない待機姿勢をとることは非常に重要である。今回の結果では、四つん這いが最も腰部への加速度は低く、負担の少ない姿勢であることが確認された。これは、四つん這いは支持基底面が広く安定した姿勢であり、腰部は揺れを生じている床の部分から一定の距離をとり、上下肢により体幹重量による慣性を利用して揺れを軽減させることができるためであると考えられた。一方で、床におしりをついてかがむ姿勢は最も大きな加速度を示していた。これは、揺れを生じている床の部分から臀部へ直接外力が伝わるため、その影響を受け易い姿勢であると考えられる。また、ジャケット無しに比べ有りで加速度が低くなっていたのは、ジャッケットによる身体重量の増加に伴う慣性力の増加効果によるものと考えられる。ただし、身体状況の変化や、その後の動作への影響などでは不利となることから、さらに検討が必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 妊婦の揺れに備えるための適切な待機姿勢を明確にすることで、震災時の妊婦外傷を予防することができ、震災に対する不安感を軽減することができる。
著者
越智 亮 坂野 裕洋 金井 章 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.427-432, 2006 (Released:2007-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

立位で頚部に振動刺激を与えると,頚部固有受容器からの感覚変化が生じることで頭部位置の混乱を引き起こし,自己中心参照枠が変更され,姿勢変化が生じるとされている。本研究の目的は,健常者を対象に頚部振動刺激の介入を行い,その残存効果によって起立動作の身体重心変位が生じるかどうか,被験者の内省報告と三次元動作解析装置,および床反力計を用いて検証することである。計測は,座位で頚部後方へ振動刺激を1分間与え,被験者に頚部前屈の運動錯覚を生じさせた後,起立動作とそれに伴う重心変位を記録した。その結果,起立動作における重心位置の前方変位が生じ,さらに6分後までその重心前方変位が確認された。振動刺激によって誘発される,頚部固有受容器からの継続された感覚変化が起立動作後の重心位置に影響を及ぼすと結論した。
著者
岩月 宏泰 室賀 辰夫 木山 喬博 金井 章 石川 敬 篠田 規公雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.41-44, 1991-01-10
被引用文献数
2

骨格筋を強制振動すると緊張性振動反射(TVR)により拮抗筋の筋活動が低下する。そこで健常者を対象として, TVR用の加振器を用いて5種類の周波数(40, 60, 80, 100, 120Hz)で振動した際と停止後の拮抗筋の運動ニューロンの興奮性(H反射)を経時的にとらえ, 振動周波数の変動による拮抗筋の筋緊張抑制の影響について検討した。結果:(1)H反射振幅の抑制は振動周波数により振動開始5秒後で約55〜69%, 30秒後で約80〜90%と異なったが, その後2分まで最初の抑制と殆ど変化を認めなかった。(2)振動停止直後からH反射振幅は振動前の約50〜80%まで回復し, 約1分で40Hzは約83%まで回復し, 他の周波数では振動前に戻った。以上のことから, 振動刺激を拮抗筋の筋緊張の抑制として利用する際には, 40Hz近傍の周波数が有効であることが認められた。
著者
渡辺 さつき 森田 せつ子 金井 章 野口 眞弓 稲垣 恵美 竹中 美 水野 妙子 西川 浩昭 高見 精一郎 奥村 潤子 小林 小綾香 大瀬 恵子 植田 和也
出版者
豊橋創造大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

妊婦が耐震性のある建物の中で緊急地震速報を見聞きしたと仮定し、揺れに備える7つの姿勢を実際にとってもらった。各姿勢において安定感・移動のしやすさ・実施可能性について妊婦へ質問紙調査を行った。285名の結果から、安定感は、お尻をついてかがむであり、避難行動への移りやすさは、立ったまま机を支えにする、実施可能性は、膝をついてかがむ姿勢であった。起震車を用いた模擬妊婦の実験では、四つん這いの姿勢が、腰部の加速度は低く、負担の少ない姿勢であることが示唆された。