著者
山田 恭嗣 黒田 雄大 山本 つかさ 西尾 悠誠 山田 チズ子 小林 満利子 森嶋 康之 前田 健
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.e62-e68, 2022 (Released:2022-04-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1

12歳の室内飼育猫が,くしゃみ,膿性鼻汁及び咳などの呼吸器症状を呈していたため,発症5日目に口腔スワブを採取し,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の遺伝子検査を実施した.その結果,SARS-CoV-2遺伝子が検出された.発症8日目に症状が悪化したため,当院にて一般身体検査,血液検査,胸部X線検査及び治療を行った.飼い猫には軽度の気管支炎と血清アミロイドA(SAA)の増加が認められたが,肺炎には至っていなかった.また,口腔内,鼻腔内及び肛門内のスワブを採取し,得られたサンプルの全ゲノム解析を行った結果,SARS-CoV-2デルタ株に感染していたことが明らかになった.その後猫は回復し,回復後の血清に有意なSARS-CoV-2中和抗体価の上昇が観察された.本症例は,SARS-CoV-2感染により呼吸器症状を呈した国内最初の動物の報告である.
著者
山本 徳栄 近 真理奈 伊佐 拓也 根岸 努 森 芳紀 前野 直弘 小山 雅也 森嶋 康之
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.493-499, 2017-09-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
17

2008年1月から2016年11月の期間中,埼玉県動物指導センターに収容されたイヌとネコから直腸便を採取し,腸管寄生虫類の検索を行った。イヌは1,290頭中296頭(23.0%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はイヌ鞭虫(15.0%),イヌ鉤虫(6.4%),イヌ回虫(2.1%),イヌ小回虫(0.2%),マンソン裂頭条虫(2.0%),瓜実条虫(0.2%),日本海裂頭条虫(0.1%),縮小条虫(0.1%),Isospora ohioensis(1.3%),ランブル鞭毛虫(0.5%),Cryptosporidium canis(0.5%),腸トリコモナス(0.2%)およびIsospora canis(0.1%)であった。ネコは422頭中216頭(51.2%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はネコ鉤虫(25.1%),ネコ回虫(17.8%),毛細線虫類(1.7%),マンソン裂頭条虫(18.2%),瓜実条虫(1.9%),テニア科条虫(0.5%),壺形吸虫(6.9%),Isospora felis(5.2%),Isospora rivolta(1.4%),Cryptosporidium felis(0.7%)およびToxoplasma gondii(0.2%)であった。また,2000年4月から2015年10月の期間中,同施設に収容されたネコから採血し,T. gondiiに対する血清抗体価を測定した。ネコにおけるトキソプラズマ血清抗体は,1,435頭中75頭(5.2%)が陽性であった。
著者
杉山 広 森嶋 康之 亀岡 洋祐 荒川 京子 川中 正憲
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.927-931, 2004-08-25
被引用文献数
7

関東地方における大平肺吸虫陽性カニの検出は,千葉県内を流れて太平洋に注ぐ河川に限られていた.そこで埼玉県・東京都を流れて東京湾に注ぐ荒川を選び,下流にある東京都の7つの区に12の調査地区を定めて,カニの採集と肺吸虫の検出を試みた.その結果,検査したクロベンケイガニ922匹のうち177匹(19%)から肺吸虫メタセルカリアが検出された.寄生率は葛飾区四ツ木地区が最多(89%)で,陽性カニ1匹当たりのメタセルカリアの平均寄生数(32.9個),および最大寄生数(190個)も最多を示した.メタセルカリアは楕円形を呈するものが大部分で,大きさ(内嚢の外径)は302μm×232μm(50個の平均値),口吸盤背縁に穿棘を,体肉内に赤色顆粒を認めた.試験感染ラットから得た成虫は,卵巣が複雑に分岐し,皮棘は群生していた.このようなメタセルカリアと成虫の形態学的特徴から,虫体を大平肺吸虫と同定した.メタセルカリアを検索材材料として得たリボソームDNA・ITS2領域の塩基配列からも,この結論が支持された.カニからの大平肺吸虫メタセルカリアの検出は,東京都ではこれが初めての報告となる.
著者
土井 陸雄 伊藤 亮 山崎 浩 森嶋 康之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1066-1078, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
78
被引用文献数
1

目的 わが国における単包虫症(単包性エキノコックス症)患者発生の歴史を検討し,その発生要因,予防対策,臨床的対策を検討する。方法 既刊の関係論文・抄録,医学中央雑誌,病理剖検輯報,感染症発生動向調査週報,と畜関連法規,日本帝国統計年鑑,食肉文化・皮革およびと畜場の歴史に関する資料を原資料として,単包虫症患者の発生動向を把握し,畜産,と畜関連法規およびと畜場管理の実態との関係を考察した。結果 わが国における単包虫症患者発生76例を確認した。患者発生は屠場法施行を境として大きく 2 時期に分かれ,屠場法以前には九州,四国,中国地方を中心に単包条虫の感染環が存在していたこと,またそれが軍備増強のための畜産奨励や日清・日露戦争を始めとする中国大陸との人的物的交流と深く関係していたこと,次に屠場法施行後,と畜場衛生管理の整備と不衛生な小規模と畜場の整理統合が行われ,日本国内における患者発生が激減したことなどが示唆された。ただし,この時期に中間宿主(牛およびヒト)からは単包虫症が発見されているが,終宿主(犬)から単包条虫を検出した報告がないため,屠場法施行が単包虫症患者発生減少の原因となったことを示す科学的実証はない。戦後も一時的に国内感染と思われる少数の単包虫症患者発生はあるが,近年は患者の大部分が海外の単包虫症流行域に滞在したことのある日本人および外国人である。結論 単包条虫の感染環を駆逐し,ヒト患者発生を予防するには,と畜場の衛生管理がとくに重要である。近年の海外流行国からの来日外国人の発症に対しては,検査機関の整備と医療情報の周知が重要である。また,海外の流行国から無検疫で輸入されている畜犬に対してエキノコックス検疫体制の整備が急務である。
著者
杉山 広 森嶋 康之 賀川 千里 荒木 潤 巖城 隆 小松 謙之 味口 裕仁 生野 博 川上 泰 朝倉 宏
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.103-108, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
20
被引用文献数
2

回虫は土壌伝播蠕虫の代表となる寄生虫で,ヒトは虫卵に汚染された植物性食品を摂食して感染する.日本では少数の国内感染症例が継続的に報告されているが,症例数の推移や感染源となる植物性食品の汚染状況は不明な点が多い.そこで,近年の回虫症例発生状況および感染源を明らかにするため,日本臨床寄生虫学会誌,PubMedおよび医中誌Webを用いた文献検索,および臨床検査機関・食品検査機関を対象としたアンケートによる聞き取り調査を行った.文献検索の結果では,1990より2018年の29年間に計193例の回虫症例が確認された(年平均6.7例).しかし2002年以降の報告数は激減し,年平均1.3例にとどまった.臨床検体における回虫症例数も,2000から2008年の年平均19.7例が,2009年以降2.8例と激減した.回虫の感染源となる植物性食品は12,304検体が検査されたが,アニサキス類の幼虫が検出された(11例)ものの,回虫は検出されなかった.ただしキムチは,173検体中の1検体から虫卵が検出され,回虫の感染源であることが疑われた.回虫症例は減少傾向が明らかだが,いまだに発生は確認され,このために感染源を特定して予防対策を確立するために,食品の調査を今後も継続する必要があると考えられた.