著者
田中 秀明 井舟 正秀 石渡 利浩 川北 慎一郎 西願 司
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100594, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】臨床実習において,対象者との信頼関係や知識・技術向上のために理解しやすく円滑な実習が行えるよう対象者選定を行っている.学生のスキルにもよるが,理学療法プロセスを理解してもらうために経過が比較的安定している神経系・運動器障害を対象者とすることが多い現状がある.しかし,各施設の対象者としては内部障害が年々,増加している.また,神経系・運動器障害の対象者であっても,合併症として内部疾患を有しているケースは多々見られる.これからの理学療法士は施設の特徴もあるが,就職後すぐに内部障害を担当することも多くなってくると予想される.今回,当院での臨床実習で学生に内部障害対象者を担当してもらい,実習終了後に意識調査を実施し学習の効果について検討したので若干の考察を加えここに報告する.【方法】対象は,当院で臨床実習を行った学生10名(男性6名,女性4名)であった.実習内容についての大まかな流れについて説明する.対象者は実習期間中に退院でき,理学療法開始後早期の対象者を選定し説明と同意を得た上で学生が担当した.疾患は間質性肺炎,慢性閉塞性肺疾患,冠動脈バイパス手術後,慢性心不全急性増悪,急性呼吸窮迫症候群であった.指導内容は事前に電子カルテで疾患に対しての情報収集をし,病態の把握を行ってもらい医師に直接確認する場を設けた.収集した情報が的確であるか否かを指導者が確認し,不足している情報があれば修正し対象者の評価を行った.実習中では適宜,軌道修正を加え日々,変化する病態把握に対応した.全体像の把握してもらうために,退院の目途が立ち次第,家屋評価や介護保険の申請をし,退院後の生活支援にも関わった.また,症例に関わる文献抄読も行ってもらった.意識調査の方法は学校卒業後にアンケートを実施した.内容は(1)以前に内部障害を担当したことがあるか.(2)実習は学習になったか.(3)学校で習得した知識は生かせたか.(4)実習後の学習に役に立ったか.(5)内部障害に対する意識に変化はあったか.(6)今後も内部障害を担当したいか.(7)自由記載.以上の7項目についてアンケートを実施した.回答は,「はい」・「いいえ」・「どちらでもない」,その他自由記載とした.統計学的分析はKolmogorov-Smirnov検定を用い分析を行い,有意水準は5%とした.【説明と同意】倫理的配慮として,本研究の目的に対し十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.【結果】(1)「はい」0名,「いいえ」10名.(2)「はい」10名,「いいえ」0名.(3)「はい」1名,「いいえ」9名.(4)「はい」10名,「いいえ」0名.(5)「はい」9名,「いいえ」1名.(6)「はい」8名,「いいえ」1名,「どちらでもない」1名.(7)症例が少ないので見られてよかった,考え方の変化があった,実習を通して苦手意識が解消された,国家試験対策になった,座学でわからなかった内容が実践を通してわかりやすかった,血液データの読み方が難しかった,離床を進める上での患者のアセスメントが難しい,まずは脳血管や運動器障害を見たい,手技的なテクニックを身につけたいなどの回答が得られた.尚,統計学的分析の結果(2)は「いいえ」,それ以外の項目は「はい」の方で有意差を認めた(p<0.01).【考察】今回の結果から,内部障害を担当したことで興味を持ち,有益な学習ができたと考えた.各養成校では,カリキュラムで様々な工夫をして授業を行っている.循環器・呼吸・代謝系理学療法を独立した授業を行っている養成校もある.座学では知識を整理し学習することが困難との意見があった.充実した授業で得た知識を活用するためにも,臨床実習で学習することで,学生のスキルが向上し国家試験対策に繋がるものと考えた.離床する際やデータの読み方などは各症例に対しケースバイケースで考える必要があるため,難しいとは思うが,臨床実習を通して考え方を経験することが重要と考えた.一部の学生から学習にはなったが,まずは神経系・運動器障害の担当希望や徒手療法などのテクニックを習得したい意見もあった.当然,あってしかるべきであり研鑽してほしいと考えるが,全身状態を考えた時に理学療法を施行する上での阻害因子を十分考慮し,リスク管理のために学習してほしいと思う.指導者側では,以前からの実習スタイルがあり,学生のみの問題ではなく指導者が内部障害の理学療法プロセスを十分に指導ができないことも要因として挙げられるため指導方法を確立することが重要と考えた.【理学療法学研究としての意義】内部障害を臨床実習で担当し経験をすることで有益な学習ができた.今後,臨床実習での指導方法を確立していくことが重要であると考えた.
著者
喜多 大輔 東 壮太郎 川北 慎一郎 折笠 秀樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.355-361, 2019

<p><b>要旨</b>:【背景】石川県能登地区(人口21.1 万人)での脳卒中パスの登録病型と再登録パターンについて検討した.【結果】2008–2014 年の6 年間に4,179 件(男2,216,女性1,963,平均75.4 歳)の登録があった.病型別では,脳梗塞2,945,脳出血854,くも膜下出血283,その他・不明97 件であった.人口10 万人あたりの年間パス登録率は,男性369.5 人,女性293.7 人と国内の脳卒中発症率に近似していた.197 人で複数回登録があり,再登録率は1.39%/人・年(95% CI:1.20–1.58)であった.初回–2 回目の登録では,脳梗塞─脳梗塞は91%であったが,脳出血─脳出血は31%で,一致度は低かった.【結論】脳卒中発症を網羅するものではないが,パス登録結果の解析により地域での診療体制に有用な情報が得られる.また脳卒中の多くが,初回病型にかかわらず脳梗塞で再登録されることが示唆された.</p>
著者
藤井 亮嗣 井舟 正秀 石渡 利浩 上口 絵美 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1315, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】低酸素脳症は、窒息・呼吸不全・心不全などの種々の原因により発症し、運動障害、構音・嚥下障害、高次脳機能障害を生じる。今回、心室細動により低酸素脳症を発症した患者の理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】61才男性、平成17年3月呼吸停止・心室細動の状態でT病搬送される。すぐに蘇生し自発呼吸を認めるが低酸素脳症による意識障害JCS200を認めた。5月リハビリテーション(以下リハ)目的に当院へ転院、PT・OT・ST開始となる。【初期評価時】精神機能面:JCS3、失語、指示理解は不明。身体機能面:四肢麻痺Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)右上肢3手指2下肢2、左上肢4手指3下肢4。坐位保持困難、起居動作全介助。ADLはBarthel Index(以下BI)で0点、食事は経管栄養、排泄はおむつ内失禁。四肢ROMの維持、起居動作・移乗動作介助量軽減を目標にアプローチを行った。【経過】7月、坐位はポジショニングにて保持可能、起居動作・移乗動作中等度介助。右上下肢及び体幹に固縮様の筋緊張異常が認められ今後ROM制限が増悪しないよう注意を要した。ご家族に対して総合リハ実施計画書を説明し、今後の方針を相談した。キーパーソンは妻で今まで2人暮らしだったが長男夫婦がのちに同居予定。自宅退院するには身の回りのことがある程度できればという希望であった。8月上旬、急性冠症候群、呼吸停止状態にて発見される。ICUへ転室、異型狭心症と診断された。8月中旬リハ再開、身体機能及び能力に著変は認められなかった。12月、起き上がりは軽介助、いす座位は自立、移動は手つなぎ歩行。ADLはBIで30点、食事は時間がかかり介助が必要な状態であった。長男夫婦が同居することとなり、介護に協力してくれることとなる。正月外泊を行うにあたり、PT・OT・ST・NS・ケアで現状の能力の把握、必要な介助及び家族指導についてカンファレンスを行い各担当者で家族に対して介助方法の説明指導を行った。また家屋評価もPT・OT・ケア・MSWで行い、ご家族・建築業者と共に家屋改修について検討した。年末から年始にかけて外泊施行される。【退院時評価】精神機能面:指示理解の改善。身体機能面:BRS右上肢4手指4下肢4、左上肢5手指5下肢5。起居動作・移乗動作軽介助。ADLはBIにて35点、食事はほぼ自力摂取、排泄はオムツもしくは尿器で排泄、ほぼベット上の生活ではあるが平成18年3月下旬自宅退院となる。【まとめ】本症例では当初ご家族が希望された能力には至らなかった。しかし、各職種からの介助方法の指導、家屋改造等を行ったこと、息子夫婦の協力により、自宅介護が可能であることを認識してもらい、ご家族の希望より低いレベルではあったが自宅退院が可能となった。
著者
田中 秀明 井舟 正秀 諏訪 勝志 藤井 亮嗣 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2120, 2010

【はじめに】神経痛性筋萎縮症は急性の激痛で発症,痛みの消失とともに出現する(肩周囲の)弛緩性運動麻痺,多くが自然回復,の3つの特徴がある.本症はウイルス性の腕神経叢炎と言われているが現在の所,明確な病理学的裏づけがないのが現状である.臨床症状と他疾患の除外によって診断される「症候群」と考えるべきと言われている.今回,本症を経験する機会を得たので報告する.<BR>【症例紹介】50歳代男性,職業は事務職.左利き.<BR>【説明と同意】本人に説明を行い,本報告の同意を得た.<BR>【経過】1ヶ月前より発熱があり内科を受診.その2日後,左肩から上腕の疼痛あり,翌日には両前腕に疼痛が広がり,神経内科を受診。採血では炎症所見が認められ,RA疑いで整形外科へ紹介.整形外科ではRAは否定され,多発性筋痛症の疑いでリハビリテーション科へ紹介.両三角筋、棘上筋、棘下筋、左前腕筋などに著明な萎縮がみられ肩周囲の筋力はMMTで右3-レベル,左4レベル,握力は右18kg,左19kg,両肩に夜間痛,両上腕・前腕外側、母指・示指背側の感覚異常を認めた.関節可動域に関しては特に制限は認めなかった.車の運転やデスクワーク,更衣動作などに障害があった.針筋電図検査施行され右肩周囲と左前腕・手指筋にPSW,fbを認め神経原性筋萎縮症と診断された.以後,週1回来院し関節可動域運動,筋力維持・増強運動の自主練習内容の確認と評価を実施した.運動療法開始当初の目標は拘縮予防と筋力維持・増強とし,肩関節以外の上肢筋力運動,腱板の収縮が可能となり次第,セラバンドでの筋力強化を代償動作が入らない程度の回数で実施してもらった.また抗重力が不可能な時期は仰臥位、腹臥位で上肢の重力を除いた状態での三角筋を最大限に動かす運動を実施した.例としてテーブル上をバスタオル等で抵抗をなくしすべらせる方法での運動について指導した.2ヵ月後,握力は右25kg,左26kgに増加したが肩周囲に関しては症状の変化はほとんどなかった.6ヵ月後,握力は右27kg、左27kgと増加したが肩周囲の筋力に変化はなかった.感覚異常も左前腕は初期に比べ中等度まで,その他は軽度まで改善した.肩周囲の関節可動域に関しては若干制限を認めるも自己練習にて維持は出来ていた.10ヵ月後,左肩周囲の筋力は5レベルに改善,右も4レベルと抗重力運動が可能となり握力は左右30kg,感覚異常も左前腕は軽度まで軽減,その他はほぼ正常に改善した.筋力増強運動に関してはセラバンドの種類を変更し負荷を強めていった.1年後,握力は右37kg,左35kgと改善.感覚異常も左前腕に若干の違和感を残しその他は改善した.1年5ヵ月後,左41kgと改善,針筋電図施行され右肩周囲と左前腕・手指筋のPSW・fbの減少,polyNMU・NMUの出現を認め改善傾向と説明をうけた.左前腕の感覚異常は消失した.以後,経過観察必要なため定期的に来院している.<BR>【考察】神経痛性筋萎縮症の予後として90%以上が回復良好とされ1年以内36%,2年以内75%,3年以内89%と報告がある.少なくとも2年以上の長期観察が必要であるとされている.不全麻痺例や,完全麻痺であっても3ヶ月程度で正常にまで回復するものがあり,非変性型の神経障害も起こりうると推測される.一方,予後不良因子としては,痛みが長く持続・再燃するもの,障害範囲が広く腕神経叢全体と考えられるもの,下位神経根領域が主体のもの,3カ月以内に回復の徴候がないもの,などがあげられている.上位型の麻痺に比べて下位型の麻痺の回復が不良な理由について,障害部位から麻痺筋までの再生距離が長いことによって説明しようとする考えがある.発症後1-4週の早期に回復傾向が現れるものでは,予後は良いとされている.本症例においてはリハビリテーション科受診までに改善した部分はあったとのことで傾向は見られていた.その後,下位においては徐々に改善してきたが、上位は改善の傾向が見られるまでに1年近く時間を要した.理学療法としてはごく一般的な内容で自動運動が不可能な時期においては拘縮予防を中心に自己にて可能な上肢関節の他動運動,自動介助運動の指導を行い、自動運動が出現してくれば筋力増強運動を実施した.通院頻度は職業もあり頻回には来院できない為,的確な自己運動方法を指導することや,経過が長期にわたるため医師からのインフォームドコンセントや精神面でのフォロー,合併症予防につとめることが重要な要素であると考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】希少な症例の症候や治療内容を提示することで,疾患に対する理解やよりよい治療方法を確立することに意義があると思われた.今回の症例は,報告数の少ない症例で理学療法の介入点について更なる検討が必要と思われた.
著者
諏訪 勝志 藤井 亮嗣 井舟 正秀 坂井 志帆 伊達 真弥 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
日本理学療法学術大会 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0172-E0172, 2005

【はじめに】今回、転倒による入退院を繰り返し、転倒予防を目的に訪問リハを開始し、効果を認めた症例を経験したので、若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】女性、83歳。HDS-Rは24点で痴呆は認めないが、性格は、せっかちで他人の言うことはあまり聞き入れない。自分の歩行能力を理解しておらず、転倒に対する認識は低い。歩行能力は、入退院を繰り返したが、毎回退院時にはピックアップ歩行器自立レベルとなっていた。介護度は、要支援である。<BR>【転倒歴】平成9年に転倒により左大腿骨頚部骨折受傷する(他院で治療)。平成14年12月7日自宅にて転倒し、右大腿骨頚部外側骨折のため平成15年4月25日まで入院する。平成15年5月12日自宅トイレにて転倒し、右骨盤骨折のため9月16日まで入院する。平成16年1月1日ポータブルトイレ移乗時に転倒し、左骨盤骨折のため5月1日まで入院する。<BR>【家族構成】息子夫婦と3人暮らし。息子は、住職で日中家にいることは多いが、大学の臨時講師、文化教室などをしており多忙で介護をする気持ちはない。嫁はくも膜下出血後遺症のため、麻痺はないが失語症があり介護は困難な状態である。<BR>【家屋状況】最初の当院退院時(平成14年入院時)に家屋評価を行っている。家屋は、寺に隣接した住居で廊下は広く、敷居が多い。段差解消と手すり設置、家具・テーブルなどの位置変更をすすめるが、家族は拒否する。通所サービスの利用も拒否する。相談の結果、トイレの手すり設置と症例の居室の出入り口のみ段差解消を行う。家内の移動は、ピックアップ歩行器を使用し、夜間はポータブルトイレ使用とした。浴室に手すりはつけず、ホームヘルパーによる介助入浴を行うことになる。<BR>【訪問リハの内容】平成16年5月1日退院時にケアマネージャーと相談し、今後も転倒の危険性が高いことから、訪問リハによる転倒予防指導を家族に提案し、了解を得る。訓練内容は、下肢筋力強化と歩行訓練だが、毎回本人に対する転倒への注意と活動範囲での動作指導を徹底して行った。訪問頻度は、家族より限度額以内にしてほしいとの条件があり、週1回のヘルパー利用があるため、一月に1~2回となる。<BR>【考察】転倒を繰り返した原因として、本人・家族ともに転倒に対する認識が低く、本人のやりたいようにしていたこと、自宅改修による安全性向上ができなかったことが考えられた。その結果、転倒を繰り返したが、本人・家族ともに全く気にしていない状態であった。しかし、訪問リハ導入により、病院ではできなかった実際の生活場面での指導を継続して繰り返し行ったため、特に本人が転倒に少しずつ気をつけるようになってきた。その結果、訪問リハ開始となってから、現在まで転倒はなく、効果はでていると思われる。今後は、訪問リハの内容を検討しながら、フォローしていく必要性を感じています。