- 著者
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松尾 和人
川島 茂人
杜 明遠
斎藤 修
松井 正春
大津 和久
大黒 俊哉
松村 雄
三田村 強
- 出版者
- 農業環境技術研究所
- 雑誌
- 農業環境技術研究所報告 (ISSN:09119450)
- 巻号頁・発行日
- no.21, pp.41-73, 2002-03 (Released:2011-12-19)
Bt遺伝子組換えトウモロコシンは,1995年に米国で初めて商業用に登録された。その後,このBt遺伝子組換えトウモロコシは標的害虫であるアワノメイガなどに対して抵抗性を有するために,防除経費の削減,収量の増加,品質の向上など生産面での有利性があるために,米国を中心に年を追って作付け面積が拡大した。一方,わが国では遺伝子組換え作物の加工用および栽培用の種子輸入に当たって,食品としての安全性は厚生労働省が,飼料としての安全性および環境への安全性は農林水産省の確認が必要である。農林水産省による環境に対する安全性の確認は,隔離圃場において組換え作物の栽培・繁殖特性,越冬可能性,雑草化の可能性,近縁種との交雑可能性等について調査した結果に基づいて行われている。ところで,1999年に米国コーネル大学のLoseyら(1999)が,Bt遺伝子組換えトウモロコシの花粉が非標的昆虫のオオカバマダラの幼虫に悪影響をもたらす可能性があるという報告を行い,新しい環境影響として世界中に衝撃を与えた。しかし,彼らの報告は,幼虫に与えた花粉量や野外における葉上の花粉堆積の実態等について触れていなかったために,環境影響の有無や程度は不明であり,今後解明すべき課題として残された。日本においても,そのような観点から遺伝子組換え作物の環境影響評価を行う必要があるため,緊急にBt遺伝子組換えトウモロコシの環境影響評価に関する調査研究に取り組むこととなった。本研究では,Bt遺伝子組換えトウモロコシの花粉の飛散によるチョウなど鱗翅目昆虫に及ぼす影響を知るために,1)トウモロコシ圃場から飛散する花粉の実態調査とトウモロコシ圃場からの距離ごとの落下花粉密度の推定,2)幼虫が摂食して影響を受けるBt花粉の密度,3)Bt花粉中のBtトキシン含有量,4)環境変化に対して脆弱であると考えられる鱗翅目昆虫の希少種について,栽培圃場周辺に生息する可能性,Bt遺伝子組換えトウモロコシの開花時期と幼虫生育期との重なり,採餌行動など,総合的な知見に基づいてリスク評価を行い,同時に,花粉飛散に伴う生態系への影響評価のための各種手法を開発した。