著者
徳永 純
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.99-106, 2018-09-29 (Released:2019-08-01)
参考文献数
49

日本人高齢者には障害に対する否定的な考え方や差別意識があり、生存権に基づき療養環境を得るという意識が弱いことが指摘される。本稿では、戦後高度成長期に形成された労働思想がこうした価値観を形成する一因になったことを明らかにする。製造業が経済成長をけん引し、完全雇用が実現した当時の日本は、古典派経済学者リカードが理念的に描いた経済状態に近く、そこでは働く者こそが社会にとって有用であり、働かない者は差別されてしまう。古典派及びマルクス経済学では労働価値説が分析概念として用いられたが、同時に労働道徳を説く概念装置として機能した。日本ではこの規範概念が憲法や社会福祉政策の根幹に入り込み、生存権が勤労の義務を伴うものとして決定づけられ、伝統的な勤労思想と一体化して機能した。労働価値説が示してきた価値観は転換すべきであり、勤労の義務と生存権を明確に分離する政策的な方向付けが必要である。
著者
徳永 純一郎 延永 尚志 中谷 龍男 岩崎 徹 福田 和廣 國武 吉邦
出版者
The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers
雑誌
日本造船学会論文集 (ISSN:05148499)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.183, pp.45-52, 1998 (Released:2009-09-16)
参考文献数
7
被引用文献数
1 3

This paper proposes a new concept for the frictional drag reduction technique. The new technique makes use of a specific coating surface (Super-Water-Repellent Surface) which has a highly repellent effect and an ability to form a thin air film over it under water. When supplying a small amount of air to the specific coating surface from the outside continuously, the supplied air (secondary air) is absorbed in and joined with the primary air film and spread to form a filmy air flow along the surface. This technique reduces the frictional drag because of this phenomenon.A frictional drag test in the rectangular pipe flow and a resistance test of horizontal flat plate were carried out in order to verify the validity of this technique. As a result of these tests, it was confirmed that drag reductions of about 80% and about 55% were obtained for flow velocities of 4 m/s and 8 m/ s, respectively.
著者
筒井 幸 神林 崇 田中 恵子 朴 秀賢 伊東 若子 徳永 純 森 朱音 菱川 泰夫 清水 徹男 西野 精治
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-50, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
42

近年,統合失調症の初発を想定させる精神症状やジスキネジア,けいれん発作,自律神経症状や中枢性の呼吸抑制,意識障害などの多彩な症状を呈する抗NMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)受容体抗体に関連した脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎と略する)の存在が広く認められるようになってきている。若年女性に多く,卵巣奇形腫を伴う頻度が比較的高いとされている。われわれは合計10例の抗NMDA受容体抗体陽性例を経験し,これを3群に分類した。3例は比較的典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過をたどり,免疫治療が奏効した。他の7例のうち3例は,オレキシン欠損型のナルコレプシーに難治性の精神症状を合併しており,抗精神病薬を使用されていた。また,残り4例に関しては,身体症状はほとんど目立たず,ほぼ精神症状のみを呈しており,病像が非定型であったり薬剤抵抗性と判断されm-ECTが施行され,これが奏効した。
著者
徳永 純
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.21-29, 2022-09-28 (Released:2023-08-01)
参考文献数
40

COVID-19のパンデミックは、トリアージが差別に当たるかどうかという論争を引き起こした。救命措置の優先順位を決めるトリアージの理論は、帰結主義の立場から、高齢者や基礎疾患のある弱者を差別する含意なしに、救命可能性が高い患者を優先する結論を導く。ただ、既存の理論はパンデミック下における医療資源の可変性を考慮しないため、感染対策の不徹底が生む差別を隠蔽しかねない。本稿では、軽症者から重症者までの医療体制を見渡し、その整備に要する時間も考慮したトリアージについて理論モデルの構築を試みる。それにより救命数最大化を地域レベルで徹底すると、軽症から中等症については、重症化リスクの高い弱者を優先するマキシミン・ルールに基づく医療資源の拡充こそが最重要の倫理的要請であることがわかる。帰結主義の枠内で思考実験を行い、論争の着地点を探る。
著者
徳永 純
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.77-84, 2019-09-26 (Released:2020-08-01)
参考文献数
30

多系統萎縮症患者の呼吸補助についての意思決定過程を巡る倫理問題を提起する。多系統萎縮症は根治療法のない難病であり、多彩な神経症状のため意思疎通が難しくなるうえ、突然死の主因となる呼吸障害も生じる。呼吸障害については、エビデンスは不十分ながら、気管切開下陽圧人工呼吸( TPPV) が比較的安定した長期生存を実現する可能性がある。だがTPPVを導入する患者はごく少数に限られる。客観的な生の質 (QOL) を低く見積もられてしまうために、人工呼吸器を着けない選択へと誘導されてきたからだと考えられる。本稿では患者3例と家族のインタビューにより、どのように誘導を逃れ、生存を選ぶ決定をしてきたかを明らかにする。進行期にあっても患者との継続的な関係を築くことによって、わずかな動作や表情から患者の意思をくみ取る「言語ゲーム」を成立させることが可能であり、患者本人の自律を尊重した決定を実現すべきである。
著者
徳永 純
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.47-54, 2017 (Released:2018-08-01)
参考文献数
29

患者が十分に理由を語らないまま沈黙し、生死に関わるような治療や処置に同意しない、という問題に直面することがある。周囲は自己決定を尊重しつつも当惑し、意図がくみ取れずどのように対応すべきか苦慮する。本稿ではこのような神経難病の自験例について、メルヴィルの『書記バートルビー』を手掛かりに考察する。仕事を拒否して何もしなくなった主人公バートルビーに対し、雇用主である弁護士は心情を斟酌し、寄り添おうと努力するが、バートルビーの沈黙の前になすすべがなく苦悩する。こうした作品のモチーフは自験例と共通するうえ、バートルビーの謎を巡り多様な解釈が提示されている。作品とその解釈を参照することによって、自験例の論点は、自己決定の尊重の是非から、潜在的な患者の抵抗やパターナリズムへと拡張される。これらの検討を通じこれまであまり試みられなかった文学作品と医療倫理ケースの比較検討の意義を明らかにする。
著者
徳永 純
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.47-54, 2017

<p> 患者が十分に理由を語らないまま沈黙し、生死に関わるような治療や処置に同意しない、という問題に直面することがある。周囲は自己決定を尊重しつつも当惑し、意図がくみ取れずどのように対応すべきか苦慮する。本稿ではこのような神経難病の自験例について、メルヴィルの『書記バートルビー』を手掛かりに考察する。仕事を拒否して何もしなくなった主人公バートルビーに対し、雇用主である弁護士は心情を斟酌し、寄り添おうと努力するが、バートルビーの沈黙の前になすすべがなく苦悩する。こうした作品のモチーフは自験例と共通するうえ、バートルビーの謎を巡り多様な解釈が提示されている。作品とその解釈を参照することによって、自験例の論点は、自己決定の尊重の是非から、潜在的な患者の抵抗やパターナリズムへと拡張される。これらの検討を通じこれまであまり試みられなかった文学作品と医療倫理ケースの比較検討の意義を明らかにする。</p>
著者
藤田 恒夫 徳永 純一 三好 萬佐行
出版者
国際組織細胞学会
雑誌
Archivum histologicum japonicum (ISSN:00040681)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.99-113, 1970
被引用文献数
34

ラットとウサギの腎糸球体を走査電子鏡で観察し, 次の結果を得た.<br>1. タコ足細胞は迂曲する毛細血管のカーブの内がわに位置し, 数本の突起を放射状に毛細血管壁へ伸ばしている. 一次突起というべきこの突起の太いものは二次突起に, さらに時には三次突起に枝分れしてのち, シダの葉のような形で細長い終枝すなわち足突起を出す. 一次突起のうち若干の細いものは二次突起に枝分れすることなく, 直接に足突起を出す.<br>2. 同一の一次突起から出た二次突起が, あるいは別の一次突起の二次突起が吻合して, 細胞質の輪ができていることがある. また突起の一部が不規則に太くなっていることも多い.<br>3. 毛細血管壁に乗っている足突起は, 異なる細胞のものが交互に隣りあうよう配列している. 同一の細胞に由来する突起のかみあいは一度も見られなかった.<br>4. ラットでは二次突起の分れかたも足突起の出かたも, 直角方向を原則としている. しかしウサギではこれらが斜めの方向に出るのが普通で, またふたまた分岐が非常にしばしば見られる.<br>5. タコ足細胞の細胞体と突起の上面に, 長さの不定な微絨毛が散在する. これはウサギよりラットに多い. またラットのタコ足細胞のあるものには, 本態不明のつぼみ状ないし輪状の小突起が見られた.<br>6. 糸球体の毛細血管の内面に, 内皮細胞の孔が密に配列するのが見られた.