著者
神林 崇 大森 佑貴 今西 彩 高木 学 佐川 洋平 筒井 幸 竹島 正浩 小野 太輔 塩見 利明 清水 徹男
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.406-410, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
6

Delayed sleep phase disorder (DSPD) comprises a persistent or recurrent pattern of sleep disturbances, sleep disruption that leads to insomnia and/or excessive daytime sleepiness, and impaired functioning in social, occupational, or other spheres. Three techniques are typically used to treat DSPD : chronotherapy, phototherapy, and exogenous melatonin administration. Antipsychotics have not been reported in the treatment of DSPD, aripiprazole (APZ), which is a second generation antipsychotic, manifests a novel mechanism of action by serving as a partial agonist of D2 receptors. Depression is reported to be the most common psychopathology associated with DSPD, and APZ is reported to be effective in major depressive disorder as adjunctive therapy. Therefore, we speculated that APZ might be effective to treat DSPD, and we observed how APZ works for the treatment of DSPD.Methods : 18 subjects (including 7 women) who are 14–48–year–old (the average is 31.6) were included. The patients were prescribed 0.75–4.5mg APZ at once a day.Results : We prescribed 1.5–3.0mg/day of APZ, all subject reduced total sleep time (9.6 +/− 2.3h → 7.8 +/− 2.0h, p=0.03), many cases got up earlier (9.1 +/− 1.9h → 6.7 +/− 1.4h, p=0.005) in the morning and advanced their sleep phase within one week. The sleep onset was not significantly changed (23.5 +/− 2.0h → 22.9 +/− 1.9h, n.s.).Conclusion : Low dose of APZ would reduce nocturnal sleep time in the subjects who had prolonged sleep time and DSPD symptoms. The mechanism of action would be dopaminergic up regulation due to dopamine D3 agonistic activity. Since it is difficult for physicians to treat prolonged sleep time and DSPD symptoms, this medication would become a new therapeutic tool for these patients.
著者
神林 崇 今西 彩 富永 杜絵 石戸 秀明 入鹿山 容子 韓 庫銀 木村 昌由美 近藤 英明
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.503-507, 2021 (Released:2022-04-28)
参考文献数
7

Even though we are currently in the midst of pandemic from coronavirus infection, the new influenza (H1N1) epidemic in 2009–2010 was unforgettable. Concurrently with the H1N1, narcolepsy surged in post–affected children in China. In Northern Europe, narcolepsy surged in children after H1N1 vaccination. Although there were many cases of H1N1 in Japan, there was no change in the incidence of narcolepsy because anti–influenza drugs prevented the disease from becoming more severe and the vaccine did not contain an adjuvant. It has recently become clear that the Spanish flu that prevailed about 100 years ago was also H1N1. Economo's encephalitis lethargica, which was prevalent at the same time, is thought to be autoimmune encephalitis rather than H1N1–induced influenza encephalitis. It has been reported that Economo's encephalitis caused damage to the hypothalamus, including the orexin system, resulting in lethargic symptoms.Since the 2010s, the number of patients with neurodevelopmental disorders (ADHD, ASD) has been increasing among the patients who complain of hypersomnolence. Consideration of the course of symptoms revealed that the patient was originally below the threshold of the diagnostic criteria for neurodevelopmental disease, that hypersomnolence occurred from around adolescence, and that the case also met the criteria for neurodevelopmental disease. Although hypersomnolence was not noticeable in early childhood and inattention was the main symptom, the diagnostic criteria were not met. Hypersomnolence, on the other hand, increased from around adolescence, was added, and attention deficit was exacerbated. Therefore, it is considered that there are many cases that satisfy both the diagnosis of ADHD and central hypersomnia. ADHD characteristics such as attention deficit, hyperactivity, and poor impulsivity may be observed in children who have recovered from Economo's encephalitis and are called post–encephalitis behavioral disorders. The pathophysiology of Economo's encephalitis is presumed to be a disorder of the hypothalamus, including the orexin system, but it is possible that the disorder remained even after recovery.We believe that impaired attention, and restlessness caused by the hypersomnolence in neurodevelopmental disorders can be explained by dysfunctions of the orexin system and its arousal system. H1N1 morbidity may trigger neurodevelopmental disorders accompanied by hypersomnolence.
著者
神林 崇
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

(1)各年代と性別におけるオレキシン(ox)値の推移では、男性157名と女性115名で計272名の人の検体を測定した。年齢分布は生後2週間から79歳である。男性と女性の間で有意な差は認めず、また世代間での有意差も認めなかった。ナルコレプシーの5人の患者(6-68歳)は全例で測定限界(40pg/ml)以下であった。0歳児が12人含まれていたが、成人と同様の値であった。様々な疾患の検体の中でも、ギランバレー症候群(GBS)を除けばナルコレプシーでのみOXが低下していることは非常に特微的なことであった(Kanbayashi(a)2002)。OXの減少がいつ起こるのか興味が持たれるところであるが、6才と8才でナルコレプシーを発症し、OX低値であった2例と(Kanbayashi(b)2002,Tukamoto2002)、7才と10才で過眠出現後の反復睡眠脳波検査で入眠時のレム睡眠が出現する以前に(-例は脱力発作も出現する前)既にOXが低値の2症例を経験し報告した(Kubota2003)。また小児におけるOX検査の有用性を確かめるために、100例以上の小児疾患でのOX値を測定し、疾患特異性を検討し報告した(Arii2003)。ナルコレプシーの発症のピークは14才であるので、早期発見/治療開始のためには重要な報告と考える。(2)自己免疫性神経疾患におけるOX値の研究では、17人の患者から脳脊髄液の提供を受けた。GBSが10人、多発性硬化症が7名である。対照患者群として、計30名の患者を選んだ。脳脊髄液中のOX値は対照患者とこれまでに報告されている健常人(280pg/m)では差が無く、多発性硬化症の患者も対照患者と差がなかった。一方GBSの患者では対照患者と比べて有意にOX値が低下していた(p<0.01)。しかしながら測定値の分布は大きく、正常値の患者もみられた。200pg/mlで区分するとGBSの患者では10名中4人が200pg/ml以下であり、一方、対象患者と多発性硬化症の患者では37名中の1名のみが200pg/ml以下であった(Kanbayashi(c)2002)。現在も検体を集めており、GBSが計23検体まで増えているが、4名がナルコレプシーと同様に測定限界以下であった。Fisher症候群とCIDPもあわせて検討中である。低値の症例は重症例が多いことと、症状の改善と共にOX値も正常化することが判明している。2例では過眠の度合いを調べる検査も行い、入眠潜時の短縮を認めた(Nishino2002)。自己免疫疾患であるGBSにて髄液中のOX値の一時的な低下の機序を明らかにすることを通じて、ナルコレプシーでの永続的な脱落の原因解明の一助になると考えている。
著者
筒井 幸 神林 崇 田中 恵子 朴 秀賢 伊東 若子 徳永 純 森 朱音 菱川 泰夫 清水 徹男 西野 精治
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-50, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
42

近年,統合失調症の初発を想定させる精神症状やジスキネジア,けいれん発作,自律神経症状や中枢性の呼吸抑制,意識障害などの多彩な症状を呈する抗NMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)受容体抗体に関連した脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎と略する)の存在が広く認められるようになってきている。若年女性に多く,卵巣奇形腫を伴う頻度が比較的高いとされている。われわれは合計10例の抗NMDA受容体抗体陽性例を経験し,これを3群に分類した。3例は比較的典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過をたどり,免疫治療が奏効した。他の7例のうち3例は,オレキシン欠損型のナルコレプシーに難治性の精神症状を合併しており,抗精神病薬を使用されていた。また,残り4例に関しては,身体症状はほとんど目立たず,ほぼ精神症状のみを呈しており,病像が非定型であったり薬剤抵抗性と判断されm-ECTが施行され,これが奏効した。
著者
伊藤 佐知子 神林 崇
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢健常者14名を対象に、ゾルピデム(マイスリー、アステラス社)5mg,塩酸リルマザホン(リスミー、塩野義社)1mg、トリアゾラム(ハルシオン、ファイザー)0.125mgの一回服用における翌日の運動機能と認知機能について、プラセボとの比較試験を行った。その結果、客観的指標に関してはゾルピデム5mgが良好な結果を示し,主観的評価についてはトリアゾラム0.125mgが良好な結果を示していた。これにより、睡眠導入剤の就寝前一回服用における高齢健常者の運動機能と認知機能の変化について、プラセボとの二重盲ランダム比較試験によって(1)半減期においては、超短時間型で、(2)ω1選択性の有る、(3)ノンベンゾジアゼピン系の睡眠薬が高齢者に好適な薬剤である可能性が高いことが示唆された。
著者
近藤 英明 神林 崇 清水 徹男
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.748-755, 2006-04-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

覚醒機構と摂食行動とは密接に関わっている. オレキシンは両者に関わる神経ペプチドである. 1998年桜井らにより発見され食欲を増進させることよりorexinと命名された. ほぼ同時期にde Leceaらは視床下部に特異的に産生されるペプチドとして同じペプチドを発見しhypocretinと命名した. 2000年にはオレキシン神経系の脱落がヒトのナルコレプシーで確認され, ナルコレプシーに特徴的なREM関連症状とオレキシン神経系との関わりについて明らかにされてきた. その後ナルコレプシー以外の神経疾患でも視床下部の障害によりナルコレプシー類似の症状をきたす症例が報告されるようになった. オレキシンがエネルギーバランス, ストレスと関連することより内分泌代謝, ストレス関連領域でもオレキシンに注目した研究がすすめられてきている. 本稿ではオレキシン神経系の生理的な役割とナルコレプシーの病態への関わりについて概説する.
著者
石川 博康 神林 崇 清水 徹男
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.807-814, 2014-09-15

抄録 親権とは子の身分上および財産上の広い権能を含むことから,法理上能力者でなければ行うことができないとされる。制限行為能力者は,未成年者と成年後見制度の審判を受けた者に大別され,後者には成年被後見人などが含まれる。前者では民法の成年擬制か親権代行の規定により家庭裁判所の関与がなくとも基本的に子の権利は保護されるが,対照的に後者では成年後見制度の適用が申請主義であるため状況が異なり,能力を欠く不適格者が親権者と誤認される事態も起こり得る。 事実上親権を行う者がいない場合,必ずしも親への成年後見制度適用がなくとも未成年後見の申立てが可能である。児童虐待の対応においても,親の親権能力に注意を向ける意義がある。
著者
神林 崇
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

(1)傍正中視床下部の脱髄性病変により2次性にオレキシン神経が障害された過眠症の報告は多くなされているが、なぜ視床下部の正中部が特異的に障害されるのかが非常に不可解であった。2004年にMSのサブタイプであるNMO(OSMS)に特異的に検出される自己抗体(NMO-IgG)が発見された。その後NMO-IgGの標的抗原は脳内の水分子チャネルであるアクアポリン4(aquaporin-4, AQP4)であることが見出された。Pittock(2006)らはNMO-IgG陽性患者の脳病変についても検討しており、間脳・視床下部と第四脳室周囲の病変の分布が、AQP4の高発現部位に一致すると報告している。当初は視床下部脱髄の7症例の血清を検討したところ、3例でAQP4抗体が検出された(Kanbayashi2009)。視床下部の病変はAQP4抗体の免疫反応により引き起こされたものと考えている。その後も継続的に症例の集積を進めて、10例以上のAQP4抗体陽性例を集積しており、傍正中視床下部脱随による、2次性の過眠症の一つの疾患概念を確立しつつあると考えている。(2)ナルコレプシーでの脳内鉄代謝とむずむず脚(RLS)/周期性四肢運動障害(PLM)の病態の検討:PLMの有病率はナルコレプシーでは25-50%と非常に高率に認められる。加えてRLS/PLMでは脳内の鉄イオンの減少が原因のひとつであり、髄液中のフェリチンが低値でトランスフェリンが高値と報告されている。PLMの合併の多いナルコレプシーでの、鉄代謝の変化を調べるためオレキシン欠損のナルコレプシー患者のCSFでフェリチン、トランスフェリン、鉄イオンの測定を行った。RLSの患者の場合とは異なり、フェリチンは健常群と差が無いが、トランスフェリンと鉄イオンはむしろ有意に高値であった。特に約3割の患者では大幅に逸脱した数値であった。脱力発作の有無やHLAタイピングは鉄代謝には関連が認められなかった。オレキシン神経系が脱落することによって、脳内の鉄代謝の調節機構が機能不全に陥るのではないかと考えている。