著者
大平 雅之 髙尾 昌樹 佐野 輝典 瀬川 和彦 富田 吉敏 佐藤 和貴郎 水澤 英洋
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
13

【要旨】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)では、さまざまな精神・神経症状が急性期症状の回復後、長期に持続し、新たに出現することが知られるようになり、神経症候についてはCOVID-19 後神経症候群(PCNS)と呼ばれることもある。国立精神・神経医療研究センターでは 2021 年6 月より後遺症外来を開設し、このような PCNS あるいは COVID-19 後遺症の患者さんを積極的に受け入れている。当院でも嗅覚障害、記憶障害、不安、うつ状態、疲労など多彩な症候がみられ、その治療は容易ではない。今後は神経内科医を含む複数の専門科が横断的に COVID-19 の長期症状の診療にかかわることが望ましい。
著者
髙尾 昌樹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.562-569, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
18

100歳を超える人,特に健康で100歳を迎えた人の脳病理所見を研究することは,加齢に伴う脳の変化を考える上で重要であると考える.実際,加齢とともに進展・悪化すると考えられてきた,アルツハイマー病の脳病理変化は,超高齢者において無制限に進行するわけではない.超百寿(110歳以上)の研究もふまえれば,むしろ病理変化の進行がみられていないともいえる.こういった加齢変化の少ない超高齢者の脳組織を用いた研究は,加齢変化のメカニズムを解明することにつながる可能性もある.
著者
髙尾 昌樹 美原 盤 新井 康通 広瀨 信義 三村 將
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.158-163, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1

【要旨】110歳以上(超百寿者)4例の脳病理所見を検討した。アルツハイマー病の変化は、3例ではintermediateレベルにとどまり、十分な老人斑と神経原線維変化の存在を認めた症例はなかった。1例はprimary age-related tauopathyであり、老人斑はほとんど無く、神経原線維変化が優位であった。パーキンソン病やレビー小体型認知症病理は認めなかった。高齢者認知症の原因疾患として注目されている海馬硬化症は認めなかったが、一部の海馬でTDP-43沈着を認め、“cerebral age-related TDP-43 pathology and arteriolosclerosis” (CARTS)の初期ともいえる状態であった。近年注目される、aging-related tau astrogliopathy (ARTAG)という、加齢に関するアストロサイトのタウ沈着が全例でみられた。脳血管疾患は軽度であった。加齢とともにアルツハイマー病は増加するとされているが、超百寿者まで検討すると、そういった予想は当てはまらないかもしれない。また、アルツハイマー病以外の加齢に関する病理学的変化も目立たず、脳における加齢変化を検討する上で、超百寿者の脳を解析することは重要である。
著者
安部 鉄也 三島 一彦 内野 晃 佐々木 惇 棚橋 紀夫 髙尾 昌樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.627-632, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
18
被引用文献数
3 8

症例は84歳女性.緩徐進行性の認知機能障害の経過中に失行が出現した.神経学的所見は認知機能障害,失行に加え左上下肢の筋力低下を認めた.頭部magnetic resonance imaging(MRI)で右側頭頭頂葉の髄膜のfluid attenuated inversion recovery(FLAIR),diffusion weighted Imaging(DWI)高信号を認め造影効果を有し,血液検査で抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体が高値であった.脳生検ではくも膜下腔を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.ステロイドで加療し臨床症候,検査所見ともに改善した.全経過を通じて関節症状は認めていない.本例は慢性髄膜炎の診断治療を考える上で貴重な症例である.発症時に関節症状のないリウマチ性髄膜炎の報告は稀で,本例では特に抗CCP抗体が高値であり,リウマチ性髄膜炎の発症機序を考える上でも稀有な症例である.
著者
森本 悟 髙尾 昌樹 櫻井 圭太 砂川 昌子 小宮 正 新井 冨生 金丸 和富 村山 繁雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.573-579, 2015 (Released:2015-08-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は62歳の女性である.頭痛で発症し,3ヵ月にわたって進行する認知機能障害,発熱および炎症反応の持続を呈した.頭部MRI画像で皮質および白質に多発性病変をみとめ,造影後T1強調画像にて脳溝や脳室上衣に沿った造影効果をみとめた.認知機能障害およびMRI所見が急速に進行したため脳生検を施行.クモ膜下腔に多数の好中球浸潤および多核巨細胞よりなるリウマチ性髄膜炎類似の病理像をみとめるも,関節リウマチの症状はなかった.各種培養はすべて陰性で,抗菌薬,抗結核薬および抗真菌薬治療に反応なく,経口ステロイド療法が奏功した.2年後の現在も寛解を維持している.