著者
明和 政子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.9-13, 2005-02-01

ヒトとチンパンジーの模倣能力とその発達を両種間で比較した.ヒトは生後数時間で他者の表情を模倣する.この新生児模倣は,チンパンジーにも備わっている能力であることがわかった.一方,新生児模倣のレベルを超えたより複雑な全身体的行為の模倣は,チンパンジーの大人にとって非常に難しかった.その理由は,チンパンジーは「身体の動きに関する」視覚情報を処理する点がヒトに比べて制約されており,物の属性や定位方向といった「物に関する情報」を手がかりに模倣するためであることが考えられた.模倣は,ヒトの系統がチンパンジーの系統と進化の過程で分岐した後,飛躍的に獲得した能力である可能性が示された.
著者
江谷 友梨 長井 志江 セオフィリス コンスタンティノス 明和 政子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.2D1J1103, 2019 (Released:2019-06-01)

ロボットが人間社会に次々と参入している中、人とロボットが親和的な関係を構築することは非常に重要である。私たちはロボットによるまばたきの模倣と内受容感覚の個人差が人とロボットの親和的な関係構築に影響を与えるかどうかを検証した。その結果、どちらの要因も人とロボットの親和的な関係との間に統計的に有意な関係を見出すことはできなかった。しかしながら、本研究で得られたデータから、人がロボットのまばたきを逆模倣するような場面が観察され、人とロボットのまばたきの同期が多いほど親和的な関係構築への期待も高まる可能性が示された。この発見は今後のHRI研究のデザインに重大な示唆を与えるだろう。
著者
藤田 和生 板倉 昭二 明和 政子 平田 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

意識や内省と呼ばれる自身の心の内部への能動的アクセス、及び読心と呼ばれる他者の心的状態の理解の発生過程、ならびにそれらの相互関連性を、広範な種比較と発達比較を通じて多面的に検討した。その結果、霊長類のみならずイヌや鳥類にもこれらの認知的メタプロセスが存在することが明らかになった。また霊長類は自身の利益には無関係な第3者の評価をおこなうなど、優れた他者理解機能を持つことを示した。さらに、他者理解は対応する自己経験により促進され、自己理解と他者理解に確かに関連性があることを示した。
著者
平田 聡 森村 成樹 山本 真也 明和 政子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ヒトの知性を進化的観点からとらえたとき、特に社会的知性の領域において著しく進化しているという主張がなされるようになった。この点について、ヒトに最も近縁なチンパンジーを対象とした比較研究によって検証した。アイトラッカーを用いた視線計測による研究である。その結果、世界の物理的な特徴認知に関してはヒトとチンパンジーとで大きな差はないが、他者の動作の背後にある意図の理解のような心的側面の認知においてはヒトとチンパンジーで顕著に異なることが示された。
著者
明和 政子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

ヒトは、生後1年半から2年ごろに、鏡に映る自分の姿を「自分である」と認識するようになる。この結果は、ヒトが、自己を他者と区別して認識する能力が獲得された有力な証拠として位置づけられている。しかし、通常の鏡映像を理解できるはずの3歳児でも、2秒の遅延をはさんだ自己映像を見せると、それを自分であると認識することは困難となる(宮崎,2003)。つまり、自己映像を理解には、時間的随伴性という要因が大きく影響すると考えられる。鏡映像を理解できるのは、ヒトだけではない。チンパンジーをはじめとするヒト以外の大型類人猿も鏡に映った自分の像を、「自分である」と認識することができる。しかし、その他の霊長類については、そうした証拠は得られていない。本研究では、チンパンジー(Pan troglodytes)、フサオマキザル(Cebus apella)、ヒト乳児(Homo sapiens)を対象として、自己像を理解する能力の進化史的・発達的起源を探ること、その際、この能力の獲得を時間要因との関連において調べることを目的とした。実験条件として、(1)0.5、(2)1.0、(3)2.0秒遅延させた自己映像を、それぞれの個体に2分間、呈示した。各条件での像呈示の前後には、ベースラインとして通常の像をそれぞれ2分間呈示した。その結果、1)チンパンジーの成体は、身体の動きと自己映像が時間的に随伴しない状況でも、経験を積めば自己像であると認知する、2)フサオマキザルの成体は、モニターから遠ざかる、威嚇など激しい攻撃を加える、身体を頻繁にかきむしるなど、通常の鏡映像の場合よりも強い社会的反応を示す、3)ヒト乳児も通常の鏡映像と遅延する自己像を区別できており、遅延する自己像に微笑む、声をあげるなどより強い興味を示すこと、が明らかとなった。以上より、自己と他者の弁別能力の発達と進化においては、自己受容感覚-視覚間の時間的な同期性(随伴性)の認知が重要な要因であることが示唆された。