著者
山本 真也
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.95-109, 2011-12-20 (Released:2012-01-19)
参考文献数
68
被引用文献数
2 1

How did humans evolve to such an altruistic and cooperative animal? This review paper discusses the primate origin of altruism and cooperation from the viewpoints of cognitive mechanisms and adaptation to social systems. Our previous studies have revealed three characteristics of chimpanzees' altruistic helping behavior: 1) helping upon request, but seldom voluntarily; 2) understanding others' goals by visually assessing the situations; and 3) understanding of others' goals does not automatically lead to voluntary helping. It is suggested that the mechanism in chimpanzees' helping is different from that in human helping, which is often solicited by only witnessing others in trouble. This difference in spontaneity in helping might be a result of their different social systems. In human societies, where indirect reciprocity works, individuals who behave altruistically can gain good reputations. In such societies, voluntary helping is favored and rewarded. Meanwhile, institutions and social sanctions exist in human societies: selfish individuals can be punished by third-party group members. This system also maintains altruism and cooperation. In contrast, there has been no empirical evidence for existence of reputation and social sanction in chimpanzees, which might explain their lack of voluntary helping. Instead of indirect reciprocity, fission-fusion dynamics might be an alternative system for maintaining altruism and cooperation in chimpanzee societies. It is possible that an ecological environment influences a social system, which in turn determines behavior and its mechanism. This emphasizes the importance of empirical studies with broad perspectives. Comparative studies with humans, chimpanzees and bonobos both in the wild and under experimental conditions are expected to deepen our understanding of the evolution of altruism and cooperation, and accordingly to reveal multiple dimensions of human evolution from the viewpoints of cognition, behavior, society, and ecology.
著者
山本 真也
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR ANIMAL PSYCHOLOGY
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.63-71, 2017 (Released:2017-12-18)
参考文献数
55

Recent studies have revealed similarities and differences among hominids: humans, chimpanzees and bonobos. Cooperation is one of the human hallmarks, but its evolutionary basis can be found both in chimpanzees and bonobos. Comparison among the three evolutionary closest relatives would tell us about how cooperative society evolved. For this purpose, food sharing is an ideal target behavior to examine, since it is a typical cooperative behavior and prevails in the three hominids. The author has observed food sharing events among wild bonobos in Wamba, Democratic Republic of Congo. This data depicts several features of bonobos' food sharing that cannot be seen in chimpanzees. Bonobos often share plant food, which can often be obtained without any cooperation or specialized skills, sometimes even when the same food items are abundant and easily available at the sites. Bonobo recipients may beg to strengthen social bonding. Frequent plant-food sharing among bonobos may shed light on the evolution of courtesy food sharing which may be seen only in humans and bonobos.
著者
中村 淳路 Boes Evelien Brückner Helmut De Batist Marc 藤原 治 Garrett Edmund Heyvaert Vanessa Hubert-Ferrari Aurelia Lamair Laura 宮入 陽介 オブラクタ スティーブン 宍倉 正展 山本 真也 横山 祐典 The QuakeRecNankai team
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Great earthquakes have repeatedly occurred along the Nankai Trough, the subduction zone that lies south of Japan’s heavily industrialized southern coastline. While historical records and geological evidence have revealed spatial distribution of paleo-earthquakes, the temporal variation of the rupture zone is still under debate, in part due to its segmented behavior. Here we explore the potential of the sediment records from Lake Hamana and Fuji Five Lakes as new coherent time series of great earthquakes within the framework of the QuakeRecNankai project.We obtained pilot gravity cores form Lake Hamana and the Fuji lakes Motosu, Sai, Kawaguchi, and Yamanaka in 2014. In order to image the lateral changes of the event deposits, we also conducted reflection-seismic survey. Based on these results, potential coring sites were determined and then 3–10 m long piston cores were recovered from several sites in each lake in 2015. The cores consist of 2 m long sections with 1 m overlaps between the sections allowing us to reconstruct continuous records of tsunamis and paleo-earthquakes. In this presentation we introduce the progress of QuakeRecNankai project and discuss the potential of the lakes as Late Pleistocene and Holocene archives of tsunamis and paleo-earthquakes.
著者
松沢 哲郎 山本 真也 林 美里 平田 聡 足立 幾磨 森村 成樹
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2016-04-26

人間を特徴づける認知機能の特性を知るうえで、それらが「どのように進化してきたか」という理解が必要不可欠である。本研究は、言語と利他性こそが人間の子育てや教育や社会といった本性の理解に不可欠だという視点から、①人間にとって最も近縁なチンパンジー属2種(チンパンジーとボノボ)とその外群としてのオランウータン、さらにその外群としてのウマやイヌを研究対象に、②野外研究と実験研究を組み合わせ、③知識や技術や価値とその社会的伝播や生涯発達に焦点をあてることで、人間の本性の進化的起源を明らかにすることを目的とした。チンパンジーの野外研究はギニアのボッソウの1群7個体、実験研究は霊長類研究所の1群13個体と京大熊本サンクチュアリの58個体が主な対象だ。ボノボの野外研究はコンゴの1群27個体、実験研究は熊本サンクチュアリに導入した1群6個体が対象だ。これに、母子だけで暮らす社会を営むオランウータンを外群とし、ボルネオのダナムバレイの野生群、マレー半島のオランウータン島で研究をおこなった。ポルトガルの野生ウマの研究が軌道に乗った。新しい研究手法の開発として、ドローンを利用した空撮で野生チンパンジーや野生ウマの研究を始めた。実験研究のトピックスは、研究代表者らが世界に先駆けて発見したチンパンジー特有の超短期記憶の研究、アイトラッカーによる視線検出、色の命名課題にみるシンボルの形成、チンパンジーには困難といわれる循環的関係の理解、感覚間一致、共感性の基礎にある同期行動などである。個体レベルでの認知機能の研究を基盤に、比較認知科学大型ケージを活用した集団場面での行動の解析を手がけた。野外研究では、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、キンシコウ、野生ウマを対象として、毛づくろいや近接関係など社会交渉の解析を通じて社会的知性の研究を推進した。
著者
山本 真也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は採用初年度であり、チンパンジーを対象に互恵性・利他性および他者理解にかんする実験研究をおこなうとともに、論文執筆作業をおこなった。実験は、月曜から金曜の週5日、午前・午後の2コマに、チンパンジー8個体を対象としておこなった。これまでにない新たな試みとして、視線検出装置(Tobii)を用いてチンパンジーの視線運動を計測した。この最新機器を利用して、他者理解の中心命題となっている「心の理論」の研究に取り組んでいる。自分とは違う心的状態を他者がもっていることを理解するかどうかをテストする「誤信念課題」において、近年、言語教示を使わない課題が開発された。視線検出装置を用いることにより、この課題をチンパンジーでも応用できると考えられる。まず第一段階として,チンパンジーが他者の行動を予測するかどうかを検討した。その結果、目の前を動く人にかんしては途中障害物に隠れても進む先を予期的に見ることがあったが、衝立に隠れた手が2つの穴のどちらから出てくるかといったことにかんしては予期的な視線運動がみられなかった。目の前の存在している事物への対処はヒトと同様であるが、見えないものへの反応にはヒトと違いがみられると考えられる。今後、この仮説の検証をより詳細に詰めていくとともに、チンパンジー初の「誤信念課題」を成功させたい。また、放飼場での観察も適宜おこなっている。チンパンジーにおける集団での協力行動を観察研究の対象としている。これまで、視線検出実験をはじめとする1個体実験、実験室での個体間交渉を調べた2個体実験を中心におこなってきたが、今後は集団全体を対象とした実験にも取り組みたい。個体・個体間・集団というさまざまなレベルでの社会行動を調べることにより、より包括的にチンパンジー社会への理解を深めたい。
著者
山本 真也 田中 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第22回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.13, 2006 (Released:2007-02-14)

社会的な場面では、働き手と利益の受け手が必ずしも同一個体であるとは限らない。このような場面でヒトは互恵的に協力しあうことができるが、ヒト以外の動物種でこのような行動を実証的に調べた研究は少ない。本研究では、実験的に操作した社会的場面におけるチンパンジー2個体の利己行動・利他行動を調べた。群れで生活する飼育下のチンパンジー、母子3組とおとなのペア2組を対象とした。隣接する2つのブースに自動販売機を1台ずつ設置した。この自動販売機にコインを投入すると隣のブースにリンゴ片が出た。ブースに1組のチンパンジーを入れ、2つのブースにコインを1枚ずつ実験者が交互に供給した。間仕切りが開いていてブース間を行き来できる条件(母子のみ)と閉まっていて各ブースに1個体ずつ入っている条件でおこなった。間仕切りを開けた条件では、母子は利他的なコイン投入行動を交互に継続させず、最終的にコイン投入も報酬も子どもが独占した。その過程で、相手のいる側のブースでコインを投入し、素早く移動して報酬を獲得する行動や、相手にコインを渡して投入させ、自分が報酬を得るといった利己的な行動がみられた。間仕切りを閉じた条件でも、母子では利他的なコイン投入行動は交互に継続しなかった。子どもが先にコインを投入しなくなった。一方おとなのペアは、1個体統制場面に比べて投入までの潜時が伸びたり投入拒否がみられたりしたが、利他的なコイン投入行動を交互に継続させた。働き手と利益の受け手が異なる場面で、互恵的な協力関係が母子間では成立せず、おとな2個体間では成立した。自分が働いて相手が利益を得るという一時的に不公平な状況への寛容さが個体間関係や発達段階で異なることが示唆された。おとな2個体での結果は、チンパンジーもヒト同様、自分の行為が相手の利益になることを理解したうえで互恵的に協力しあう可能性を示している。
著者
山本 真也 中村 高志 内山 高
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.49-59, 2017-08-28 (Released:2017-09-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1

河口湖では従来,冬季の不凍箇所の分布から湖底湧水の存在が示唆されてきたが,その詳細な分布や起源についてはいずれも推定の域を出ないのが現状であった。本研究ではこうした河口湖の湖底湧水の実態を探るため,電気伝導度水温水深計(CTD計)による水文調査並びに水中カメラ及びソナーを使った湖底探査を行った。その結果,鵜の島の東約100 mの観測点で,周囲より水温が高く,電気伝導度の低い水塊が分布している様子が観測され,湖底からの水の湧出が推察された。また湖底探査の結果,上記観測点を含む半径約25 mの領域で,湖底に被泥が見られないなど,湖底湧水地によく見られる特徴を呈していた。更に,この場所で湖底直上水を採取し水の安定同位体比を測定したところ,その値は周辺の地下水に近く,この場所が湖周辺の山間部で涵養された地下水が湧出する湖底湧水であることが示唆された。
著者
山本 真也
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.145-160, 2011-03

チンパンジーはヒ卜に最も近縁な進化の隣人である。生物学的にも「ヒト科チンパンジー」と分類される。筆者は,このようなチンパンジーとヒトを比較することにより. 「こころ」の進化について明らかにすることを目指してきた。本論文では,比較認知科学研究者の立場からこれまでの研究を概観し,チンパンジーとヒトの共通点と相違点について論じてみたい。長い間ヒトに特有と考えられてきた行動や特性の多くはチンパンジーでもみられることが明らかとなってきた。道具使用や文化の存在などである。社会的知性にかんしても同様である。たとえば利他行動では,自分には即時的な利益がなくても,チンパンジーが同種他個体の手助けをすることが実証的に示された。しかし,ヒ卜との違いも指摘されている。ヒ卜では他人が困っているのを見ると自発的に助けようとする心理が働くこともあるが,チンパンジーではこの自発的な手助けが稀だった。相手の要求に応じて手助けする。これがチンパンジーの特徴だと言えるかもしれない。チンパンジーとヒ卜でこのような違いがみられる理由に,それぞれの社会や生息環境の違いがあげられる。それぞれの種がそれぞれの環境に適応して進化してきた。その種にみられない知性や能力は,たんにその種にとって不必要だっただけかもしれない。主に植物性食物を食べるチンパンジーは,基本的に自分の食べ物は自分ひとりで確保することができる。それに対し,動物性食物に頼るようになったヒトでは,協力して狩りをし,獲物を分配する必要があったと考えられる。このような違いが手助け行動の自発性の違いにも表れているのではないだろうか。どちらが優でどちらが劣だという問題ではない。種を比較することで,それぞれの特徴を浮き彫りにする。その結果,自己および他者のアイデンティティーを尊重することにつながればと願っている。
著者
山本 真也
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

ギニア共和国ボッソウ村にて野生チンパンジーの調査、コンゴ民主共和国ワンバ村にて野生ボノボの調査をおこなった。同時に、林原生物化学研究所類人猿研究センターおよび京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象に実験研究をおこなった。集団協力行動・食物分配・手助け行動に焦点を絞り、進化の隣人であるチンパンジーとボノボでの行動を比較することにより、利他性・互恵性・他者理解の進化、ひいては人類進化について新たな考察をおこなった。
著者
平田 聡 森村 成樹 山本 真也 明和 政子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ヒトの知性を進化的観点からとらえたとき、特に社会的知性の領域において著しく進化しているという主張がなされるようになった。この点について、ヒトに最も近縁なチンパンジーを対象とした比較研究によって検証した。アイトラッカーを用いた視線計測による研究である。その結果、世界の物理的な特徴認知に関してはヒトとチンパンジーとで大きな差はないが、他者の動作の背後にある意図の理解のような心的側面の認知においてはヒトとチンパンジーで顕著に異なることが示された。
著者
山本 真也
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-26, 2005 (Released:2005-08-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

The present study investigated vigilance in Japanese macaques (Macaca fuscata) in reference to some social factors. Previous studies have suggested that social factors among conspecifics should be important for vigilance in primates. This study explored the relationship between individual's social rank and vigilance in estrous and non-estrous periods in female Japanese macaques. With a video camera, I recorded vigilance of 23 females among approximately 170 individuals of Arashiyama E-troop. The results were as follows. High degree of vigilance was observed in three conditions, 1)females in estrous period regardless of the rank, 2)low-ranking females in nonestrous period, and 3)females in estrous period consorting with low-ranking males. These results indicate that social relationship is an important factor which affects the degree of vigilance in female Japanese macaques.