著者
藤田 治彦 井口 壽乃 近藤 存志 川島 洋一 池上 英洋 加須屋 明子 井田 靖子 橋本 啓子 天貝 義教 高木 陽子 高安 啓介 加嶋 章博 朝倉 三枝 三木 順子 永田 靖 塚田 耕一
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

美術、建築も含めた広い意味でのデザイン教育の歴史をおもなテーマにした国際会議、第1回ACDHT(Asian Conference of Design History and Theory)を本研究開始の平成27年10月に大阪大学で開催、平成29年9月には第2回ACDHTを東京の津田塾大学で開催した。その研究内容は同国際会議での発表論文を査読して掲載する ACDHT Journal の”Design Education beyond Boundaries”に掲載され、同国際会議ウェブサイトでも閲覧可能にしている。研究代表者と13名の研究分担者は、全員、積極的に調査研究を進めている。平成29年度は、特にインド、スペイン、ドイツ、中欧、イギリス(スコットランド)の研究成果が注目された。第2回ACDHTでは、第1回ACDHT以上に、本科研プロジェクト以外の研究発表者も国内外から参加し、このデザイン教育史研究を通じての国際交流を高めている。本研究は、各国のデザイン史、美術史、建築史等を専門とする日本の代表的研究者が研究分担者となり関連国、関連地域の独自の調査研究を進め、国際会議での発表でも高く評価されているているが、全世界を視野に入れれば専門の研究分担者のいない国や地域も多く、それが「デザイン教育史の国際的比較研究」の目的を達成するには唯一の欠点でもあった。研究代表者は、その欠点を十分に補って研究を総括する立場にあり、第1、第2年度には、担当する研究分担者のいない中国、東南アジア、インド等の調査を行い、平成29年度にはオランダと北米(アメリカ東部とカナダ)および南米(アルゼンチンとチリ)等で調査研究を行った。調査のために訪問した各国の主要教育機関からは多くの場合、重要な関連資料を提供され、旅費は必要だが、図書購入費は節約可能で、順調に調査研究を進めている。
著者
朝倉 三枝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、1920年代にパリのモード界で活躍した画家のソニア・ドローネーが企てたイメージ戦略を、同時代に典型的な女性像「ギャルソンヌ」との関連から解明しようと試みるものである。本年度はまず、フランス国立図書館のアーカイブに保管されているメゾンの宣伝用の写真や広告文の分析を行い、彼女が1920年代初頭にモード界に進出する際、どのような手法で他のデザイナーとの差別化を図ったのかを考察した。その中で、ソニアが当時、パリのモードに現れたばかりの新しい女性像、すなわち活動的で媚びないギャルソンヌのイメージをいち早く取り入れると同時に、写真の背景に自分や夫で同じく画家のロベール・ドローネーの絵画作品を設置したり、広告文中で繰り返し「キュビスムの画家」という言葉を用いたり、さらには彼女自身がモデルとして自作の衣服や装飾品を身に纏い宣伝用の写真に登場することで、自らの画家という出自や、同時代の前衛芸術との結びつきを意図的に強調していたことが明らかとなった。また本年度は、ソニア・ドローネーとの比較検討を行うため、同時代に活躍していたクチュリエ、ジャンヌ・ランバンの仕事にも注目し、パリの装飾美術館所蔵のランバンの写真資料の分析も併せて行った。その結果、ソニアの芸術家という立ち位置を改めて確認すると同時に、これまで保守的と評価されてきたランバンのデザインが、実際には懐古的でロマンティックなものから、ギャルソンヌにふさわしい現代的な感覚に溢れるものまで、実に幅広くユニークなものであったことを突き止めた。以上のように、「ギャルソンヌ」の女性表象という視点を得ることで、本研究は服飾史や美術史、ジェンダー論など、諸分野においてこれまで見落とされてきた問題に新たな視座を提示することができたものと思われる。