- 著者
-
朝倉 三枝
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は、1920年代にパリのモード界で活躍した画家のソニア・ドローネーが企てたイメージ戦略を、同時代に典型的な女性像「ギャルソンヌ」との関連から解明しようと試みるものである。本年度はまず、フランス国立図書館のアーカイブに保管されているメゾンの宣伝用の写真や広告文の分析を行い、彼女が1920年代初頭にモード界に進出する際、どのような手法で他のデザイナーとの差別化を図ったのかを考察した。その中で、ソニアが当時、パリのモードに現れたばかりの新しい女性像、すなわち活動的で媚びないギャルソンヌのイメージをいち早く取り入れると同時に、写真の背景に自分や夫で同じく画家のロベール・ドローネーの絵画作品を設置したり、広告文中で繰り返し「キュビスムの画家」という言葉を用いたり、さらには彼女自身がモデルとして自作の衣服や装飾品を身に纏い宣伝用の写真に登場することで、自らの画家という出自や、同時代の前衛芸術との結びつきを意図的に強調していたことが明らかとなった。また本年度は、ソニア・ドローネーとの比較検討を行うため、同時代に活躍していたクチュリエ、ジャンヌ・ランバンの仕事にも注目し、パリの装飾美術館所蔵のランバンの写真資料の分析も併せて行った。その結果、ソニアの芸術家という立ち位置を改めて確認すると同時に、これまで保守的と評価されてきたランバンのデザインが、実際には懐古的でロマンティックなものから、ギャルソンヌにふさわしい現代的な感覚に溢れるものまで、実に幅広くユニークなものであったことを突き止めた。以上のように、「ギャルソンヌ」の女性表象という視点を得ることで、本研究は服飾史や美術史、ジェンダー論など、諸分野においてこれまで見落とされてきた問題に新たな視座を提示することができたものと思われる。