著者
永田 靖
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.93-108, 1998-10-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
17
被引用文献数
7 8

統計的多重比較法の適用において,実務家から寄せられた疑問点を材料にして,「多重比較法に関する誤解・誤用」,「多重比較法を用いる際の注意点」などについて検討する.取り扱う内容は,「分散分析と多重比較法との関係」,「ノンパラメトリック法にっいての誤解と注意」,「Scheffeの方法やDuncanの方法について」,「対照群が複数個ある場合の考え方」,「検出力とサンプルサイズの設計について」,「毒性試験・薬効試験における多重比較法の適用の妥当性」などである.
著者
神橋 彩乃 大久保 豪人 永田 靖
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-10, 2019 (Released:2019-11-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

In this study, we analyzed factors affecting children’s academic achievement with the data of PISA2012 and PISA2015. We set up four hypotheses and verified them. Hy- pothesis 1 is “children’s attributes influence their motivation.” Hypothesis 2 is “children’s attributes and their motivation influence their academic achievement.” Hypothesis 3 is “maternal employment has a negative effect on children’s motivation.” Hypothesis 4 is “children’s attributes influence the parent-child relationship, and the parent-child rela- tionship has a positive effect on children’s motivation and their academic achievement.” We clarified hypothesis 1 and hypothesis 2 using graphical modeling. We verified hy- pothesis 3 utilizing a stratified analysis using a propensity score and clarified it in terms of Japanese girls. However, in sub-groups where in mothers tend to work more, mater- nal employment brings about a positive effect on their children’s motivation. Results show that relieving the gap in the children’s academic achievement may be possible by improving parent-child relationships and children’s motivation.
著者
山崎 諒 河内 俊憲 永田 靖典 柳瀬 眞一郎
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.853, pp.17-00181, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

Numerical prediction of air-entraining and submerged vortices in pump sumps is important for engineering applications. The validation of pump sump simulations, however, still is not enough, because the simulations is very complicated; for examples, treatment of gas-liquid interface, detection method of the vortices and selection of turbulence model etc. We conducted numerical simulations of the benchmark experiments of the pump sump conducted by Matsui et al. (2006, 2016) and compared the simulation with the experimental data to investigate the effects of turbulence model, grid density and detection method of the vortices. We determined a threshold of the gas-liquid fraction function of VOF method (α) and the second invariant of velocity gradient tensor (Q2) to detect the air-entraining and submerged vortices by using vorticity, respectively. This method well detected the vortices and well reproduced the experiments for the RANS simulation using SST k-ω model. Large eddy simulation using Smagorinsky model, however, was sensitive to the grid system and difficult to reproduce the experimental vortex structures even for the finest grid system having 3.7 million cells.
著者
山田 和彦 永田 靖典 高橋 裕介 莊司 泰弘 鈴木 宏二郎 今村 宰 秋田 大輔 石村 康生 中篠 恭一
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、超小型衛星に搭載可能な姿勢センサ群を開発し、ISSから放出される超小型衛星EGGを利用し、大気の影響を無視できない超低高度軌道での軽量膜面を有する宇宙機の挙動の実測を行った。超小型衛星EGGの運用において、希薄気体中における軽量な膜面に働く大気抵抗の影響により軌道が変更することを確認するなど、そのダイナミクスを理解するためや解析ツール開発の参照となる貴重な実測データを得ることができた。これらのデータは、運用終了時の衛星を非デブリ化する技術等、将来、超小型衛星にとって重要な技術開発のために役立つと期待される。
著者
高澤 秀人 末永 陽一 宮下 岳士 平田 耕志郎 若林 海人 高橋 裕介 永田 靖典 山田 和彦 TAKASAWA Hideto SUENAGA Yoichi MIYASHITA Takashi HIRATA Koshiro WAKABAYASHI Kaito TAKAHASHI Yusuke NAGATA Yasunori YAMADA Kazuhiko
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告: 大気球研究報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:24332216)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-22-008, pp.37-50, 2023-02-17

深宇宙探査を対象とした新しいサンプルリターンミッションに向けて薄殻エアロシェル型カプセルが提案されている.本カプセルのコンセプトにおける一番の特徴は,軽量・大面積エアロシェルを用いることで空力加熱を避けることである.本カプセルはパラシュートレスでの帰還が想定されていることから全速度域で空力的に安定に飛行することが求められている.実機は,直径0.8m,総質量10kg, 機軸周りの慣性モーメント0.58kg m2, 機軸垂直周りの慣性モーメント0.32kg m2のカプセルを想定している.薄殻エアロシェル型カプセルの低速域における動的不安定性を評価するために,2022年7月1日にゴム気球を用いた自由飛行実験RERA(Rubber balloon Experiment for Reentry capsule with thin Aeroshell) を実施した.気球実験機として,直径0.8m,総質量1.56kg,機軸周りの慣性モーメント0.033kg m2, 機軸垂直周りの慣性モーメント0.020kg m2のカプセルを使用した.カプセルは高度25kmにおいてゴム気球から切り離され,自由飛行を開始し,海上着水した.実験中のオンボードセンサーによる計測データとカメラによる撮影画像は地上局へ送信された.自由飛行においてカプセルは姿勢振動していたもののピッチ方向に縦回転することはなかった.自由飛行時のカプセル周りの流れ場はマッハ数0.15以下,レイノルズ数10(exp 5) オーダーであった.このことから再突入時と同オーダーのレイノルズ数環境下で試験を実施できた.実験機は低速域においてピッチ・ヨー方向の振動運動が発散しないことが示唆された.
著者
永田 靖典 山田 和彦 鈴木 宏二郎 今村 宰
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会論文集 (ISSN:13446460)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-8, 2019 (Released:2019-02-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

The satellite communication system without ground antennas is highly beneficial to ease construction and maintenance of the ground station. To realize it, the Iridium communication service which is consisted of 66 satellites on the LEO (Low-Earth Orbit) is focused. The telemeter and command data are transmitted and received through the Internet, Iridium ground station, and Iridium satellites. Then, only a PC connecting to the Internet is required for the present telecommunication system. To demonstrate this concept, the EGG (re-Entry satellite with Gossamer aeroshell and GPS/iridium) nanosatellite mission was conducted in 2017, which is the first satellite operated via only the Iridium SBD (Short Burst Data) communication. In this paper, the communication performance of the Iridium communication applied to LEO satellite is investigated and the EGG mission result is described. Trajectory-based simulation shows that the present system will function well even under the Doppler shift criteria, though the available time rate will be degraded. Actually, it worked successfully on the EGG mission regardless of the satellite location. Moreover, the telemeter data was acquired in semi-real time manner on the atmospheric-entry phase, which is very difficult for the ordinary ground antenna system. This should be the important feature of the present system.
著者
永田 靖
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

タグチメソッドは田口玄一博士が長年にわたり独力で開発してきたデータ解析手法の総称であり,世界中の技術者により用いられている.タグチメソッドは,①SN比に基づくロバストパラメータ設計,②MTシステムと呼ばれる独自の多変量解析手法,③損失関数を用いた評価技法の3つに分類できる.本研究では,①と②を取り上げ,既存手法の理論的性質を明らかにし,様々な改良手法を提案した.これらの研究成果のいくつかは,関連学協会からの賞の対象となり,この分野の研究者や技術者から高く評価されている.
著者
永田 靖典 石原 遼一 前田 真吾 河内 俊憲 柳瀬 眞一郎
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会論文集 (ISSN:13446460)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.16-24, 2019 (Released:2019-02-05)
参考文献数
14

The electrodynamic heat shield is new type of heat protection system for atmospheric-entry vehicle, which utilizes the Lorentz force acting on the weakly ionized plasma flow inside the shock layer. A huge amount of calculation is necessary to estimate overall effect of the electrodynamic heat shield, because its effect interacts with the atmospheric-entry trajectory. In the present study, the Viscous Shock Layer (VSL) analysis method for electrodynamic heat shield is proposed for the quick analysis, which can calculate much faster than Navier-Stokes (NS) simulation. For this purpose, the VSL equations for the electrodynamic heat shield analysis are introduced under the ideal gas assumption, including circumferential momentum equation and Maxwell equations. The new method is also proposed to solve the new VSL equations. By the comparison to the NS simulation, the new VSL method gives good estimations of drag force and wall heat flux for wide ranges of interaction parameter and Hall parameter although the slight difference of wall heat flux at the stagnation point is observed. Therefore, the present VSL method could be applicable to the estimation tool of the electrodynamic heat shield effect.
著者
藤田 治彦 井口 壽乃 近藤 存志 川島 洋一 池上 英洋 加須屋 明子 井田 靖子 橋本 啓子 天貝 義教 高木 陽子 高安 啓介 加嶋 章博 朝倉 三枝 三木 順子 永田 靖 塚田 耕一
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

美術、建築も含めた広い意味でのデザイン教育の歴史をおもなテーマにした国際会議、第1回ACDHT(Asian Conference of Design History and Theory)を本研究開始の平成27年10月に大阪大学で開催、平成29年9月には第2回ACDHTを東京の津田塾大学で開催した。その研究内容は同国際会議での発表論文を査読して掲載する ACDHT Journal の”Design Education beyond Boundaries”に掲載され、同国際会議ウェブサイトでも閲覧可能にしている。研究代表者と13名の研究分担者は、全員、積極的に調査研究を進めている。平成29年度は、特にインド、スペイン、ドイツ、中欧、イギリス(スコットランド)の研究成果が注目された。第2回ACDHTでは、第1回ACDHT以上に、本科研プロジェクト以外の研究発表者も国内外から参加し、このデザイン教育史研究を通じての国際交流を高めている。本研究は、各国のデザイン史、美術史、建築史等を専門とする日本の代表的研究者が研究分担者となり関連国、関連地域の独自の調査研究を進め、国際会議での発表でも高く評価されているているが、全世界を視野に入れれば専門の研究分担者のいない国や地域も多く、それが「デザイン教育史の国際的比較研究」の目的を達成するには唯一の欠点でもあった。研究代表者は、その欠点を十分に補って研究を総括する立場にあり、第1、第2年度には、担当する研究分担者のいない中国、東南アジア、インド等の調査を行い、平成29年度にはオランダと北米(アメリカ東部とカナダ)および南米(アルゼンチンとチリ)等で調査研究を行った。調査のために訪問した各国の主要教育機関からは多くの場合、重要な関連資料を提供され、旅費は必要だが、図書購入費は節約可能で、順調に調査研究を進めている。
著者
中村 光宏 成田 雄一郎 宮部 結城 松尾 幸憲 溝脇 尚志 則久 佳毅 高山 賢二 永田 靖 平岡 眞寛
出版者
一般社団法人 日本放射線腫瘍学会
雑誌
The Journal of JASTRO (ISSN:10409564)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.263-271, 2007-12-25 (Released:2008-03-28)
参考文献数
27

【目的】本研究の目的は,四次元イメージング手法の 1 つで,放射線治療分野におけるターゲット動体評価で期待されている 4D-CTの物理学的評価を行うことである.【方法】4D-CTは外部から取得した撮影対象の呼吸信号と各寝台位置で連続的に取得したCT画像を関連付けることで構成される.呼吸信号はRPMシステム(Varian Medical Systems, Inc., Palo Alto, CA, USA)で取得し,模擬腫瘍ファントムを周期的に運動させるために三次元動体ファントムシステムを使用した.4D-CT画像解析を行うためのファントム実験を行い,画像上の体積,重心,形状及び平均CT値を測定した.CT画像上で模擬腫瘍ファントムを自動的に抽出するために,CT値で閾値を設定した.【結果】三次元動体ファントムシステムの周期やCT閾値をさまざまに変化させて解析を行った結果,画像上で測定される模擬腫瘍ファントムの体積や平均CT値はこれらのパラメータに大きく依存したが,重心変位や球形度への影響は非常に小さかった.4D-CT画像には,位相ずれが含まれていたが,そのずれは3D-CT画像よりも大きく軽減されていた.【結論】 4D-CT画像解析を行うためのファントム実験を行った.4D-CTを用いることで,放射線治療計画時における臓器の輪郭入力がより正確にできるだけでなく,これらの移動範囲も定量的に評価できるようになるため,その臨床的意義は大きい.
著者
菊川 徳之助 永田 靖 瀬戸 宏 鈴木 公子 山下 純照 熊谷 保宏
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

演劇教育の実態調査を、目本演劇学会の会員を対象に、3度にわたって行ない、その分析を試みた。さらにはインターネットのホームページその他で、演劇教育関連科目の情報を集め、これを整理、分析し、演劇教育の実態を探る試みを行なった。また、演劇教育の方法を構築するための内容探求のため、科研費研究メンバーでの研修会を持ち、さらには、規模を大きくした演劇教育コロキウムを2年にわたって開催した。(1)2003年度には、8月に演劇教育の事例報告を中心にした研修会。大学演劇教育を考える基礎がためのため、10月と翌年1月に、宝塚北高校、神奈川総合高校の現場で2校の演劇教育の実際を材料に研修した。そして2月に演劇教育のコロキウムを開催した。大学演劇教育においては、演劇専攻を設置する大学と設置しない大学、あるいは、実技科目を設置する大学と設置しない大学、などの多様な軸を見据えて討論した。(2)2004年度は、8月に演劇教育の研究を深めて行く更なる方法の討議を行なう研修会を持ち。12月に、演劇教育を専門とする大学の授業と普通授業に演劇的手法を用いた演劇授業の2つの大学における演劇教育の現場を材料に研修会を行なった。そして、昨年度に続いて演劇教育コロキウムを3月に開催した。第1部は、「外国における演劇教育研究」で、<英米およびポーランドの高等教育機関における演劇教育とその研究をめぐって>を、第二部では、12月に研究対象とした2つの大学の演劇教育の姿を討論材料に討議を進め、第三部では、<これからの演劇教育>のタイトルのもとで、イ)学部に演劇教育の専門コースを設置し、尚且つ実技を伴う授業を設置。ロ)学部に演劇教育の専門コースを設置するが、理論(座学)中心の演劇教育を設置、などの5つのタイプをもった大学の演劇教育の姿の基に討議するコロキウムを行なった。これらの成果は、来年の「日本演劇学会紀要」にまとめる計画である。
著者
朴 英智 大井田 尚継 森 健一郎 永田 靖彦 藤崎 滋 秦 怜志 三宅 洋 富田 凉一 天野 定雄 福澤 正洋
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.637-640, 1999-08-30
被引用文献数
1

十二指腸乳頭部腺腫は比較的稀な疾患である。今回われわれは本疾患に対し乳頭全切除+乳頭形成術を施行し良好な結果を得た1例を経験したので報告する。症例は62歳, 男性。検診にて肝機能障害を指摘されるも放置していたが, 徐々に黄疸出現し当院内科入院となる。十二指腸内視鏡所見で十二指腸乳頭部に径2.5cm大の表面平滑で結節状の腫瘤を認め, 生検にてAdenomaと診断された。内視鏡的切除は困難と判断され手術目的にて当科紹介となり手術施行した。手術は術中迅速病理でAdenomaと診断され, 断端は腫瘍細胞 (-) であることを確認し, 乳頭全切除+乳頭形成術を施行した。経過良好で術後3週目に退院した。十二指腸乳頭腺腫は腺腫の再発, 腺腫内癌や癌の発生などが議論されているが, 腺腫の遺残がなく乳頭全切除が可能ならば乳頭全切除+乳頭形成術が十二指腸乳頭腺腫に対する術式の第一選択と考えられる。
著者
永田 靖
出版者
一般社団法人日本品質管理学会
雑誌
品質 (ISSN:03868230)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.78-88, 1997-04-15
被引用文献数
1

回帰分析において寄与率R^2,自由度調整済み寄与率R*^2は,モデルの適合度を表す指標として常に参照される統計量である.さらに,品質管理の分野では自由度2重調整済み寄与率R**^2が参照されることも多い.しかし,自由度調整済み寄与率や自由度2重調製済み寄与率は変数選択の立場から導入されたものである.変数選択の観点からよい統計量であるかどうかと,母寄与率の点推定の観点からよい統計量であるかどうかは別の問題である.本稿では,修正寄与率R*^<2+>=max {0, R*^2},R**^<2+>=max{0, R**^<2+>}を含めて,母寄与率の点推定の立場から検討する.得られる結論は次のとおりである.推定精度の観点からは,どのタイプの寄与率もサンプルサイズがかなり大きくないと信頼しにくい.このことを念頭に入れた上でモデルの適合度の尺度として用いるのならば,バイアスの程度とMSEの観点からR*^<2+>を用いるのが一番望ましい.R^2には重大な上側へのバイアスが存在する.また,自由度2重調製済み寄与率R**^2やその修正寄与率R**^<2+>は下側へのバイアスが重大であり,MSEも他の寄与率に比べて大きいので母寄与率の点推定量として適切ではない.
著者
上倉 庸敬 藤田 治彦 森谷 宇一 神林 恒道 渡辺 浩司 永田 靖 天野 文雄 奥平 俊六
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

最終年度をむかえるにあたって本研究が直面していた課題は以下のとおりであった。現在、日本の「芸術」は二極化している。ひとつは純粋化を維持しようとする「芸術」であり、いまひとつは「あたらしさ=総合」という視点からクロスオーバーをめざす「芸術」である。それは実は、日本のみならず、世界の各局地における「芸術」概念の共通構造である。「芸術」の事象における世界的な傾向とは、各局地に通底する先述の構造を孕みつつ、各局地で独自の展開をくりひろげている多様さのうちにこそある。では、(1)日本の近代「芸術」概念が成就し、また喪失したものはなんであるか。(2)なぜ、近代の芸術「概念」は死を迎えねばならなかったか。(3)「ユニ・カルチャー」の傾向にある現代世界で、日本に独自な「芸術」概念の現況は、どのような可能性をもっているか。(4)その可能性は日本のみならず世界の各局地に敷衍できるかどうか。解答の詳細は成果報告書を見られたい。解答をみちびきだすために準拠した、わたくしたちの基本成果はつぎのとおりである。(1)西欧で成立した「芸術」概念が19世紀半ばから100年、世界を支配した。(2)その支配は世界の各局地で自己同定の喪失をもたらした。日本も例外ではない。(3)20世紀半ばから世界の各局地で自己「再」同定がはじまった。(4)再同定は単なる伝統の復活ではなく、伝統による「死せる芸術概念」の取り込みである。(5)再同定は芸術「事象」において確立され、芸術「概念」において未完である(6)日本における「芸術」概念の誕生と死が示すものは、2500年におよぶ西洋美学理論の崩壊である。