著者
眞鍋 昇 宮野 隆 酒巻 和弘 若山 照彦 杉本 実紀 中山 瑞穂
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2001

脊椎動物は多様な生殖戦略をもつ。魚類の多くは数万〜数億のなかで幸運で優れた仔だけが生き残る。逆に、哺乳類は性周期毎に1〜10個の卵母細胞を排卵し、極わずかの仔を産み、それを大切に育てる。成熟した哺乳類卵巣には、胎児期に減数分裂の途中・ディプロテン期で休止した5〜100万個の卵母細胞が含まれ、これが性周期毎に発育・成熟して排卵に至る。この過程で、最終的に排卵にいたるものの100倍以上の卵胞が発達を開始し、99%以上が選択的に死滅する。この卵胞の選択的死滅は優秀で強靭な子孫を残す戦略として重要であるが、これを調節している分子制御機構は未解明である。本研究は、哺乳類卵巣において繰返される卵胞の選択的死滅を支配している分子機構を解明し、これをもとに細胞死を制御している遺伝子の発現をin vivo制御することで卵胞発育を人為的に支配しようとするものである。この新技術で、食肉処理場で捨てられる卵巣内の卵母細胞の有効利用を実現しようとしている。今年度は実証的研究に注力した。卵胞顆粒層細胞に特異的に発現している新規細胞死受容体を認識するユニークなモノクロナル抗体を用いてデコイ受容体を同定し、その発現動態を明らかとした。さらに細胞死受容体を介する細胞内アポトーシスシグナル伝達系を担うカスパーゼ系を阻害するcFLIPを見いだして遺伝子とアミノ酸配列を決定した。これの発現を腫瘍壊死因子α調節し、その制御に多面的機能をもつinterleukin-6が重要に関わっていることを示唆した。併行して、大型家畜の未成熟な卵胞を含む卵巣片を免疫不全マウス腎漿膜嚢に異種移植し、in vivo遺伝子導入とRNA発現阻止(iRNA)にて人為的に制御できるシステムを開発した。
著者
宿院 享 杉本 実紀 池田 俊太郎 久米 新一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.503-507, 2014-11-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
17

ICR系妊娠マウス18匹を対照区,2%塩化カリウム(KCl)給与区および5%KCl給与区に割り当てて,KCl給与区では交配後6.5日目から分娩14日後まで2%あるいは5%のKClを添加した飼料を給与し,マウスの体重,飼料摂取量,飲水量,腎臓重量,腎組織と血液成分に及ぼすKCl給与水準の影響を調べた.泌乳マウスでは分娩直後から飼料摂取量と飲水量が急増した.妊娠期と泌乳期のマウスの飼料摂取量にはKCl給与の影響は認められなかったが,KCl給与水準の上昇とともに飲水量が増加し,なかでも5%KCl区の泌乳マウスの飲水量が顕著に増加した.泌乳マウスの腎臓重量は5%KCl区で最大であり,血清KとCl濃度はKCl給与区で上昇した.しかし,泌乳マウスの腎組織にはKCl給与の影響は認められなかった.以上の結果から,KCl給与水準が上昇すると泌乳マウスでは飲水量と腎臓重量が増加し,腎臓に多大な負荷を及ぼすことが推察された.
著者
妙本 陽 眞鍋 昇 今居 譲 木村 嘉博 杉本 実紀 岡村 佳則 福本 学 酒巻 和弘 庭野 吉巳 宮本 元
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.641-649, 1997-08-25
被引用文献数
13 15

ブタ卵巣の健常卵胞から調製した顆粒層細胞を反復感作したマウスの脾細胞とミエローマから常法に従ってハイブリドーマを作成し, IgM抗体を産生しかつ免疫蛍光法にて健常卵胞顆粒層細胞とのみ反応するものを選抜した. 次いでハイブリドーマが産生する抗体が培養顆粒層細胞にアポトーシスを誘発出来るかを調べ, 2種の細胞株 (PFG-1およびPFG-2) を選抜した. PFG-1抗体は顆粒層細胞細胞膜の分子量55kD, 等電点5.9の蛋白質を認識し, PFG-2抗体は分子量70kD, 等電点5.4の蛋白質を認識することがウエスタンブロット法にて分かった. 顆粒層細胞を0.1μg/mlのPFG-1抗体あるいは10μg/mlのPFG-2抗体を添加した培地で3時間培養すると顆粒層細胞にアポトーシスを誘発することが, 核の形態, DNAのラダー形成およびフローサイトメーターによる核相解析にて確認できた.
著者
宮本 元 眞鍋 昇 宮川 恒 杉本 実紀 眞鍋 昇 九郎丸 正道 奥田 潔 木曾 康郎 宮本 元
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

人類が200年以上にわたって創り出してきた農薬、食品添加物等の多くの化合物が、生体の内分泌系のシグナル伝達を攪乱する内分泌攪乱物質として人類の生存を脅かすことが分かってきた。新規な原理に基づいた非侵襲的かつリアルタイムに生殖毒性を評価できる技術システムを構築し、従来法とは比較できない精度で速やかに生殖毒性を評価できる先端技術を確立することで、化合物の生殖毒性を的確に評価できる未来を開拓する基盤技術を開発することが本研究の目的である。本年度は、内分泌撹乱物質とホルモン受容体の結合様式、受容体分子の立体構造変化等を解析し、環境系に存在する様々な化合物の生殖毒性をリアルタイムに評価するシステムの確立を目指して研究を進めた。麻酔下の生きている動物をNMRシグナルを定量検出できる特殊な生体NMRプローブに保定し、胎児におけるNMRシグナルを部位特異的にリアルタイムに観測して、このデータをワークステーションにて3次元立体画像データに再構築して解析できる測定アプリケーションの作成と最適測定条件の決定を行った。毒性発現機構の生殖生理学的解明のため、遺伝子工学的にオーファン受容体に様々な構造変異を誘導し、化合物と受容体の相互的結合特性をNMRにて観測して分子構造学的に毒性を予測する技術を開発している。加えて、卵母細胞を包み込んで保育する卵胞は遺伝子に制御された細胞死によって選択されているが、これを調節している細胞死受容体のシグナルを制御している細胞内アポトーシス阻害因子(cFLIP)を新たに見いだし、これを介した細胞死シグナル伝達機構を解明し、分子レベルで化合物を評価する系を開発した。
著者
米田 稔 中山 亜紀 杉本 実紀 三好 弘一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究ではシリカナノ粒子を対象として、一般環境からのナノ粒子の曝露量評価を行った。シリカナノ粒子の生活環境中大気濃度をロープレッシャーインパクターで捕集し、ICP-AESで測定した。その結果、生活環境空気中シリカナノ粒子濃度として12. 7ng/m3という値を得た。この値をマウスの生体組織中シリカナノ粒子の分布モデルの計算に使用した結果、シリカナノ粒子の内、0. 3pgは肝臓に蓄積することが、また人間に対する分布モデルの計算では肝臓に1200pgのシリカナノ粒子が蓄積することが明らかとなった。