著者
伊藤 研一 清水 一雄 吉田 明 鈴木 眞一 今井 常夫 岡本 高宏 原 尚人 筒井 英光 杉谷 巌 杉野 公則 絹谷 清剛 中駄 邦博 東 達也 野口 靖志 阿部 光一郎 内山 眞幸 志賀 哲
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-313, 2014 (Released:2015-02-17)
参考文献数
4

本邦においても進行甲状腺癌に対する分子標的薬が承認され,放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性進行性分化型甲状腺癌に対する治療が新しい時代に入った。しかし,適応患者の選択に際しては,病理組織型,進行再発後の放射性ヨウ素(RAI)治療に対する反応などを適切に評価した上で判断することが重要であり,分子標的薬特有の有害事象に対する注意も必要である。分子標的薬の適正使用に際しては治療による恩恵と有害事象を十分に考慮した適応患者の選択が肝要である。また,未解決の問題に関しては,本邦での臨床試験による検討が必要と考えられる。
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.135-138, 2012 (Released:2013-02-28)
参考文献数
6
被引用文献数
1

日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会共同編集による『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』では,甲状腺乳頭癌(PTC)に対する甲状腺切除術式について,「甲状腺全摘術が,甲状腺葉切除術に比べて,再発・生命予後を向上させるというエビデンスは弱いが,ハイリスクと評価したPTCに対して甲状腺全摘術を推奨する」と述べ,低危険度癌に対しては甲状腺温存切除を容認している。当科における経験では低危険度群の治療成績は甲状腺切除範囲にかかわらず良好であり,最近では患者のインフォームド・デシジョンを重視して治療方針を決定している。一方,高危険度群の治療成績は甲状腺全摘・放射性ヨード内用療法によっても劇的な改善は見込めそうになく,他臓器合併切除なども含めた局所根治手術に加え,新たな治療法の開発が期待される。PTCのリンパ節郭清については予防的側頸部郭清を行わない方針により良好な治療成績が得られている。
著者
杉谷 巌 吉本 世一 三谷 浩樹 保喜 克文 苦瓜 知彦 川端 一嘉 鎌田 信悦 柳澤 昭夫
出版者
Japan Society for Head and Neck Cancer
雑誌
頭頸部腫瘍 (ISSN:09114335)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.41-46, 2000-03-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

甲状腺濾胞癌のすべてを術前に濾胞腺腫と鑑別することは不可能であるが, 遠隔転移を生ずる可能性の高い濾胞癌を区別することができれば臨床上の意味は大きい。濾胞癌34例 (1985~1999年, 男11, 女23, 27~76歳) を対象に遠隔転移例の臨床病理学的特徴を検討した。遠隔転移例は11例 (骨7, 肺2, 骨+肺2)で, うち4例が原病死しており, 非遠隔転移23例 (原病死0) より有意に予後不良であった。遠隔転移例では非遠隔転移例と比較して, (1) 術後血中サイログロブリン値が正常化しない (全例)。(2) 割面の肉眼所見で広範浸潤型を呈し (11例中10例), 厚い被膜を持つ症例が多い (11例中8例が1mm以上の厚さの被膜)。(3) 組織学的に脈管侵襲陽性 (全例) で, 低分化成分を持つ症例が多い (11例中10例)。といった特徴があった。これらの特徴を有する症例については, 例え初診時に遠隔転移がなくとも長期の経過観察が重要と考えられた。
著者
竹内 賢吾 杉谷 巌
出版者
公益財団法人がん研究会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

日本人の甲状腺乳頭癌における既知ドライバー変異分布に関して、BRAF V600Eが約80%、NRAS Q61Rが約1%、融合遺伝子が約6%に存在することが判明した(ドライバー変異不明 約13%)。未分化癌では、BRAF V600Eが約84%に存在することが明らかとなった。甲状腺葉切除術(LT)とするか甲状腺全摘出術(TT)とするかについて明確な適応基準が確定されていない1~4cmの甲状腺内乳頭癌(PTC)において、TERTプロモーター変異が陰性であれば、TTではなくLTを施行することで、治療成績を落とすことなく過剰治療の防止および術後の合併症の低減が期待できることを示した。
著者
杉谷 巌 川端 一嘉 鎌田 信悦 柳澤 昭夫
出版者
Japan Society for Head and Neck Cancer
雑誌
頭頸部腫瘍 (ISSN:09114335)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.78-84, 2004-04-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

遠隔転移 (M) は甲状腺乳頭癌 (PTC) において最大の予後不良因子であるが, PTCのMには長期間進行しない例も少なくなく, その予後予測は容易でない。当科におけるPTC 604例 (1976~98年, 微小癌は除く) 中, 初回治療時Mを認めたものは32例 (5.3%), 術後経過観察中にMを認めたものは26例 (4.3%) であった。全M症例58例中28例 (48.3%) が原病死していたが, うち5例は局所の原因による死亡であった。一方, 7例は治療によりMが消失していた。5年以上の経過観察でMが進行していない24例とMが急速に進行した24例を比較すると, 前者には若年者, Mが小さいもの, 肺のみに遠隔転移したもの, 原発巣の病理組織像が高分化成分主体のものが有意に多かった。Mに対しては131Iによる内照射治療や切除手術を適宜行うが, 特に進行の遅いことが予測されるM症例では, 局所の制御も重要であると考えられた。
著者
五十嵐 健人 清水 一雄 岡村 律子 赤須 東樹 長岡 竜太 眞田 麻理恵 杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.200-204, 2016 (Released:2017-01-26)
参考文献数
12

甲状腺・副甲状腺疾患に対する内視鏡手術が開発され,他の領域で内視鏡手術が次々と保険収載されるなか,医療行政変遷のため保険収載には至らなかった。2016年の診療報酬改定においてようやく甲状腺良性疾患や副甲状腺機能亢進症やバセドウ病に対して内視鏡下手術が保険収載された。内視鏡下甲状腺手術ワーキンググループ(WG)は2014年に内分泌外科領域における内視鏡下手術の先進医療Aを開始する時に設立された。2015年WGで臨床成績を検討し,通常手術と比較し安全性や有効性に遜色ない結果を示した。また,整容性に対する高い患者満足度や在院日数の短縮などの医療経済面への貢献も示す結果であった。それらの結果が評価され保険収載されたものと思われる。一方,甲状腺癌に対しては同様のデータであったが先進医療Aの継続となった。今後は保険収載に伴う問題や甲状腺悪性腫瘍に対する保険収載の課題など検討すべき問題が存在する。
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.261-265, 2014 (Released:2015-02-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1

乳頭癌のリスクに応じた取扱いが推奨される中,甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版では,乳頭癌のリスク分類法としてTNMステージングを推奨したうえで,T1N0M0の低リスク癌には葉切除を,T>5cm,高度のN1,高度のEx,M1などの高リスク癌には全摘を推奨した。中間のグレーゾーンに対する方針は術後合併症の発生頻度と予後のバランスをもとに,個々の症例について決定することが求められた。癌研式乳頭癌の癌死危険度分類では,M1,50歳以上で高度のExまたは3cm以上のNを認めるものが高危険度群で,それ以外はすべて低危険度群とした。低危険度群の82%に甲状腺温存手術が行われたが,術式による予後の差はなく,疾患特異的10年生存率は99%以上であった。再発率は8%で,再発危険因子として,年齢60歳以上,T>3cm,Ex2,2cm以上のNが有意であった。これらに該当する症例をグレーゾーンとして,甲状腺全摘・放射性ヨウ素内用療法を推奨すべきかどうかは今後の検討課題である。
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.187-191, 2020 (Released:2020-11-28)
参考文献数
16

術中神経モニタリング(IONM)により,甲状腺・副甲状腺手術中の反回神経の同定と機能監視,手術終了時における機能確認が可能となった。しかし,反回神経温存のコツはその解剖の理解と愛護的な操作であることは変わらない。反回神経はしばしば喉頭外で分枝するが声帯運動枝は最も前方を通ること,Berry靭帯付近での牽引は麻痺の原因となることを知ったうえで,適切にIONMを使用することが重要である。IONMはまた,非反回神経の迷走神経からの分岐点の同定,右縦隔甲状腺腫の場合の神経の走行確認などにも役立つ。進行甲状腺癌や再手術例では必須のデバイスであり,両側反回神経の剝離操作を要した場合の気管切開の必要性判断にも活用できる。国際神経モニタリング研究グループ(INMSG)は2018年にガイドラインを発表し,IONMを用いた浸潤性甲状腺癌における反回神経の取扱いや二期的手術の適応について具体的な手順を示した。
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.165-170, 2019 (Released:2019-11-25)
参考文献数
11

甲状腺未分化癌(ATC)は稀ながら極めて予後不良なorphan diseaseで,その1年生存率は5~20%程度である。患者の多くは高齢者であり,外科的根治切除,放射線外照射,多剤併用化学療法などによる集学的治療を積極的に行うべきか,quality of survival(QOS)を重視してbest supportive careに徹するべきか迷う場合も少なくなかった。ATCの予後因子研究によって,prognostic index(PI)が開発され,その有用性が国内多施設共同研究レジストリである甲状腺未分化癌研究コンソーシアムにおいて検証された。その結果,腫瘍の進展度(stage)や患者状態と合わせてPIなどの生物学的予後因子を考慮することで,積極的治療が生存期間の延長をもたらしうる群とQOS維持を重視すべき群とを区別したうえでのATCの個別化治療がある程度可能となった。
著者
志村 英二 杉谷 巌 戸田 和寿 井下 尚子 佐藤 由紀子 元井 紀子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.152-155, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
14

症例は36歳女性,健康診断にて前頸部腫瘤を指摘され,甲状腺腫瘍疑いにて当科を紹介受診した。頸部超音波検査にて甲状腺左葉下極に27×22×18mm大の辺縁分葉状の低エコー結節を認めた。穿刺吸引細胞診では,細胞質内に多数の好酸性顆粒を認めた。甲状腺腫瘍あるいは甲状腺外迷入病変を考え,甲状腺左葉切除術を施行した。病理学的所見では,腫瘍は甲状腺外軟部組織を中心に存在し,甲状腺組織にも浸潤性に増殖していた。腫瘍細胞は好酸性,顆粒状の豊かな細胞質を持つ類円形細胞よりなり,核異型は認めなかった。免疫染色の結果,腫瘍細胞はS100陽性であった。以上より,顆粒細胞腫と診断した。顆粒細胞腫の大部分は良性腫瘍と考えられているが,稀に遠隔転移や悪性症例の報告もされており,経過観察に注意を要する。
著者
壁谷 雅之 北野 睦三 齊藤 祐毅 古川 麻世 杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.322-325, 2012 (Released:2013-05-01)
参考文献数
13

症例は,甲状腺乳頭癌の38歳,女性。甲状腺癌(T4aN0M1,stageⅡ)の診断で,34歳7カ月時点に甲状腺全摘,気管合併切除(気管輪1-5,端々吻合),中心領域郭清術が施行された。術後,多発肺転移に対し内照射療法を計4回施行しているが,肺転移巣は徐々に増多,増大した。38歳4カ月時点で軽い上気道炎を契機に呼吸苦が出現した。入院の上全身管理を行ったが呼吸不全のため永眠された。甲状腺乳頭癌は,非常に予後が良いことで知られ,特に若年で発症した場合は更に高い治癒率のため本疾患で亡くなることは稀有である。また,本疾患は腫瘍増殖速度が非常に緩徐である,疾患特異的治療として内照射療法が有効である,などの他の悪性腫瘍とは異なる特徴がある。これら本来治療する上で利点と言える特性は,がん終末期においては反対にその対策を困難にする。今回,生命予後が予測できず対応に苦慮した症例を経験したので報告した。
著者
杉谷 巌 藤本 吉秀
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-22, 2013 (Released:2013-05-31)
参考文献数
9

一般的に予後の良い甲状腺乳頭癌に対しては可及的に甲状腺を温存する手術を行って甲状腺機能を維持し,骨密度低下の懸念もあるTSH抑制療法は積極的には行わないという治療方針は,日本では主流であったが,欧米のガイドラインとは相反する。われわれの方針の妥当性を立証するためにTSH抑制療法の乳頭癌に対する再発抑制効果についてのランダム化比較試験を行った。患者登録開始から13年を要したが,無再発生存率においてTSH抑制療法非施行群の成績は,施行群に比較して10%以上劣っていないことが証明され,5%以上劣っていないことが示された。また,ランダム化試験に並行してTSH抑制の骨密度に及ぼす影響についての前向き比較試験を施行した。その結果,とくに閉経後女性ではTSH抑制による骨密度低下が顕著となる傾向があることが示された。これらの研究を通じて気づいた,高位のエビデンスを得るための研究を日本から世界に発信するうえで必要なことについて述べる。