著者
杉野 圭史
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.190-195, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
16

間質性肺炎が疑われた場合は,予後の面および治療内容を決定する上でも特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)とそれ以外の間質性肺炎を鑑別することが重要なポイントである.現在,IPFに対しては抗線維化薬であるニンテダニブおよびピルフェニドンが推奨されている.一方,非特異的間質性肺炎,膠原病肺,薬剤性肺炎,過敏性肺炎などでは,ステロイド単独投与や免疫抑制薬との併用療法が一定の効果を示すことが知られている.加えて,急性増悪時のステロイド治療に加えてトロンボモジュリンや抗線維化薬の併用,肺高血圧合併例に対するホスホジエステラーゼ5型阻害薬,エンドセリン受容体拮抗薬などの導入,閉塞性換気障害を有する気腫合併肺線維症患者に対する吸入長時間作動型抗コリン薬・β刺激薬の導入,慢性安定期の患者においては,リハビリテーション導入を考慮する.間質性肺炎患者では,労作時の呼吸困難による身体機能低下がdeconditioningをもたらし,運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に繋がると考えられる.これら運動耐容能の減少,QOLの低下,不安やうつ状態に対して,呼吸リハビリテーション(特に運動療法)は改善効果が期待できる.本稿では,間質性肺炎の診断と治療について,自験例を交えながら概説する.
著者
杉野 圭史 本間 栄 宮本 篤 高谷 久史 坂本 晋 川畑 雅照 岸 一馬 坪井 永保 吉村 邦彦
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.97-103, 2007 (Released:2007-05-21)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

目的.肺結核と原発性肺癌の合併症例の臨床的特徴ならびに問題点を分析し,今後の対策について検討した.対象および方法.1985年から2005年までの21年間に当院に入院した活動性肺結核患者788例および肺結核治療後の患者240例の中で,原発性肺癌を合併した17例を対象とし,患者背景,画像所見,予後をretrospectiveに検討した.結果.17例の内訳は男性15例,女性2例,平均年齢は73.4歳であった.肺癌の組織型では,腺癌が10例と最も多く,病期では,同時型(活動性肺結核が肺癌と同時期に発症・発見されている症例)が5例で全例III期,IV期の進行例であったのに対し,異時型(肺結核後遺症あるいは,すでに化学療法が終了し排菌のない症例)12例では,4例(33%)においてI期の早期肺癌が発見された.両疾患の病巣が同側肺あるいは同一葉内に存在する割合は,同時型でそれぞれ4例(80%),3例(60%)で,異時型ではそれぞれ8例(67%),1例(8%)で,同時型の方が同一葉内に存在する傾向が高かった.考察.肺結核と肺癌が合併した症例のうち,とくに同時型では,進行肺癌で診断されることが多く,予後が不良である.注意深い観察と積極的な診断および治療へのアプローチが必要である.
著者
杉野 圭史
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.208-214, 2023-04-28 (Released:2023-04-28)
参考文献数
20

間質性肺炎では,労作時に著明な低酸素血症を呈することが多く,6分間歩行試験等でその実態を明らかにすることは大変重要である.また,急性増悪時には高度の呼吸不全を呈するため,使用法が簡便かつ患者の不快が少ない高流量鼻カニュラ療法が主流となっている.間質性肺炎は,労作時の呼吸困難による身体機能低下がディコンディショニングをもたらすため,呼吸リハビリテーションは改善効果が期待できる.特に顕著な胸郭の運動制限を認める上葉優位型肺線維症患者では,コンディショニングおよび低負荷から継続可能な運動療法を施行することが重要である.また,急性増悪合併時には,大量のステロイド投与などによる筋力低下や呼吸機能障害をのこす可能性が高いことから,早期からの呼吸リハビリテーションが必要となる.そこで今回,間質性肺炎患者に対する急性期および慢性期の酸素療法および呼吸リハビリテーションの現状と課題について述べたい.
著者
小林 紘 磯部 和順 鏑木 教平 吉澤 孝浩 佐野 剛 杉野 圭史 坂本 晋 高井 雄二郎 栃木 直文 本間 栄
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.190-195, 2017-06-20 (Released:2017-07-04)
参考文献数
17

目的.Epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor(EGFR-TKI)治療に制酸剤併用が与える影響を明らかにする.方法.2008年8月から2014年12月にGefitinib/Erlotinibで加療されたEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌98例を対象とし,制酸剤併用群と非併用群へのEGFR-TKIの臨床効果を後方視的に検討した.結果.Gefitinib群の制酸剤併用は25/56例(44.6%)で,Erlotinib群は33/42例(78.6%)であり,Gefitinib群/Erlotinib群の奏効率,病勢制御率,無増悪生存期間は制酸剤併用の有無で有意差は認めず,Erlotinib群のGrade 3以上の肝障害は,制酸剤併用群が有意に少なかった(3% vs. 22%,p = 0.023).結論.制酸剤併用はEGFR-TKIの治療効果や毒性に大きな影響を与えないことが示唆された.
著者
小野 紘貴 杉野 圭史 渡邉 菜摘 安藤 真弘 蛇澤 晶 坪井 永保
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1_2, pp.86-90, 2021-10-01 (Released:2022-01-26)
参考文献数
19

症例は 78歳,女性. X年 1月下旬から著明な全身倦怠感,食欲不振が出現し当院消化器科を受診.胸部 -骨盤造影 CTで肺門,縦隔リンパ節の腫大を認め当科へ紹介となった.気管支鏡検査を施行し,気管支肺胞洗浄でリンパ球比率 46.4%およびCD4/8比4 .7と上昇を認めた. #4Rリンパ節からの生検で非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を認めた.頭部 MRI検査で下垂体柄の腫大を認め,内分泌学的検査でLH,FSH,TRH, ACTHといった下垂体前葉ホルモンの低下を認めた.ガリウムシンチグラフィで両側肺門部,縦隔リンパ節,両側涙腺および耳下腺に対称性の集積を認めた.以上から下垂体機能低下症を合併した全身性サルコイドーシスと診断し X年 2月より PSL 60mg/日の内服を開始した.また尿崩症の合併に対しデスモプレシン点鼻を併用した.治療開始後,食欲不振,全身倦怠感は消失し同年 2月の CT検査では両側肺門,縦隔リンパ節腫大は消失し多尿も改善を認めた.
著者
海老原 覚 杉野 圭史 本間 栄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.191-193, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
7

間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの有用性が近年指摘されている.ここで重要なのは間質性肺炎における呼吸リハビリテーションにおいて,どのような患者が適しているのか,どのような呼吸リハビリテーションが適しているのか,ということである.それを解明することを目的として,Toho Rehabilitation for Interstitial Pneumonia Study(TRIP study)を立ち上げた.そこでの患者の評価として基本属性に加え,病態把握,重症度分類(JRS),運動耐用能とQOLの評価を行っている.なかでも我々は咳嗽に注目して評価している.咳嗽は間質性肺炎の主症状であり,QOL及びリハビリテーションの阻害因子のみならず,N- アセチルシステイン吸入療法などにおける薬物療法の阻害因子であるからである.さらに間質性肺炎において咳嗽の重積発作は気胸を引き起こし,重症呼吸不全から死に至るきっかけにもなるからである.咳嗽に関するQOLの問診票としてレスター咳問診票(LCQ)がある.さらに客観的に咳嗽を記録できる咳モニターシステムの開発が待たれる.外来リハビリテーションの頻度と期間は,週1回(60分間)を3ヵ月間継続的に行い,コンディショニングに引き続き有酸素運動を行い,さらに四肢のレジスタンストレーニングを行うメニューとしている.さらに私たちは間質性肺炎に特異的な教育用の教材の開発を行っている.そのような教材を用いることにより,リハビリテーションの効果が一層高まるものと思われる.
著者
杉野 圭史 海老原 覚 本間 栄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.194-199, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
17

間質性肺炎患者では,労作時の呼吸困難による身体活動性の低下がdeconditioningをもたらし,運動耐容能の低下,QOLの悪化,不安やうつ状態に繋がると考えられる.これら運動耐容能の低下,QOLの悪化,不安やうつ状態に対して,呼吸リハビリテーション(特に運動療法)による改善効果が期待できる.間質性肺炎患者を対象とした5つの無作為化比較試験のシステマティックレビューにより,呼吸リハビリテーションは運動耐容能(6分間歩行距離の延長)の中等度改善,呼吸困難およびQOLの弱いながらの改善が示されており,推奨されている1).間質性肺炎(特に特発性肺線維症)および気腫合併肺線維症患者に対して,呼吸リハビリテーションを行うに当たり,呼吸器内科医は,豊富な経験と知識を有するリハビリテーション科医師および理学療法士の協力が必要であり,チームによる定期的なミーティングを行うことが重要である.さらに,患者選択基準や運動療法の頻度や強度など多面的な解析により,実施方法について詳細な検討を行い,重症度に合わせた最適な呼吸リハビリテーションプログラムを作成することも必要不可欠である.その結果,これらの患者に対して安全でより効果的な呼吸リハビリテーションを導入することが可能になると考える.
著者
杉野 圭史
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.190-194, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
22

間質性肺炎診療において,適切な診断と重症度や予後リスク評価を考慮した早期治療介入は臨床上,最も重要なポイントである.坪井病院は,2018年1月より福島県初の間質性肺炎・肺線維症センターを開設した.最終診断は,間質性肺炎を専門とする臨床医,病理医,放射線科医による合議が重要で,当センターでも定期的に実施している.特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)の薬物治療に関しては,日本の重症度分類で最軽症のIPF患者のうち,6分間歩行試験時の最低SpO2 90%未満の存在や海外の重症度分類でGAP stage II以上の患者は,明らかに予後不良であり,早期から抗線維化薬を導入することにより,努力性肺活量の低下抑制効果を得ている.最近では,全身性強皮症や進行性線維化型間質性肺疾患の患者においても,ニンテダニブの有効性と安全性が証明された.但し,どのタイミングでニンテダニブを導入するべきかについては,今後も議論を要する.
著者
本間 栄 村松 陽子 杉野 圭史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.359-365, 2010-04-15

はじめに 特発性肺線維症(IPF)増悪例の治療には,これまでステロイド剤が広く使用され,米国胸部学会(ATS)のIPF診療のガイドライン1)では,進行性に悪化するIPFに対してステロイド剤と免疫抑制剤であるシクロフォスファミド,またはアザチオプリンの併用を推奨してきた.しかし,これらの薬剤を併用しても効果は十分とは言えず,血球減少などの副作用で薬剤を中止せざるを得ない症例も少なくない.このため,最近では線維化が顕著となる以前の疾病早期からの治療導入が必要であると考えられるようになっている. グルタチオンはグルタミン,システイン,グリシンの3つのアミノ酸から合成される.IPFの末梢気腔ではグルタチオンが減少し,レドックスバランスの不均衡が生じ,特に進行例において顕著になる(図1~3)2~4).N-アセチルシステイン(NAC)はグルタチオンの前駆物質として抗酸化作用を有するとともに,直接活性酸素のスカベンジャーとして作用し,さらに炎症性サイトカインの産生を抑制することで,抗線維化作用を発揮すると考えられている(図4)5~7). また,最近の基礎実験において,IPFの線維化機序の一つである肺胞上皮細胞における上皮-間葉転換(EMT)がNAC投与により抑制されることが示された.これは,細胞内グルタチオンの補充とTGF-β1に誘導される細胞内活性酸素種産生を抑制する機序が主に関与している8,9).
著者
杉野 圭史 仲村 泰彦 鏑木 教平 佐野 剛 磯部 和順 坂本 晋 高井 雄二郎 奈良 和彦 渋谷 和俊 本間 栄
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1_2, pp.51-55, 2017-10-25 (Released:2018-03-09)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は36歳女性.主訴は乾性咳嗽,労作時息切れ.X-8年頃より左下腿腓骨部に皮下腫瘤を自覚したが放置.X-4年8月に顔面神経麻痺,右眼瞳孔散大が出現し,PSL 40 mg内服により約1 ヶ月で治癒.その後,原因不明の頭痛,難聴,嗅覚異常が出現.X-2年11月頃より乾性咳嗽および軽度の労作時息切れが出現.X-1年4月の健康診断にて胸部異常陰影を指摘され全身精査の結果,全身性サルコイドーシス(肺,副鼻腔,神経,皮膚,肝臓)と診断された.挙児希望およびステロイド恐怖症のため,吸入ステロイドを約1年間使用したが,自覚症状の改善は得られず中止.当科紹介後にご本人の希望で漢方薬(人参養栄湯7.5 g/日,桂枝茯苓丸加薏苡仁9 g/日)を開始したところ,開始4 ヶ月後より咳嗽および労作時の息切れはほぼ消失,開始6 ヶ月後には,胸部画像所見,呼吸機能検査所見の改善を認めた.その後も本治療を継続し,現在まで3年間にわたり病状は安定しており,再燃は認めていない.