著者
海老原 孝枝 大類 孝 海老原 覚 辻 一郎 佐々木 英忠 荒井 啓行
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.448-451, 2007 (Released:2007-09-06)
参考文献数
3
被引用文献数
2

Angiotensin converting enzyme (ACE) inhibitor plays an important role not only as an antihypertensive drug but also for prevention of various complications related to geriatric syndrome. Pneumonia in the disabled elderly is mostly due to silent aspiration of oropharyngeal bacterial pathogens to the lower respiratory tract. Aspiration is related to the dysfunction of dopaminergic neurons by cebrovascular disease, resulting in impairments in both the swallowing and cough reflexes. ACE inhibitor can increase in the sensitivity of the cough reflex particularly in older post-menopausal women, and improvement of the swallowing reflex. In a 2-year follow-up study in stroke patients, patients who did not receive ACE inhibitors had a higher risk of mortality due to pneumonia than in stroke patients who were treated with ACE inhibitor. Moreover, the mortality of pneumonia was significantly lower in older hypertensive patients given ACE inhibitors than in those treated with other antihypertensive drugs. On the other hand, we found a new benefit of ACE inhibitor on the central nervous system. The mortality in Alzheimer's disease patients who received brain-penetrating ACE inhibitor was lower than in those who received other antihypertensive drugs. In a 1-year follow-up study, cognitive decline was lower in patients receiving brain-penetrating ACE inhibitors than in patients receiving a non-brain-penetrating ACE inhibitor or a calcium channel blocker. Brain-penetrating ACE inhibitors may slow cognitive decline in patients with mild to moderate Alzheimer's disease. ACE inhibitor might be effective for the disabled elderly, resulting in the prevention of aspiration pneumonia and Alzheimer's disease for the elderly.
著者
海老原 覚
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.2142-2148, 2020-10-10 (Released:2021-10-10)
参考文献数
12
被引用文献数
2

咳反射は,これまで延髄の脳幹部反射と捉えられ,上位中枢神経系の関与はあまり考えられてこなかった.しかし,近年,咳が出るときは,咳衝動(urge-to-cough)という感覚が先行して大脳皮質に伝わり,その咳衝動が咳反射を調節していることがわかってきた.加齢によりフレイル状態になると,まず嚥下反射が障害され,さらに,フレイルが進行して咳衝動がなくなり,その後,咳反射が消失して誤嚥性肺炎が発症することがわかってきた.
著者
大國 生幸 海老原 覚
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1391-1398, 2021-12-18 (Released:2022-04-13)
参考文献数
45

摂食嚥下は,食塊を口腔から咽頭・食道を経て胃まで送る一連の過程で,通常5期に分けられる.中でも咽頭期は嚥下反射が中心となり,咽頭感覚は摂食嚥下において重要な役割を担う.咽頭感覚に関連する神経学的または構造的な欠陥は摂食嚥下に影響を及ぼすため,咽頭感覚障害はさまざまな疾患に不随する摂食嚥下障害の要因の1つとなる.咽頭感覚障害のリハビリテーション医療は,実際に食物を用いて行う直接訓練と,食物を用いない間接訓練とに分けられる.近年,感覚および運動経路の刺激に基づく新しい治療法として,刺激療法が着目されている.リハビリテーション医療は,個々の患者の状態や摂食嚥下機能に基づいて行う必要があり,多職種からなるチームによる治療が推奨される.
著者
海老原 覚 杉野 圭史 本間 栄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.191-193, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
7

間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの有用性が近年指摘されている.ここで重要なのは間質性肺炎における呼吸リハビリテーションにおいて,どのような患者が適しているのか,どのような呼吸リハビリテーションが適しているのか,ということである.それを解明することを目的として,Toho Rehabilitation for Interstitial Pneumonia Study(TRIP study)を立ち上げた.そこでの患者の評価として基本属性に加え,病態把握,重症度分類(JRS),運動耐用能とQOLの評価を行っている.なかでも我々は咳嗽に注目して評価している.咳嗽は間質性肺炎の主症状であり,QOL及びリハビリテーションの阻害因子のみならず,N- アセチルシステイン吸入療法などにおける薬物療法の阻害因子であるからである.さらに間質性肺炎において咳嗽の重積発作は気胸を引き起こし,重症呼吸不全から死に至るきっかけにもなるからである.咳嗽に関するQOLの問診票としてレスター咳問診票(LCQ)がある.さらに客観的に咳嗽を記録できる咳モニターシステムの開発が待たれる.外来リハビリテーションの頻度と期間は,週1回(60分間)を3ヵ月間継続的に行い,コンディショニングに引き続き有酸素運動を行い,さらに四肢のレジスタンストレーニングを行うメニューとしている.さらに私たちは間質性肺炎に特異的な教育用の教材の開発を行っている.そのような教材を用いることにより,リハビリテーションの効果が一層高まるものと思われる.
著者
杉野 圭史 海老原 覚 本間 栄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.194-199, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
17

間質性肺炎患者では,労作時の呼吸困難による身体活動性の低下がdeconditioningをもたらし,運動耐容能の低下,QOLの悪化,不安やうつ状態に繋がると考えられる.これら運動耐容能の低下,QOLの悪化,不安やうつ状態に対して,呼吸リハビリテーション(特に運動療法)による改善効果が期待できる.間質性肺炎患者を対象とした5つの無作為化比較試験のシステマティックレビューにより,呼吸リハビリテーションは運動耐容能(6分間歩行距離の延長)の中等度改善,呼吸困難およびQOLの弱いながらの改善が示されており,推奨されている1).間質性肺炎(特に特発性肺線維症)および気腫合併肺線維症患者に対して,呼吸リハビリテーションを行うに当たり,呼吸器内科医は,豊富な経験と知識を有するリハビリテーション科医師および理学療法士の協力が必要であり,チームによる定期的なミーティングを行うことが重要である.さらに,患者選択基準や運動療法の頻度や強度など多面的な解析により,実施方法について詳細な検討を行い,重症度に合わせた最適な呼吸リハビリテーションプログラムを作成することも必要不可欠である.その結果,これらの患者に対して安全でより効果的な呼吸リハビリテーションを導入することが可能になると考える.
著者
金崎 雅史 古川 菜々美 太田垣 沙和 沖中 郁美 海老原 覚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【背景】咳嗽は主要な呼吸器症状であり,継続的で過剰な咳嗽はQOLを著しく低下させる。また強いcough epochは運動療法の進行の阻害因子になる。しかし,咳嗽に対する十分な治療選択はなく,使用頻度の高いOTC医薬品はnon effctiveとされている。呼吸困難はそれ自体が不快な呼吸感覚であるが,咳は咳刺激に対するmotor actionを指している。この概念と一致して,古くから咳は延髄孤束核を中枢とする反射弓をもつと考えられてきたが,近年,咳が生じる前にUrge-to-cough(筆者らは咳衝動と呼んでいる)と呼ばれる不快な呼吸感覚が先行して,咳のmotor actionを修飾することが知られている。また,fMRIによる解析では,咳反射は脳幹より上位の脳機能による修飾を受けることが示されている。従って,過剰な咳・咳衝動の制御において,咳反射の神経経路上の上位脳機能への介入は効果的な咳嗽治療となるかもしれない。そこで,咳衝動における不快感の責任主座のひとつと考えられている島皮質にて処理が行われる聴覚刺激に着目し,そのクエン酸誘発性咳反射閾値及び咳衝動への有用性を検討することとした。</p><p></p><p>【方法】非喫煙若年者10名に対して咳反射閾値,咳衝動を測定した。咳反射閾値は咳が誘発された最小クエン酸濃度(C<sub>2</sub>およびC<sub>5</sub>)を,咳衝動は咳衝動log-log slope及びLog咳衝動閾値により評価を行った。聴覚刺激は,被験者が好む曲を自由に選択させ,イヤホンを介して行った。</p><p></p><p>【結果】クエン酸誘発性咳反射閾値(C<sub>2</sub>およびC<sub>5</sub>)は聴覚刺激条件にて統計学的有意に高値を示した。クエン酸誘発性の咳衝動log-log slpeは聴覚刺激条件にて統計学的有意に低値を示した。一方で,Log咳衝動閾値は両条件において統計学的有意差は見られなかった。</p><p></p><p>【結語】聴覚刺激は,咳反射感受性および咳衝動を低下させることが明らかになった。咳反射は脳幹と上位脳機能によって制御されている。本研究において,Log咳衝動閾値に変化が見られなかったことから,聴覚刺激が上位脳機能に影響を及ぼすことで,その効果を示したことが考えられた。</p>
著者
岩波 裕治 内 昌之 福田 大空 黒田 悠加 杉澤 樹 海老原 覚
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1002-1008, 2019-12-18 (Released:2020-01-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1

大動脈弁閉鎖不全症(aortic stenosis:AS)は,高齢化に伴い急速に患者数が増加している.高度な侵襲を伴う大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)が従来の標準治療であったが,ハイリスクのため適応とならない症例に対し,低侵襲治療の経カテーテル的大動脈弁植込み術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)が積極的に実施されるようになった.適応に関しては,ハートチームでの検討が必要とされ,理学療法士もその一員で,術前後でのfrailty評価を含め心臓リハビリテーションの重要な役割を担う.TAVIに対しての心臓リハビリテーションに関するデータは少ないのが現状であるが,高齢frailtyな症例に対し,個々に適したプログラムの適応が重要となる.
著者
海老原 覚
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.61-67, 2014-04

唾液量の減少は呼吸器感染症と関連がある。唾液内の雑菌を誤嚥することによって起こると考えられる誤嚥性肺炎においても唾液の減少が問題を起こすからである。したがって、高齢者に対する誤嚥性肺炎の予防策としてドライマウス対策が重要であると考えられる。さらに、直接的嚥下障害対策も重要であり、高齢者の衰えた嚥下機能を回復するために様々な方法が試みられている。香辛料による温度受容体刺激は、直接の知覚神経末端への作用に加え、嚥下に必要な脳活動部位のうち知覚に関する領域を活性化して、嚥下反射を促進する作用があることが示されている。なかでも、黒胡椒の匂いによる嗅覚刺激は、大脳島皮質と前帯状回を活性化して、高齢者の衰えた嚥下機能を回復できることがわかった。この方法はどんな状態の高齢者にも有用であるが、介護者の手間を要するため、簡便に高齢者を24時間刺激し続ける方法を開発した。以上のように、辛味と匂い刺激を組み合わせることにより、効率的に誤嚥性肺炎患者の再誤嚥をかなりの程度防ぐことができたので、本稿で紹介する。