著者
尤 暁東 東條元昭
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.50-53, 2020 (Released:2020-10-31)

モウソウチク由来ミミズ堆肥を作出し土壌改良剤として実用化するとともに,植物病害への抑制効果とそのメカニズム を明らかにするために,次の6 つの項目について検討した。1)堆肥作出方法の確立,2)植物病原糸状菌に対する抑制効果の評価,3)植物病原糸状菌に対する抑制効果の要因の解明,4)植物寄生性線虫に対する抑制効果の評価,5)生物防除微生物添加による病害抑制効果向上の検討,および6)モウソウチク由来ミミズ堆肥で育成した植物の成長変化に及ぼす有機肥料添加の影響の評価である。ミミズ種としてシマミミズを用いた。その結果,モウソウチク由来ミミズ堆肥の作出法を確立することに成功し,植物病原糸状菌や植物寄生性線虫に対する抑制効果を温室および圃場レベルで確認した。そしてこれらの抑制効果にいくつかの拮抗細菌や抗菌物質が関与している可能性を明らかにした。またモウソウチク由来ミミズ堆肥を生物防除微生物の1 つであるP. oligandrum と同時施用することでこの生物防除活性が高まり,市販農薬と同等のレベルにまで発病抑制効果を向上させる予備結果を得た。さらに油粕とミミズを同時にモウソウチク粉末に添加して2 か月間ミミズ堆肥化を行うことによって,苗立枯病等を抑制する効果が維持され,植物の成長促進効果や可食部の食味成分を向上させる育苗土になることを示唆する結果を得た。
著者
埋橋 志穂美 東條 元昭 今津 道夫 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.133, 2008

<I>Pythium</I>属菌は世界各地の土壌や水域環境に広く分布する卵菌類で,現在130種以上,日本では約50種が報告されている.多くの種は野菜をはじめ多くの作物の苗立枯れや根腐れを引き起こす重要な土壌伝染性病原菌として知られている.一方,土壌や水域環境下で腐生的に生存している種も認められているが,それらを調査した研究は少なくその分布や種類相については不明な点が多い.演者らはこれら腐生性種を含む土壌中の<I>Pythium</I>属菌を得るため,日本各地より土壌を採集し<I>Pythium</I>属菌を分離した.その結果,日本未報告種や新種の可能性のある種を含む多数の<I>Pythium</I>属菌が認められ,土壌中の<I>Pythium</I>属菌の多様性が示された.そこで,これら未解析の<I>Pythium</I>属菌の系統関係を明らかにするため,得られた菌株についてrDNA ITS領域およびD1/D2領域の塩基配列を決定し,既存のデータとともに分子系統解析を行った.その結果,得られた系統樹上には4単系統群が検出された.<I>Pythium</I>属菌においてはITS領域の分子系統解析により胞子のうの形状と密接に関わる3単系統群が認められており(L&eacute;vesque and de Cock, 2004),本解析でもこれらと一致する膨状胞子のうを形成する種からなる単系統群と球状胞子のうを形成する種からなる2単系統群が検出された.更に本解析ではこれら3系統群とは明確に異なる単系統群も検出された.この単系統群には,異なる地域より分離された8菌株が含まれており,ITS領域には2種の配列が認められ,その相同性は93.9%(687/732)と低かったが,D1/D2領域の塩基配列は全ての菌株で完全に一致した.これらの菌株はいずれも細く特徴的な分枝形態を示す菌糸を形成し,球形,楕円形,洋ナシ型等様々な形態の胞子のうを形成し,一部の菌株では,付着器や膨状胞子のう様の菌糸の膨らみも認められた.造卵器は平滑で1個から数個の造精器が付着し,雌雄異菌糸性または同菌糸性で造卵器内に1個の非充満型卵胞子を形成した.
著者
長沼 毅 今中 忠行 伊村 智 内田 雅己 大谷 修司 神田 啓史 黒沢 則夫 幸島 司郎 高野 淑識 東條 元昭 伴 修平 福井 学 星野 保 宮下 英明 吉村 義隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は地球環境の健康診断「国際極年」の中核計画として実施されたものである。地球環境変動のうち温暖化の影響は南北両極、特に環境変動に鋭敏に応答する微生物の生態に顕著に現れる。そこで本研究では初めて総合的な極地微生物の生態調査を行った。極域および高山氷河域に生息する微生物の種類と現存量および固有種・汎存種を調べることで、今後の変遷を評価する上で必要になる「国際極年参照データ」を残すことができた。