著者
岸本 文紅 米村 正一郎 内田 雅己
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

土壌有機物分解の温暖化に対するフィードバックとその制御メカニズムの解明は、農耕地土壌の炭素隔離の気候変動に対する将来予測を行う上で緊急な課題である。本研究は、土壌を温める野外操作実験による土壌有機物の分解に及ぼす温度上昇の効果を定量的評価し、その制御メカニズムの解明を目的とした。その結果、圃場スケールでの実験的加温(深さ5cmで+2℃)により、土壌有機物分解によるCO_2発生は冬春のコムギ作で2~13%促進され、夏秋のダイズ作では10~18%低下した(新しい知見)。夏の高温乾燥条件下では土壌水分ストレスによるCO_2発生の低下が加温区でより大きかったためと考えられ、土壌有機物分解に及ぼす温暖化の影響予測には土壌水分との複合作用を考慮することが重要であることが示された。
著者
工藤 栄 田邊 優貴子 内田 雅己 掘 克博
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.226-235, 2010-11-30

南極湖沼中に設置し,湖底の植物群落の1年にわたる映像記録を捉える目的で水中ビデオシステムの開発を行った. システムはビデオカメラ,制御部,レンズ汚濁防止ワイパー(水中モーター),照明用LEDとリチウム電池から構成されたものである. 市販のハイビジョン方式のビデオを採用し,レンズ汚濁防止ワイパーの動作を簡潔化して,以前試作したビデオシステムよりも消費電力を増やすことなく記録感度を向上させることができた. この機材を第51次日本南極地域観測隊夏行動期間中に,宗谷海岸のスカルブスネス「長池(仮称)」湖底に潜水作業により設置し,一年間の湖底のインターバル撮影を開始した.
著者
長沼 毅 今中 忠行 伊村 智 内田 雅己 大谷 修司 神田 啓史 黒沢 則夫 幸島 司郎 高野 淑識 東條 元昭 伴 修平 福井 学 星野 保 宮下 英明 吉村 義隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は地球環境の健康診断「国際極年」の中核計画として実施されたものである。地球環境変動のうち温暖化の影響は南北両極、特に環境変動に鋭敏に応答する微生物の生態に顕著に現れる。そこで本研究では初めて総合的な極地微生物の生態調査を行った。極域および高山氷河域に生息する微生物の種類と現存量および固有種・汎存種を調べることで、今後の変遷を評価する上で必要になる「国際極年参照データ」を残すことができた。
著者
内田 雅己
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.175-177, 1998-12-28

第1章序論 北半球高緯度地方には,世界最大の森林帯(北方林)がある。北方林は,低温により分解速度が遅いために,土壌中に大量の有機炭素を蓄積しており,地球規模の炭素循環に重要な役割を果たしている。近年,地球の温暖化により,現在は炭素の吸収源であると考えられている北方林が,炭素の発生源になる可能性が懸念されている。しかし,北方林の土壌圏の炭素動態において,微生物のはたらきを量的に把握した研究は少なく,野外における分解の温度依存性に関する研究についても,ほとんどなされていないのが現状である。本論文では,北方林の土壌炭素のフローと,それに対する微生物の寄与を定量化し,温暖化による気候変動が,土壌有機物の分解におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。第2章北方林における土壌微生物群集をめぐる炭素の動態 北方林における土壌炭素のフローと,それに対する微生物の寄与を定量化するため,カナダ,サスカチュワン州,キャンドルレイク(105°30'W, 53°50'N)付近のクロトウヒPicea mariana林内に調査区を設定し,有機物層から鉱質土壌層表面下50cmまでの各土壌層位毎の有機炭素量,微生物バイオマス炭素,土壌呼吸量,および根のバイオマスと呼吸量を調査した。コケ層から鉱質土壌層表面下50cmの深さまでの有機炭素量は,1平方メートルあたり7.2kgで,そのうちの47%が有機物層中に存在していた。土壌呼吸速度から植物根の呼吸速度を差し引いて微生物の呼吸速度を求めた。根の呼吸速度は,重量あたりの呼吸速度と根のバイオマスから求めた。その結果,全土壌呼吸速度にしめる微生物の呼吸速度の割合は46%になった。微生物の呼吸のうち,有機物層中の呼吸が約60%をしめた。L層,FH層,およびA層の微生物バイオマス炭素あたりの呼吸活性は,それぞれ1.35,0.44,および0.94mg CO_2-C g^<-1> microbia1 C h^<-1>であった。FH層は他の層にくらべて呼吸活性が低く,FH層の微生物の活性自体が低いと考えられた。採取した土壌中の微生物の呼吸速度の温度依存性からQ_<10>を求めたところ,2.4であった。この値と無雪期間(6月&acd;10月)の土壌温度(地表面下15cm)の変化から,L層&acd;A層までに存在する微生物の年間総呼吸量を推定したところ,221g C m^<-2>となった。Nakane et al. (1997)は,本調査地付近のクロトウヒ林の年間のリターフォール量が91&acd;128g C m^<-2>であると報告している。本調査地のL層の微生物の呼吸量(85g C m^<-2> yr^<-1>はリターの投入量に対してかなり大きい値となった。しかし,L層下部には菌根菌と思われる菌糸体が密に繁殖していたことから,外生菌根菌に由来する呼吸が,微生物の総呼吸量にかなり含まれている可能性も示唆された。第3章リター分解と温度環境 一般的に,リターの分解に対する温度の影響は,室内実験で調べられることが多い。しかし,自然環境における温度変化は,長期にわたって徐々に生じるため,実際の現象は短期間の室内実験では予測できないことが多い。そこで,北半球の高緯度地方を中心に,きわめて広範囲に分布している蘚類のイワダレゴケHylocomium splendensを用いて,実際にリターの消失率を推定し,温度環境との関係について調査した。イワダレゴケは,規則的な成長様式をもち,成長解析とリターの蓄積から年間のリターの生産量と消失率を容易に推定できる。サンプルは,上記調査地を含むサスカチユワン州のクロトウヒ林3地点,および富士山亜高山帯針葉樹林内の標高の異なる4地点(1,700&acd;2,400m)で採取した。富士山の調査地では,標高が高くなるほどリターの蓄積量は多くなり,消失率は低下する傾向が認められた。この際,各地点の年平均気温とリター消失率の対数との間には有意な直線関係が認められた。富士山の調査地の年平均気温とリター消失率との関係から求めたQ_<10>は8.7と大きな値となった。無雪期間の積算気温とリター消失率,およびリターの質との間に,統計的に有意な高い相関が認められた。野外におけるリター消失率は,わずかな温度の違いでも著しく変化することが推察され,そのことには,無雪期間の気温とリターの化学組成が影響している可能性が示唆された。第4章温度環境の変化と土壌微生物 第3章では,イワダレゴケのリターの消失率を広域に比較した結果,リターの消失率は温度に対して敏感に反応することが推察された。これは,長期的な温度環境の変化にともなう分解速度の変化が,実験室での短期間の微生物分解活性の温度依存性だけでは説明できないことを示唆している。本章では,野外における基質分解の温度依存性の実態を解明することを目的として,同質の分解基質(ろ紙とブナのチップ)を富士山の標高の異なる5地点(1,500&acd;2,400m)に埋設し,現地における消失率を詳細に検討した。