- 著者
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宮下 英明
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
平成22年度は,昨年度に新たに発見した産地の1つ(産地Y)から,地権者の許可を得て「天狗の麦飯」を採取し,これまで研究に用いてきた産地Kのサンプルと,1)光学顕微鏡による微生物の形態多様性と主たる微生物の形態の比較,および2)真正細菌の16S rRNA遺伝子を標的としたクローンライブラリ法によって得られる真正細菌群集構造の比較を行うことにより,両サンプルに共通する特徴を調べ,主要な微生物の代謝情報から形成・維持機構について考察した。その結果,どちらの産地のサンプルにも,カプセル状の莢膜をもつ細菌が,微生物塊を構造的に維持する細菌として観察された。細菌群集構造解析では,両産地のライブラリのそれぞれ87.0%,74.7%が4つの系統群(Ktedonobacteria綱Ktedonobacterales目,γ-proteobacteria綱Ellin307/WD2124, α-proteobacteria綱Beijerinckiaceae/Methylocystaceae, Acidobacteria門subdiv.1)の生物で占められていた。この群集構造は,産地周囲の土壌にみられたものと全く異なっていたことから,「天狗の麦飯」の共通の特徴と考えられた。さらに,両産地に共通して検出されたKtedonobacteriaとγ-proteobacteriaの総計が,各ライブラリの43.0%,27.3%を占めた。このことから,この両生物群が主たる微生物である可能性が高くなった。これまで「天狗の麦飯」は独立栄養的生育をしている細菌を中心に増殖する微生物塊であると考えられてきが,本研究によって検出された真正細菌はほぼすべて従属栄養生育するものと考えられた。今後,「天狗の麦飯」に供給される物質の情報や,下層を含めた周囲の微生物群集構造の特徴について精査しすることによって形成・維持機構の解明がはかれるものと期待できる。