著者
松尾 理也
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.66, pp.219-232, 2020

明治末期、高級紙『時事新報』の西における分身として創刊された『大阪時事新報』に入社した下山京子は、「化け込み」と呼ばれる変装潜入ルポを得意とした異能の記者であった。下山は自堕落な人物だったと考えられているが、女性記者の役割が限定されていた時代に、その枠を超える活躍をしたジャーナリストでもあった。夕刊発行のため自前の原稿調達の必要に直面した『大阪時事』で、下山は神戸の高級料亭「常磐花壇」への潜入など新しいニュースのかたちの開発に成功する。それは、首都に比べればニュースが豊富でない大阪でなんとか紙面を埋めるための「ニュースを作る」手法の誕生であり、同時にそれは、かならずしも社会正義の実現や権力の批判にこだわることなく、むしろ底辺への温かい共感に彩られた記事の出現でもあった。しかし、吹き荒れた三面記事批判の前に『大阪時事』は萎縮し、東京に異動した下山も大阪時代の輝きを失ってしまった。
著者
上硲 俊法 岡本 悦司 土嶋 繁 吉田 浩二 佐藤 隆夫 松尾 理
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.239-246, 2002-08-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近畿大学では平成10年度からテュートリアルシステムによる医学教育を導入した. このシステム導入の効果と問題点を, 学生およびテュータに対してアンケートを行い検討した. 学生へのアンケート結果からは, 学生の約8割に自己学習時間の増加がみられ, また, テュートリアルが楽しいと考えている学生が多かった. 学生の約8割が科学的思考の訓練になるが, 平行しての講義はテュートリアルの興味や動機付けに役立つと考えていた. しかし, テュートリアルのハード面およびテュータへの不満が学年進行に伴い増加傾向にあった. テュータへのアンケート結果からは, 学生の学習への動機付け, 問題解決能力, 学生の討論の質はおのおの52%, 58%, 77%が向上したと回答があった. 問題点としては学力の二極分化への懸念, テュータの質, 意欲に不満などの意見が見られた. 総括;テュートリアル方式での教育効果を上げるためには学生の自主性のみならず, ハード面での改善, テュータの質的向上を図る必要がある.
著者
大薮 みゆき 山田 麻和 松尾 理恵 友利 幸之介 田平 隆行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.122, 2004 (Released:2004-11-18)

【はじめに】 4年前に線条体黒質変性症の診断を受けた本症例は、身体機能の低下に伴いADLはほぼ全介助である。今回4度目の入院において、症例は「どうしても自分でトイレが出来るようになりたい」と希望している。ここに症例の到達目標とセラピストの予後予測にずれを感じた。近年、カナダ作業遂行モデル(以下、CMOP)に基づいたクライエント中心の作業療法が実践されている。そこで、今回CMOPの理論と作業遂行プロセスモデル(以下、OPPM)に基づき、症例が望む作業について症例と共に考案したので報告する。【症例】 S氏、84歳、女性。診断名は線条体黒質変性症。夫、次女、次女の夫、孫との5人家族で、主介護者は夫である。介護保険制度では要介護度4の認定を受け、通所リハビリテーションと訪問介護を利用し在宅生活を送っていた。【アプローチ】 OPPMに基づき以下のようなアプローチを行った。第1段階:作業遂行上の問題を確認し優先順位をつける。ここでは、カナダ作業遂行測定(以下COPM)を用いた。セルフケアでは「夫に迷惑をかけている」という負い目から排泄動作自立を希望していることが分かった。レジャーでは、人との関わりを好む性格から「夫や曾孫へプレゼントをすること」「友達と話をすること」という希望が聞かれた。第2段階:理論的アプローチの選択 基礎体力や排泄動作能力向上のために生体力学的アプローチを、社会・心理面にはリハビリテーションアプローチを行った。第3段階:作業遂行要素と環境要素を明確にする症例は1時間半程度の座位耐久性があり、手指の巧緻性の低下は認められるものの、簡単な手芸は可能と思われた。他者との会話は難聴と構音障害のため困難であった。排泄は尿便意消失のため膀胱留置カテーテル、おむつを使用していた。症例は羞恥心と「女性は男性の世話をするもの」という価値観から夫からの排泄介助に負い目を感じていた。一方、夫は87歳と高齢で心疾患があり排泄介助に負担を感じていた。第4段階:利点と資源を明確にする 症例はプレゼント作りに対する意欲が高かった。また、夫は介護へ前向きであった。第5段階:めざす成果を協議して行動目標を練る これらの結果をもとに、症例や夫と一緒に話し合い、目標を1)夫に迷惑をかけているという負い目の軽減、2)夫や曾孫にプレゼントを贈る、対人交流の促進とした。第6段階:作業を通じて作業計画を実行する 1)については、夫の希望からもおむつ交換時の介助量軽減が「夫が心身共に楽になる」ことにつながることを伝え、おむつ交換訓練やベッド上動作訓練の導入を提案した。しかし、家族が施設入所を希望したため保留となった。導入時、セラピストは、症例の負い目を夫に伝え、症例と夫へ会話の場の設定や話題提供を行ったところ、夫から症例への優しい言葉掛けが増え、その言葉に症例は安心感や喜びを感じていた。2)については「風邪をひかないように毛糸の帽子を作ってあげたい」という症例の希望を受け、改良した編み棒を用い、スプールウィーピングにて帽子を作ることにした。作業の際には症例と他患との間に、セラピストが入り、他患との会話を促した。手芸の経過の中で「じいちゃんとのこれまでの生活を思い出す。結婚して良かった」「病院にも友達が出来たよ」という言葉が聞かれた。完成後は感謝の手紙を添えて夫へプレゼントした。また、夫へ依頼しひ孫へ直接プレゼントを渡す機会を作ってもらった。症例は夫や曾孫が喜んでくれたことを嬉しそうにセラピストに話した。第7段階:作業遂行における成果を評価する 初回評価から8週後にCOPMの再評価を行った。「夫に迷惑をかけないように自分でトイレをする」という希望は遂行度、満足度に変化が見られなかった。「夫やひ孫へプレゼントをする」「友達と話をする」という希望ではスコアが大幅に向上した。【考察】 「一人でトイレがしたい」と希望する症例に対してCMOPの理論に基づき、症例の視点から作業を共に検討した。そして症例の作業を決定する動機、すなわちSpiritualityは「夫に対する想い」であった。そこでアプローチには、帽子のプレゼントや負い目に対する夫の言葉かけなど、夫とのコミュニケーションを形づけられるような作業を提案した。その結果、トイレ動作に変化に見られなかったものの、日常での言動やCOPMでの再評価から症例は夫の中にある自己の存在を確認できているように見えた。現在、症例の生き生きとした言動から家族も再度在宅生活を検討し始めている。今回の経験からSpiritualityの発見と、それに向かって具体的な作業を提案することの重要性を認識した。
著者
田中 寛大 松尾 理代 久須美 房子 月田 和人 末長 敏彦
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.88-96, 2017-12-25 (Released:2017-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

背景: 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)患者の呼吸困難緩和に対して非侵襲的陽圧換気や 気管切開下陽圧換気が有効であるが,モルヒネが必要になることもある.ALSの苦痛緩和に対して以前からモルヒネが推奨されているが,客観的データの報告は乏しい.本研究の目的はALS患者の呼吸困難緩和におけるモルヒネの有用性を検討することである.方法: 呼吸困難緩和のためにモルヒネを導入したALS患者連続10名を後方視的に調査した.モルヒネの導入と 使用にあたっては,神経内科医師・看護師と,多専門職種から成る疼痛等緩和ケア対策チームが協働して対応し, 十分なインフォームドコンセントを行なった.呼吸困難緩和は,ALS Functional Rating Scale-Revised の呼吸困難サブスケールの上昇が1ポイント以上と定義した.モルヒネの有害事象を調査した.結果: 年齢中央値74.5歳(54–79歳),罹病期間中央値647日(113–1308日),Palliative Performance Scale 中央値40(10–50),体重中央値49.0 kg(35.0–55.4 kg)であった.全例で導入時製剤は塩酸モルヒネであり,内服での用量中央値は10 mg/日(6–20 mg/日),1 回量中央値は2.5 mg(2–5 mg)であった.持続皮下注射での初日用量中央値は4.8 mg/日(2.4–12 mg/日)であった.呼吸困難緩和は9名(90%)で得られた.1日最大用量中央値は内服で21.5 mg(8–35 mg),持続皮下注射で4.75 mg(2.4–24 mg)であった.有害事象としての呼吸抑制,嘔気,傾眠はなかった.便秘を全例で認めたが薬物治療で対応可能であった.せん妄を3名で認めた.結論: モルヒネはALSの呼吸困難緩和に有用と考えられるが,多専門職種での対応と十分なインフォームドコン セントが重要である.
著者
大薮 みゆき 山田 麻和 松尾 理恵 友利 幸之介 田平 隆行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.122, 2004

【はじめに】<BR> 4年前に線条体黒質変性症の診断を受けた本症例は、身体機能の低下に伴いADLはほぼ全介助である。今回4度目の入院において、症例は「どうしても自分でトイレが出来るようになりたい」と希望している。ここに症例の到達目標とセラピストの予後予測にずれを感じた。近年、カナダ作業遂行モデル(以下、CMOP)に基づいたクライエント中心の作業療法が実践されている。そこで、今回CMOPの理論と作業遂行プロセスモデル(以下、OPPM)に基づき、症例が望む作業について症例と共に考案したので報告する。<br>【症例】<BR> S氏、84歳、女性。診断名は線条体黒質変性症。夫、次女、次女の夫、孫との5人家族で、主介護者は夫である。介護保険制度では要介護度4の認定を受け、通所リハビリテーションと訪問介護を利用し在宅生活を送っていた。<br>【アプローチ】<BR> OPPMに基づき以下のようなアプローチを行った。<br>第1段階:作業遂行上の問題を確認し優先順位をつける。ここでは、カナダ作業遂行測定(以下COPM)を用いた。セルフケアでは「夫に迷惑をかけている」という負い目から排泄動作自立を希望していることが分かった。レジャーでは、人との関わりを好む性格から「夫や曾孫へプレゼントをすること」「友達と話をすること」という希望が聞かれた。<br>第2段階:理論的アプローチの選択<br> 基礎体力や排泄動作能力向上のために生体力学的アプローチを、社会・心理面にはリハビリテーションアプローチを行った。<br>第3段階:作業遂行要素と環境要素を明確にする<br>症例は1時間半程度の座位耐久性があり、手指の巧緻性の低下は認められるものの、簡単な手芸は可能と思われた。他者との会話は難聴と構音障害のため困難であった。排泄は尿便意消失のため膀胱留置カテーテル、おむつを使用していた。症例は羞恥心と「女性は男性の世話をするもの」という価値観から夫からの排泄介助に負い目を感じていた。一方、夫は87歳と高齢で心疾患があり排泄介助に負担を感じていた。<br>第4段階:利点と資源を明確にする<br> 症例はプレゼント作りに対する意欲が高かった。また、夫は介護へ前向きであった。<br>第5段階:めざす成果を協議して行動目標を練る<br> これらの結果をもとに、症例や夫と一緒に話し合い、目標を1)夫に迷惑をかけているという負い目の軽減、2)夫や曾孫にプレゼントを贈る、対人交流の促進とした。<br>第6段階:作業を通じて作業計画を実行する<br> 1)については、夫の希望からもおむつ交換時の介助量軽減が「夫が心身共に楽になる」ことにつながることを伝え、おむつ交換訓練やベッド上動作訓練の導入を提案した。しかし、家族が施設入所を希望したため保留となった。導入時、セラピストは、症例の負い目を夫に伝え、症例と夫へ会話の場の設定や話題提供を行ったところ、夫から症例への優しい言葉掛けが増え、その言葉に症例は安心感や喜びを感じていた。2)については「風邪をひかないように毛糸の帽子を作ってあげたい」という症例の希望を受け、改良した編み棒を用い、スプールウィーピングにて帽子を作ることにした。作業の際には症例と他患との間に、セラピストが入り、他患との会話を促した。手芸の経過の中で「じいちゃんとのこれまでの生活を思い出す。結婚して良かった」「病院にも友達が出来たよ」という言葉が聞かれた。完成後は感謝の手紙を添えて夫へプレゼントした。また、夫へ依頼しひ孫へ直接プレゼントを渡す機会を作ってもらった。症例は夫や曾孫が喜んでくれたことを嬉しそうにセラピストに話した。<br>第7段階:作業遂行における成果を評価する<br> 初回評価から8週後にCOPMの再評価を行った。「夫に迷惑をかけないように自分でトイレをする」という希望は遂行度、満足度に変化が見られなかった。「夫やひ孫へプレゼントをする」「友達と話をする」という希望ではスコアが大幅に向上した。<br>【考察】<BR> 「一人でトイレがしたい」と希望する症例に対してCMOPの理論に基づき、症例の視点から作業を共に検討した。そして症例の作業を決定する動機、すなわちSpiritualityは「夫に対する想い」であった。そこでアプローチには、帽子のプレゼントや負い目に対する夫の言葉かけなど、夫とのコミュニケーションを形づけられるような作業を提案した。その結果、トイレ動作に変化に見られなかったものの、日常での言動やCOPMでの再評価から症例は夫の中にある自己の存在を確認できているように見えた。現在、症例の生き生きとした言動から家族も再度在宅生活を検討し始めている。今回の経験からSpiritualityの発見と、それに向かって具体的な作業を提案することの重要性を認識した。
著者
竹田 伸也 太田 真貴 松尾 理沙 大塚 美菜子
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.44-51, 2015 (Released:2016-01-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

The present study investigated the effects of a stress management program by the cognitive therapy for human service provider. The program consisted of the lecture and exercise which divided the cognitive therapy into six steps, and was carried out for 3 hours. After the program, statistically significant differences were found between pre and post program on the scores of STAI-S score, “understanding of the cognitive model” score, “self-efficacy in the awareness of their own feelings” score, “self-efficacy in the awareness of their negative thought ” score, “self-efficacy of looking back upon a thought, when it falls into an unpleasant feeling” score, and “self-efficacy over creation of positive thought” score. These suggest that this program improved stress responses, and human service provider might perform the cognitive therapy by themselves.
著者
松尾 理也
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.65, pp.275-287, 2019

大正期の新聞の影響力は、読者層の拡大にともなって無視できない社会現象にまで成長したが、新聞の内容が報道重視、速報重視となるとともに、メディア技術の変革の受容が地域によって差があったこともあって、この時期、地域ごとの独自のメディアのありかたが芽生え始めた。関西のメディア風土は、大阪で全国紙への脱皮を遂げつつあった『朝日』『毎日』の二大紙が主導したが、一方で東京の名門紙である『時事新報』が大阪に進出した『大阪時事新報』も経営不振にあえぎながらも独自性を模索していた。大正13年に新聞読者すなわち民衆世論の憤激を招いた米排日移民法をめぐる報道を分析してみると、東京から時間的に一歩遅れ、空間的にも離れているハンデを取り戻すための「まとめ機能」や「わかりやすさ」の重視、取材源との距離よりも読者への密着に重きを置く姿勢などが、必要性に迫られて構築された「関西らしさ」として浮かび上がった。