著者
岡本 悦司
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.117-134, 2013-02-20 (Released:2013-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2

レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下,NDB)が構築され研究利用も可能となったが,その活用は厳格な個人情報保護規定により相当な制約を受けている.たとえば最小集計規制により,10 未満の集計は認められていない.ところが奇妙なことに,同じレセプトを対象とする医療給付実態調査にはそのような制約はない.その違いは法的根拠にあり,医療給付実態調査は統計法であるのに対して NDB は行政機関個人情報保護法(行個法)であることによる.二つの法律は正反対であり,統計法はデータ有効活用を推進するのに対して行個法は個人情報保護を最重視している.研究利用のためであれば NDB も統計法に基づく統計となるのが望ましいが,そうすると行政機関による統計目的外の利用(たとえば,請求内容のチェック)も制限されるという問題が生じる.ならば,行政機関による利用は行個法,研究利用は統計法というダブルスタンダードも選択肢である.またこれまで各種レセプト調査は,異なる行政機関が重複する調査を実施してきたが,NDB 構築を契機に分立する調査の統合も課題である.データベースとその二次利用をめぐる法的扱いは各国でも問題となっており,最近 OECD が実施したデータベースとその二次利用に関する調査結果の要約も参考として添付する.(薬剤疫学 2012;17(2):117-134)
著者
具 芳明 岡本 悦司 大山 卓昭 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.494-500, 2011-09-20 (Released:2017-08-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

薬剤耐性菌に対する対策として抗菌薬適正使用が強調されている.しかし,抗菌薬使用量とくに外来での抗菌薬使用量を地域単位で把握する試みはこれまでになされていない.そこで,長野県諏訪地域における 2009 年 12 月から 2010 年 5 月の国民健康保険電子レセプトから抗菌薬処方情報を集計するとともに,同地域の主要病院における薬剤耐性菌の頻度を集計し,外来での抗菌薬使用量との関連について検討した. 同地域における国民健康保険被保険者数は 31,505 人(人口の 27.1%)であり,レセプト電子化率は医科 77.4%,調剤 96.0%であった.外来での抗菌薬総使用量は 9.34 Defined Daily Dose(DDD)/1000 被保険者・日であり,MLS(マクロライドなど),ペニシリン以外の β ラクタム系,キノロン系の順であった.海外における先行研究と比べ,外来抗菌薬使用量は少なく,その内容も特徴的であった.大腸菌のキノロン耐性は外来でのキノロン系抗菌薬の使用量から予想される範囲であったが,マクロライド非感受性肺炎球菌の割合は外来での MLS 使用量から予想されるよりも高かった. 国民健康保険電子レセプトを用いて地域での抗菌薬使用量を算出することが可能であった.抗菌薬総使用量およびその内容は,抗菌薬適正使用を含めた薬剤耐性菌対策を推進する上で有用な基礎情報になるものと考えられた.
著者
上硲 俊法 岡本 悦司 土嶋 繁 吉田 浩二 佐藤 隆夫 松尾 理
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.239-246, 2002-08-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近畿大学では平成10年度からテュートリアルシステムによる医学教育を導入した. このシステム導入の効果と問題点を, 学生およびテュータに対してアンケートを行い検討した. 学生へのアンケート結果からは, 学生の約8割に自己学習時間の増加がみられ, また, テュートリアルが楽しいと考えている学生が多かった. 学生の約8割が科学的思考の訓練になるが, 平行しての講義はテュートリアルの興味や動機付けに役立つと考えていた. しかし, テュートリアルのハード面およびテュータへの不満が学年進行に伴い増加傾向にあった. テュータへのアンケート結果からは, 学生の学習への動機付け, 問題解決能力, 学生の討論の質はおのおの52%, 58%, 77%が向上したと回答があった. 問題点としては学力の二極分化への懸念, テュータの質, 意欲に不満などの意見が見られた. 総括;テュートリアル方式での教育効果を上げるためには学生の自主性のみならず, ハード面での改善, テュータの質的向上を図る必要がある.
著者
岡本 悦司
出版者
一般社団法人 日本医療経営学会
雑誌
日本医療経営学会誌 (ISSN:18837905)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.29-36, 2020

<p>The Administrative Reports on Hospital Bed Function (ARHBF) was started in 2014 to provide data for facilitating the Regional Medical Care Vision (RMCV) targeted to the year 2025. The RMCV aims at converting excessive acute care wards into less-costly chronic or rehabilitative wards. All general hospitals (excluding psychiatric hospitals) and clinics with inpatient beds are required by the Medical Care Act to report detailed data as of July each year and hospital-specific data are published on prefectural governments' website as a form of Excel files. The author compiled the five-year cumulative data into data warehouse and analyzed the progress of converting ward-specific clinical functions through ward-matching technique. Approximately 30% of acute care wards in 2014 have already converted as of July 2018, and the negative linear correlation between the actual converting rate and the realization rate of the self-proclaimed target suggested the unwillingness of most hospitals for conversion of their ward functions. ARHBF data can be used effectively by data-warehousing to facilitate RMCV.</p>
著者
岡本 悦司
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.95-120, 2008

韓国医療制度の発展の歴史を,戦前の資料も発掘して概説するとともに,現在の医療保険制度の仕組を概説する。19世紀には,欧米の宣教師らが西洋医学をもたらし病院を作った。1910~1945年の日帝時代には医療従事者の多数を日本人が占めていた。日本人は終戦(光復)とともに引き上げたが,病院等のハードウェアは戦後の韓国医療の基盤となった。ただ日本が1927年に導入した医療保険制度は当時の朝鮮に導入されることはなく,医療保険は韓国が自力で作ることとなった。朝鮮戦争を経て,1960年代には「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展が起こり,民間病院や医大の量的拡大が続いた。1963年には医療保険法が制定され1989年には皆保険が達成された。1997年の経済危機を契機に医療保険の統合一本化,医薬強制分業そして請求書のオンライン化が進められ2000年に達成された。現在の医療保険は国民健康保険公団という単一保険者で運営され,被用者と自営業者の所得補足格差は,自営業者については申告所得だけでなく財産や自動車も加味して賦課することで解決している。患者負担率は医療機関の種類によって差を設け,医療機関間連携を促進しつつ,またDRGの試行やオンライン化された請求書情報をデータウェアハウス化して積極的な活用を審査評価院において行っている。
著者
岡本 悦司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.445-451, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
10
被引用文献数
4

レセプトとカルテといった異なったデータを個人単位で連結(リンケージ)したり,複数の機関から個人情報を収集するがん登録のような疾病登録事業を,個人名を平文のままで行うのではなく暗号により連結可能匿名化して行う可能性を検討する。 暗号化と解読の両方が必要な通信とは異なり,暗号化のみで足りる研究目的の連結(リンケージ)の場合,情報提供を受ける研究者が鍵を共有する必要はないので自治体や保険組合等のデータ保有者は簡単な暗号化により安全に研究者にデータ提供を行うことが可能である。 Microsoft エクセル®を用いた人名暗号化の具体的な手法を紹介する。人名の漢字を JIS コード化し,そのコードを無作為に選んだアルファベット(大小52文字)で置換する。この数字とアルファベットの対応表が鍵であり,5.74×1016 通りの組み合わせがあることから鍵無しに解読は不可能である。これにより万一漏洩があってもプライバシー侵害が起こらない技術的担保ができ,公衆衛生研究が促進されよう。 がん登録や脳卒中登録のような複数の機関から個人情報を収集し追跡する疾病登録事業においても公開鍵暗号を用いることにより連結可能匿名化された登録システムが可能になる。しかしながら,暗号化作業が複雑であること,登録機関からの問合わせが不可能であること,鍵を公開することにより人名と暗号との対応表を誰でも作れることから安全性は十分には保証されず,暗号のみに頼って疾病登録事業の連結可能匿名化はなおも困難である。
著者
岡本 悦司 神谷 達夫
出版者
福知山公立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

特定健康診査・保健指導によるメタボ医療費の抑制効果を評価するため,医療給付実態調査のレセプトデータより,2010~13年度の4年間に継続して被保険者であった者について,メタボ疾患を主傷病とするレセプトの医療費の伸びを追跡した。突合人数100人以上の1038組合484万6222人を対象とした。4年間のメタボ医療費の平均伸び率の分布は,1.05~1.1に最多の330組合が分布しており,歪度1.81と右側(=医療費増加)に偏っていた。若干の加齢による影響も加味しなければならないが,各保険者がメタボ対策にとりくんだ4年間においても明確なメタボ医療費削減効果は観察されなかった。