著者
池原 研 板木 拓也
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.633-642, 2005-11-15
被引用文献数
1

冬季モンスーンはシベリア高気圧と周囲の低気圧との間の大気循環による現象である.東アジアではシベリア高気圧とアリューシャン低気圧や赤道・オーストラリア低気圧との間の風で特徴付けられ,日本列島周辺では北西季節風が卓越する.この低温で乾燥した北西風は,ロシア極東沿岸日本海の表層水を冷却し,沿岸付近では海氷を形成させる.冷却され,海氷形成時に排出された高塩分水が加わって重くなった表層水は沈み込んで日本海固有水と呼ばれる深層水を形成する.最近の海洋観測結果から,深層水の形成は海氷が形成される極端に寒い冬に起こっているので,海氷と深層水の形成は冬季モンスーンの指標となると考えられる.本稿では,過去16万年間の海氷の発達度合いを示す漂流岩屑の量と冷たくて酸素に富んだ深層水の指標となる放散虫<i>Cycladophora davisiana</i>の産出量を検討した.その結果,酸素同位体ステージ3-5においては,両者とも千年規模の変化を示し,東アジア冬季モンスーンがこの時期に千年規模で変動していたことを示唆する.両者が高い値を示す時期には冬季モンスーンが強かった可能性が高い.同時期の日本海堆積物にはやはり千年規模での変動をもつ夏季モンスーンの記録が暗色層として残されているので,これとの対応関係を見ることで,1本のコアから夏季・冬季モンスーンの強弱の歴史と両者の関係を解明できる可能性がある.<br>
著者
鬼頭 昭雄
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.654-667, 2005-11-15
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

大規模山岳がアジアモンスーンなどの気候形成に果たす役割を調べるために,全球大気海洋結合大循環モデルを用いて,チベット高原を含む全地球の山岳の高度を0(M0)から140%(M14)まで段階的に変える実験を行った.500 hPa面の東西風は,山岳高度が40%以下では一年を通してチベット高原の緯度帯より北の40 &ordm;N付近に位置するが,山岳を60%より高くすると冬季にはチベット高原の南側25 &ordm;N付近にあり春季にチベット高原の北へシフトすることがわかった.山岳高度が60%をしきい値として東アジアの循環場には大きな変化がおき,梅雨降水帯は山岳高度が60%より高い時のみ発現した.地表風の変化については,アラビア海北部では山岳が低い場合には一年を通して北風に支配され,モンスーン南風域には入らない.乾燥気候に区分される面積は山岳上昇とともに減少することもわかった.<br>
著者
志村 俊昭 小山内 康人 豊島 剛志 大和田 正明 小松 正幸
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.654-665, 2006-11-15
参考文献数
57
被引用文献数
2

日高変成帯は,第三紀の火成弧の地殻断面であると見なされている.シンテクトニックなトーナル岩マグマは地殻規模のデュープレックス構造のフロアースラスト,ランプ,ルーフスラストに沿って迸入している.このトーナル岩マグマは露出していない最下部地殻のアナテクシスによって生じた.<br>日高変成帯北部の新冠川地域には,含輝石トーナル岩類(最下部トーナル岩体)が分布している.このトーナル岩体には,斜方輝石の仮像や,アプライト脈などの様々な冷却過程を示す証拠を見ることが出来る.これらの組織から,このトーナル岩体の冷却過程が明らかになった.シンテクトニックなトーナル岩体と,変成岩層の<i>P</i>-<i>T</i>-<i>t</i>経路は地殻の上昇テクトニクスを示している.一方,デラミネーションを起こした最下部地殻の<i>P</i>-<i>T</i>-<i>t</i>経路も推定することが可能である.<br>
著者
多田 隆治
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.668-678, 2005-11-15
参考文献数
69
被引用文献数
2 3

ヒマラヤ-チベットの隆起がアジア・モンスーンを強化したとする考えは古くから存在したが,それらの開始時期や様式について十分な知見が得られていなかったため,検証されずに今日に至っている.近年,中国のレス堆積物や日本海堆積物を用いたモンスーン進化過程の復元が進み,ヒマラヤ-チベットの隆起時期や過程についても知見が蓄積されてきた.ヒマラヤ-チベットの隆起とモンスーンの成立,進化の関係の吟味に不可欠な気候モデルも,飛躍的に改善が進んだ.本総説では,アジア・モンスーンの開始,進化,変動に関する最新の古気候学的知見を基にその進化過程を復元し,気候モデルを基に推定された進化過程と比較して,ヒマラヤ-チベットがどのように隆起してきたと考えれば,モンスーン進化過程が最もうまく説明がつくかを検討した.こうして推定されたヒマラヤ-チベットの隆起過程は,構造地質学的に推定された隆起過程と概ね整合的と考えられる.<br>
著者
山下 透 檀原 徹 岩野 英樹 星 博幸 川上 裕 角井 朝昭 新正 裕尚 和田 穣隆
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.7, pp.340-352, 2007-07-15
参考文献数
49
被引用文献数
10 7

紀伊半島北部に分布する室生火砕流堆積物とその周辺の凝灰岩(石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩)および外帯中新世珪長質岩類について,屈折率を用いた軽鉱物組合せモード分析を行った.その結果,紀伊半島北部の中期中新世珪長質火砕流堆積物の斜長石系列は,すべてオリゴクレース~ラブラドライトで特徴付けられることから,これら4者は対比された.加えて室生火砕流堆積物は外帯に分布する熊野酸性岩類の流紋岩質凝灰岩の一部と対比できた.これらのことから,室生火砕流堆積物と石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩は15 Maの熊野地域のカルデラを給源とする同一の大規模火砕流堆積物であると推定される.また熊野酸性岩類の中のアルバイトで特徴付けられる流紋岩質凝灰岩は,同じ軽鉱物組合せをもつ中奥弧状岩脈を給源とする可能性がある.<br>
著者
山北 聡 大藤 茂
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.11, pp.585-590, 2007-11-15
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

Folds in accretionary complexes, especially those in the Mino-Tanba Belt, are often called not &ldquo;syncline&rdquo; or &ldquo;anticline&rdquo; but &ldquo;synform&rdquo; or &ldquo;antiform&rdquo; evenly. However, this usage is not correct, since it cannot distinguish an inverted fold from a normal one. They are structurally quite different and distinguished from each other as a syformal anticline and a syncline or as an antiformal syncline and an anticline in normal sedimentary strata. &ldquo;Synform&rdquo; and &ldquo;antiform&rdquo; are terms for the folds that are out of this distinction; they should be used when the stratigraphic relationship or the facing is unknown. This terminology should be followed also in accretionary complexes, and &ldquo;syncline&rdquo; and &ldquo;anticline&rdquo; should be defined not with a chronological relationship between the strata in the core and the limbs, as in many glossaries and encyclopedias, but with a facing direction of the both limbs, namely, as a fold whose limbs are facing syn-axisward or anti-axisward, respectively.
著者
吉川 敏之
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.12, pp.760-769, 2006-12-15
参考文献数
27

栃木県北部のうち,日光市今市(旧今市市)周辺地域には珪長質火山岩類が広く分布する.このうち,飯山層および大滝凝灰角礫岩の火砕岩のフィッション・トラック(FT)年代を測定した.飯山層の火砕流堆積物中に含まれるジルコンのFT年代は14.8±0.7 Maで,ほぼ火砕流の噴出年代を表していると判断できる.大滝凝灰角礫岩の岩屑なだれ堆積物の基質部分に含まれるジルコンのFT年代は13.4±0.6 Maであるが,χ<sup>2</sup>検定に失格し,ポアソン変動以外の年代値を乱す要因を受けている可能性があり,大滝凝灰角礫岩の年代は依然として明確でない.飯山層の年代は栃木県内の海成中新世火山岩類では最も古く,放射年代に基づくと,各地域の珪長質火山岩は時間間隙を伴いながら場所を変えて噴出したものと見なせる.ただし,宇都宮地域の年代に関しては,年代値と層序の矛盾,年代決定手法間の不一致があり,この問題が解決されないと火山岩類の対比も確立できない.<br>