- 著者
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冨永 達
小林 央往
植木 邦和
- 出版者
- 日本草地学会
- 雑誌
- 日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, no.3, pp.164-171, 1989-10-31
- 被引用文献数
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チガヤ(Imperata cylindrica (L.) BEAUV.)は,世界の熱帯から温帯にかけて広く分布するイネ科の多年生草本で,家畜の飼料として利用されている。本研究はチガヤの日本列島における形態および生活史に関する地理的変異を明らかにしようとしたものである。北海道から沖縄県に至る各地で1983年までに採集し,系統維持していた402クローンを1985年から同一条件下で栽培し,稈の節毛の有無および生活史について調査した。このうちの52クローンについては,1クローンにつき5ラミートを8号素焼鉢(直径20cm,深さ19cm,容積約6000cm^3)に移植し,乾物生産量を調査した。栽培実験は京都大学農学部附属亜熱帯植物実験所(和歌山県串本町)において行った。調査した402クローンは,稈の節毛の有無により,2変種に分類された。無毛のvar.genuinaに属するクローンの分布は,北海道,東北北部および福島,群馬,長野各県の高地に限定され,紀伊大島での出穂は極めて早く,草型は小型であった。一方,有毛のvar.hoenigiiに属するクローンは,東北南部以南に分布し,生活史に基づいてさらに2群に類別された。すなわち,奄美大島以南から採集したクローンは5月から10月にかけて断続的に出穂し,冬期も枯死しなかったのに対し,東北南部から九州にかけて採集したクローンは年に一度だけ5月に出穂し,冬期には休眠状態に入った。また,一般に植物体の大きさや生活史に関して採集地の緯度に伴うクラインが認められ,北方産のクローンほど植物体が小型で遅く出芽し,出穂は早く,地上部が早く枯死した。これらの結果は主として採集地の気候要因,特に冬期の温度の差異に起因するものと推定された。