著者
日本老年医学会CGAツール選定・最適化WG 小宮 仁 梅垣 宏行 川嶋 修司 小島 太郎 竹屋 泰
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-12, 2021-01-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
22

著作権とは,無体財産権の一つで,著作物に対する独占的・排他的権利で,著作者を保護するため,その精神的な創作活動の所産である著作物に対して著作権法が認めたものである.老年医学の診療・研究において,高齢者総合機能評価(CGA:Comprehensive geriatric assessment)ツールが汎用されているところであるが,個々のCGAツールは著作物であり,その使用にあたっては,著作権侵害にならないように留意する必要がある.著作権法は無方式主義を採用しており,著作物の創作とともに著作権は自動的に発生する.また,著作権の保護期間は,原則著作者の死後70年間である.したがって,ほとんどのCGAツールは著作権法の保護を受ける.著作物を複製(コピー)する場合,私的使用目的などの例外的場合でない限り,著作権者に無断で行えば著作権を侵害する可能性がある.参考のために,CGAツールの著作権に関する情報について,可能な範囲で調査を行い,その結果を表で提示した.著作権者が不明で許諾を得ることができない場合には,著作権者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け,通常の使用料額に相当する補償金を供託することで,著作物を適法に利用することができるとする制度がある.
著者
長永 真明 大西 丈二 梅垣 宏行 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.321-326, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

IgG4関連疾患は高齢男性に多く,自己免疫異常や血中IgG4高値に加え,全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である.IgG4関連疾患ではしばしばリンパ節腫大を伴うが,臨床的に悪性リンパ腫との鑑別が求められる.今回我々はIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した超高齢者の症例を経験したので報告する.症例は85歳男性.X-6年に自己免疫性膵炎を指摘されていた.X-1年10月にIgG4関連下垂体炎と診断され,続発性副腎不全に対する補充療法としてヒドロコルチゾンが開始となった.X年2月に中枢性尿崩症を併発したためデスモプレシンが追加となった.X年11月発熱に加え,弾性硬で可動性のある圧痛のない全身性リンパ節腫脹を認めたため入院となった.入院後右腋窩リンパ節生検を施行し,病理所見よりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した.年齢やPerformance Statusなどを考慮した結果,積極的治療は行わず,症状緩和目的でのステロイド投与の方針となり,入院55日目転院となった.悪性リンパ腫とIgG4関連リンパ節症との鑑別は臨床経過,病理所見,血中IgG4値などの検査データ,他臓器病変の有無などを元に総合的に判断する必要がある.今までのIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した症例は概ね60~70歳台であり,本症例の85歳での報告は最高齢である.しかしIgG4関連疾患,悪性リンパ腫共に高齢者に多い疾患であり,一般内科医や老年内科医として知識を深めておく必要があると考えられる.
著者
紙谷 博子 梅垣 宏行 岡本 和士 神田 茂 浅井 真嗣 下島 卓弥 野村 秀樹 服部 文子 木股 貴哉 鈴木 裕介 大島 浩子 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.98-105, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

目的:認知症患者のQOL(quality of life)について,本人による評価と介護者による代理評価との一致に関する研究はあるが,在宅療養患者のためのQOL評価票をもちいて検討したものはない.本研究の目的は,主介護者などの代理人に回答を求めるQOL評価票の作成と,本人の回答との一致性について検討することとした.方法:この研究は在宅患者の観察研究である.我々が開発した,4つの質問からなるQOL評価票であるQOL-HC(QOL for patients receiving home-based medical care)(本人用)に基づいて,QOL-HC(介護者用)を作成した.また,QOL-HC(本人用)とQOL-HC(介護者用)を用いて,患者本人と主介護者から回答を求め,それぞれの質問への回答の一致率についてクロス集計表を用いて考察した.また,合計得点についてはSpearmanの順位相関係数を求めた.結果:質問1「おだやかな気持ちで過ごしていますか.」,質問2「現在まで充実した人生だった,と感じていますか.」,質問3「話し相手になる人がいますか.」,質問4「介護に関するサービスに満足していますか.」について,本人と介護者の回答の一致率は,それぞれ52.3%,52.3%,79.5%,81.8%であった.また,QOL-HC(本人用)合計点とQOL-HC(介護者用)合計点について有意な弱い相関を認めた(Spearmanのρ=0.364*,p=0.015).結論:本人と介護者による評価とに50%以上の一致率をみとめ,合計点について有意な相関をみとめた.介護者による評価を参考にできる可能性はあるが,評価のかい離の要因およびQOL-HC(介護者用)の信頼性の検討が必要である.
著者
岩田 充永 梅垣 宏行 葛谷 雅文 北川 喜己
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.330-334, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
5
被引用文献数
4 3

目的:夏季の高温多湿が進む日本では,熱中症が増加することが予想されるが,高齢者の熱中症については十分な検討がなされていない.高齢者熱中症の特徴を明らかにするために,65歳以上高齢者で入院となった熱中症例について検討した.方法:2006年の7∼9月とおよび2007年の7∼9月に名古屋掖済会病院救命救急センターを熱中症で受診し,入院となった65歳以上高齢者を対象に,発症日の気候,同居家族,発症環境,空調設備の有無や利用状況,基本的ADL,かかりつけ医の有無,認知症の有無,介護サービスの利用状況,重症度,入院期間,転帰について調査した.結果:研究期間中の熱中症受診104例中31例(31%)が入院となり,そのうち65歳以上高齢者は25例中20例(80%)で,若年者79例中11例(13.9%)に比較して有意に入院率が高かった(p<0.001).平均入院期間は20.6±17.8日で,65歳以上入院群27.5±18.6日,65歳未満入院群5.3±3.0日と高齢者群の入院期間は有意に長期となった(P<0.001).自宅内発症の熱中症は16例で,全例65歳以上で入院を必要とし,65歳以上高齢者の入院熱中症症例(20例)の80%を占めた.自宅内発症例の多くは,最高WBGT 28°C以上(14例),空調設備を有していない(11例),ADL自立(10例),認知症(12例),介護サービス未利用(11例),独居もしくは配偶者と2人暮らし(14例)などの特徴を認めた.入院症例のうち12例(60%)が自宅に退院できなかった.結論:高齢者は通常の自宅生活でも熱中症を発症する危険があり,WBGT28°C以上の日は特に危険が高い.高齢者の熱中症を予防するためには,(1)ADLが比較的保たれ介護サービスを受けない高齢者や独居もしくは配偶者と2人暮らしの高齢者に対する見守り体制の構築,(2)住居における空調設備の設置援助と適正利用への啓発と見守り体制の構築の2点が重要である.
著者
葛谷 雅文 遠藤 英俊 梅垣 宏行 中尾 誠 丹羽 隆 熊谷 隆浩 牛田 洋一 鍋島 俊隆 下方 浩史 井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.363-370, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
8 14

名古屋大学医学部附属病院老年科病棟と, 国立療養所中部病院高齢者包括医療病棟入院中の65歳以上の患者を対象に老年医学的総合評価 (ADL, Instrumental ADL, 認知機能, 情緒傾向, 社会的状態などを含む) と服薬コンプライアンス評価調査表を用い, 高齢者の服薬コンプライアンスに関与する因子を検討した. 2施設間の調査対象集団を比較すると, 中部病院で女性の割合が多く有意に高齢であった. さらに中部病院では Instrumental ADLが有意に低スコアーであった. 老年医学的総合評価項目と服薬コンプライアンス評価項目との検討では, 服薬管理者 (自己管理か非自己管理か) を規定している因子は主にADL, Instrumental ADL, 認知機能障害, うつ状態, コミュニケーション障害の有無であった. 服薬状況 (薬の飲みわすれ) は老年医学的総合評価項目のいずれにも有意な関係がなかったが, 用法の理解度, 薬効の理解度との関係は施設間で差を認めた. すなわち大学病院では服薬状況と用法, 薬効理解度との間に有意な関係を認めたが, 中部病院ではいずれも有意差を認めなかった. 服薬用法理解, 薬効理解度は Instrumental ADL, 認知機能, コミュニケーション能力, 集団行動能力と有意な関係にあった. 薬効理解度は教育歴とも有意な関係にあった. 2施設を比較すると多くの総合評価項目とコンプライアンスの関係は一致していた. 以上より, 高齢者の服薬コンプライアンスは患者の身体機能, 認知機能とは関係なく, 服薬用法, 薬効理解との関係が示唆された. このことは服薬指導の重要性が高齢者の服薬コンプライアンス向上に重要であることを再認識させる.