- 著者
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榧根 勇
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.12, pp.735-750, 1993
- 被引用文献数
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文部省科学研究費補助金の分科細目の大幅変更を機に,特定地域の自然と人間との関係を研究する地理学の存在理由について,自然地理学の側から考えてみた. 17世紀に西洋で始まった近代科学は,差異の捨象と法則性の追求を主目的とし,個別事例の説明は法則による演繹で可能としてきた.かって自然地理学を構成していた地形学・気候学・水文学などは,このような近代科学の枠組みのなかで,それぞれ独立したディシプリンとしての基礎をかためた.近代科学の目的は,均質で比較的単純な系については達成されたが,人間と直接かかわる自然,すなわち不均質で時間とともに進化する複雑な系については未だしの感がある.自然地理学の存在理由は,たぶん自然の一部である人間がよりよい生を送るために必要な知の提供にある.その目的は地域情報を総合して自然史を編み上げることで達成できると思う.一例として,ヒマラヤ・チベットの隆起が第四紀後期の氷期一間氷期出現の原因になったというHT効果仮説について説明した.現在地球上に展開している人文現象の地域的差異の理解にとっても,地域の自然史は不可欠の情報である.