- 著者
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橋本 和典
- 出版者
- 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
- 雑誌
- 天理医学紀要 (ISSN:13441817)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.2, pp.118-122, 2021-12-25 (Released:2021-12-24)
- 参考文献数
- 14
高齢者における睡眠障害の影響として,心血管系リスクの上昇,高血圧の発症,耐糖能の低下,抑うつ症状の惹起に関連するとの報告があるが,認知機能低下や認知症発症への影響はどうだろうか.Tsapanouらの報告では睡眠不足と認知症発症との関連が示されており,その機序として,睡眠障害により脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)のクリアランスが低下することによりAβの増加や沈着が生じ,アルツハイマー型認知症のリスクが高まると考えられている. また,ベンゾジアゼピン系薬剤が認知機能に与える影響についての研究も多数報告されている.Billioti de Gageらのベンゾジアゼピン系薬剤の服用と認知症リスクの関連についての10報の研究をレビューした報告では,ベンゾジアゼピン系薬剤の服用により認知症のリスクが1.5–2倍程度高まるという結果であった.しかし,Grayらの報告では,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用量が低用量,中等量の時は認知症発現リスクの上昇が見られたが,高用量では上昇しないことが示された.また,Imfeldらの報告では,ベンゾジアゼピン系薬剤が認知症発症の前駆期使用されたとき,そのリスクが上昇する傾向が示され,認知症発症の前駆期に出現する睡眠障害に対して,睡眠薬を使用していることが,認知症発症に睡眠薬が関連しているように捉えられる可能性が考えられた.この様にベンゾジアゼピン系薬剤の使用による認知症リスクの上昇については明確な結論は出ていない. 睡眠障害の治療にはベンゾジアゼピン系,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,メラトニン受容体作動薬,オレキシン受容体拮抗薬などの薬物治療と睡眠習慣の見直しなどの非薬物的なアプローチがある.睡眠障害と認知症の関連を考慮すると、それぞれをバランスよく組み合わせた不眠治療が必要である.