著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-27, 2008
被引用文献数
2

本稿では,男女一対一の性関係を基盤にした関係と血縁に絶対的な価値をおき,ジェンダーに基づく役割分担の再生産が行われる「従来の家族」に対し,レズビアン家族・ゲイ家族の実践から何を問いかけることができるかを,先行研究などから実例を挙げて検討した。(1) レズビアンやゲイにとって友人やコミュニティが家族になっていること,(2) 血縁家族は精神的な支えになるとの前提が疑問視され,誰を「家族」と見なすのかの再考がなされること,(3) レズビアンやゲイが親になることで,「親=父親+母親」との前提が崩され,親子関係が「無の状態から交渉できるもの」となりうること,(4)ジェンダー役割を問い,日常の家事や育児に柔軟に対応するパートナー関係の実践があることを挙げ,これらが「従来の家族」に問いかける可能性があると論じた。最後に,レズビゲイ家族の実践が主流への同化か挑戦かの判断の難しさを述べた。
著者
コー ダイアナ 釜野 さおり
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.124-134, 2013
被引用文献数
2

本稿では,成人子と親との関係に関する研究のレビューを通じて,母娘関係の研究では異性愛が前提とされていることを示し,娘が異性愛的理想を拒否する・それを達成できないことを視野に入れることで,母娘関係の研究に新たな課題を提起することを指摘した.筆者らが過去に実施した同性間の関係に関する質的調査のデータを用いて,(1)異性愛規範性は,異性愛の母親とレズビアンの娘の関係において強化されると同時に揺るがされること,(2)母娘関係において距離をもつことと親密性は排他的ではないこと,(3)娘から母親に向けた,同性愛的指向・同性とのパートナー関係の開示は複雑であること,(4)母と娘のジェンダーの共有が,異性愛規範を強化せずに親密性の促進につながる場合があること,(5)娘の女性パートナーは母娘関係に重要な影響を与える存在であることを,実例で示した.レズビアンの娘とその母親との関係に着目することは,家族のダイナミックスのクィア分析に有用であることが示唆された.
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.188-194, 2009-10-30 (Released:2010-10-30)
参考文献数
30
被引用文献数
3 1
著者
釜野 さおり 千年 よしみ 布施 香奈 小山 泰代 山内 昌和 岩本 健良 藤井 ひろみ 石田 仁
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

性的指向と性自認のあり方におけるマイノリティが、「LGBT」と括られて取り上げられることが増えている今、性的指向と性自認のあり方に関しての信頼性のある情報が求められている。そうしたニーズに応えるために、本研究では人口学領域と性的マイノリティの研究との融合を図りつつ、人口学的な視点から性的指向と性自認のあり方(SOGI)の研究基盤を築くことを目指す。この目標に向け、 (1) SOGIに目を向けてこなかった日本の人口学において、SOGIに注目する意義とその研究の方向性を探り、(2)性的指向と性自認を取り巻く社会的状況の重要な要素である「家族」ついての実証研究を進め、(3)日本の文脈で「LGBT」の人口を社会調査で捉える方法論の検討を行い、(4) SOGIによる生活実態の統計的比較分析を可能とする調査のあり方を検討・企画する。平成28年度は、日本人口学会においてSOGIをテーマとしたセッションを企画し、5本の報告を行った。また、これまで人口学関連分野で研究を進めてきた者と、SOGIに関しての研究をしてきた者との間の相互理解を目指し、定期的に研究発表会を実施した。SOGIを扱う人口・家族研究の文献収集とそのデータベース構築の着手に加え、SOGI項目を含む海外の公的調査の事例およびマニュアルを精読し、日本での応用可能性を検討した。また日本においてSOGI項目を含めた生活実態調査を全国レベルおよび自治レベルで実施する可能性を、費用、関心・協力自治体の有無などを含む、広い視野からの情報収集を開始した。SOGIを取り巻く社会の基盤の一つである「家族」に関する研究では、家族と世帯の形、出生力の地域差、母親との同居・近居と女性の就業との関係を取り上げ、1つの事象を複数のデータに基づいて検証する環調査的分析を行い、それらの成果を特集論文として公表した。
著者
河口 和也 釜野 さおり 菅野 優香 清水 晶子 石田 仁 風間 孝 堀江 有里 谷口 洋幸 菅沼 勝彦 吉仲 崇
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究グループでは、調査クラスタが、性的マイノリティに関する意識について学術的方法を用いた全国規模調査を2015年3月に行った。政策クラスタは、男女共同参画及び人権施策やそのなかで性的マイノリティに対する具体的施策の遂行状況に関する自治体悉皆調査を2016年5月に行った。これらのプロジェクト遂行には、理論クラスタからも質問票作成と調査結果公表時には、ワーディングや伝達方式において示唆を得た。全国規模の意識調査については、東京と京都において一般およびメディア向けに調査報告会を開催し、2016年6月に報告書『性的マイノリティについての意識―2015年全国調査』として代表者のウェブサイトで公表した。
著者
コー ダイアナ 釜野 さおり
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.124-134, 2013
被引用文献数
2

本稿では,成人子と親との関係に関する研究のレビューを通じて,母娘関係の研究では異性愛が前提とされていることを示し,娘が異性愛的理想を拒否する・それを達成できないことを視野に入れることで,母娘関係の研究に新たな課題を提起することを指摘した.筆者らが過去に実施した同性間の関係に関する質的調査のデータを用いて,(1)異性愛規範性は,異性愛の母親とレズビアンの娘の関係において強化されると同時に揺るがされること,(2)母娘関係において距離をもつことと親密性は排他的ではないこと,(3)娘から母親に向けた,同性愛的指向・同性とのパートナー関係の開示は複雑であること,(4)母と娘のジェンダーの共有が,異性愛規範を強化せずに親密性の促進につながる場合があること,(5)娘の女性パートナーは母娘関係に重要な影響を与える存在であることを,実例で示した.レズビアンの娘とその母親との関係に着目することは,家族のダイナミックスのクィア分析に有用であることが示唆された.
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.200-215, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,「性的マイノリティについての意識:2015年全国調査」のデータを用いて「同性愛・両性愛フォビア度尺度」と「家族・ジェンダー保守度尺度」を生成し,各尺度得点を被説明変数とした重回帰分析を行った(n=1074).男性である,高齢である,同棲の経験がない,政治意識が保守的である,セクシュアル・マイノリティが周りにいないと認識していると,家族・ジェンダー保守度と同性愛・両性愛フォビア度が高いことがわかった.婚姻地位,都市規模,信仰・信心の有無は,いずれの尺度においても関連性が確認できなかった.学歴,就業の有無,主な仕事の種類,宗教心の重要性,居住地域については,2つの尺度間で,また,統制する変数によって結果が異なった.検討した変数すべてを含むモデルの標準化係数を見ると,同性愛・両性愛フォビア度に対する説明力が高いのは,年齢,セクシュアル・マイノリティが周りにいるか否か,性別の順であった.
著者
河口 和也 釜野 さおり 鈴木 秀洋 石田 仁 風間 孝 堀江 有里 谷口 洋幸
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究チームは、SOGI意識調査グループとSOGI施策調査グループからなる。計画としては、二つの調査グループが並行して調査実施を行う予定であったが、2019年度においては、SOGI意識調査の全国大規模意識調査を中心に実施していくこととした。施策チームのメンバーの在外派遣研究などにより人的資源の確保が難しくなったこと、さらに意識調査の調査費用を再試算した結果、回答の回収数を確保するためには当初の調査予算では実施することが難しいことが明らかになった。(大きな要因としては調査実施時期の年度内に消費増税が実施されたこと。)したがって、2019年度には、施策調査の実施を縮小することにした。2019年度においては、SOGI意識調査グループでは、全国規模の意識調査に向けて、調査票の最終確定を行い、前年度までに候補が挙げられていたなかから、依頼する調査委託業者を選定した。その後、調査実施に向けた諸手続きに関して、調査委託業者と科研研究チームおよび大学所管事務のあいだで進めた。本調査は、全国市町村区に在住する20歳~79歳の男女5500名(国籍は問わない)に対して、住民基本台帳を用いた層化2段無作為抽出(全国275地点)方法を用いてサンプリングを行い、2019年6月から7月(6月27日~7月15日:予備期間~7月22日)にかけての調査時期をもうけて行った。質問数は、120も程度でA4版16頁の質問票を対象に配布し、調査員による訪問留置訪問回収法(郵送回収、ウェブ併用)で回収した。回収数は2,703名で、回収率は49.1%となった。回収方法の内訳は次の通りである。訪問回収2,231、郵送返送305、WEB回答167。(回収数には30の代理回答を含んでいる)。意識調査は、予定通り遂行され、分析のためのデータクリーニングなどの作業を行った。
著者
風間 孝 菅沼 勝彦 河口 和也 堀江 有里 清水 晶子 谷口 洋幸 釜野 さおり 石田 仁
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、セクシュアリティおよびジェンダーの軸と、階層・階級、人種・民族、地域、国籍といった軸とを交差させるなかで、日本においてクィア・スタディーズを展開していくことを目的とした。その結果、法制度や社会調査、社会制度設計において、理論研究と実証研究の問題意識とが交流のないままに研究が進められている現状が明らかとなり、研究成果を他の学問分野および(市民)社会領域と交流させていくことの意義と緊要性が確認された。
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-27, 2008-04-30 (Released:2009-08-07)
参考文献数
51
被引用文献数
3 2

本稿では,男女一対一の性関係を基盤にした関係と血縁に絶対的な価値をおき,ジェンダーに基づく役割分担の再生産が行われる「従来の家族」に対し,レズビアン家族・ゲイ家族の実践から何を問いかけることができるかを,先行研究などから実例を挙げて検討した。(1) レズビアンやゲイにとって友人やコミュニティが家族になっていること,(2) 血縁家族は精神的な支えになるとの前提が疑問視され,誰を「家族」と見なすのかの再考がなされること,(3) レズビアンやゲイが親になることで,「親=父親+母親」との前提が崩され,親子関係が「無の状態から交渉できるもの」となりうること,(4)ジェンダー役割を問い,日常の家事や育児に柔軟に対応するパートナー関係の実践があることを挙げ,これらが「従来の家族」に問いかける可能性があると論じた。最後に,レズビゲイ家族の実践が主流への同化か挑戦かの判断の難しさを述べた。
著者
岩澤 美帆 別府 志海 玉置 えみ 釜野 さおり 金子 隆一 是川 夕 石井 太 余田 翔平 福田 節也 鎌田 健司 新谷 由里子 中村 真理子 西 文彦 工藤 豪 レイモ ジェームズ エカテリーナ ヘルトーグ 永瀬 伸子 加藤 彰彦 茂木 暁 佐藤 龍三郎 森田 理仁 茂木 良平
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

結婚の形成と解消の変化を理解するために、(1)変化・差異の記述、(2)説明モデルの構築と検証、(3)変化の帰結の把握に取り組んだ。横断調査、縦断調査データの分析のほか、地方自治体に対するヒアリング調査を行った。若い世代ほど結婚が起こりにくく、離婚が起こりやすい背景には近代社会を生きる上で必要な親密性基盤と経済基盤という両要件が揃わない事情が明らかになった。要因には地域の生活圏における男女人口のアンバランスや縁組み制度の衰退、強すぎる関係、男女非対称なシステムと今日の社会経済状況とのミスマッチが指摘できる。一方で都市部や高学歴層におけるカップル形成のアドバンテージの強化も確認された。