著者
松村 拓郎 三谷 有司 沖 侑大郎 藤本 由香里 石川 朗
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.364-368, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1 14

目的:肺炎は脳血管障害患者に好発する合併症の1つであり,その発生機序の多くが誤嚥性肺炎である.誤嚥性肺炎は口腔内細菌叢の誤嚥による侵襲と咳嗽反射や免疫能などの宿主の抵抗反応のバランスの崩壊によって発症するとされる.しかし,現在までの報告の多くが誤嚥や嚥下障害に着目したものであり,宿主抵抗に関する報告は乏しい.本研究では,嚥下障害を有する脳血管障害患者のみを対象として,誤嚥性肺炎発症における宿主抵抗の重要性について検討した.方法:脳梗塞または脳出血の診断を受け,回復期リハビリテーション施設4病院に新規入院した175名のうち,入院時点で嚥下障害を有していた76名(平均年齢74.7±8.4歳,男性29名)を対象とした.対象者を入院期間中の肺炎発症の有無により2群に分類し,2群間で入院時の特徴を後方視的に比較・検討した.結果:入院期間中に肺炎を発症したのは10名(13.2%)であり,そのすべてが65歳以上の高齢者であった.2群間の比較では性別,活動レベル,血清アルブミン,食事形態,嚥下障害重症度の項目で有意差がみとめられた(p<0.05).結論:本研究から嚥下障害を有する脳血管障害の肺炎発症要因として女性,臥床,低栄養状態,経管栄養,重度嚥下障害の存在が挙げられた.誤嚥性肺炎発症は嚥下障害と非常に密接に関係している一方で,臥床や低栄養状態などの宿主抵抗も重要な関連因子であることが示された.
著者
山口 卓巳 沖 侑大郎 沖 由香里 大平 峰子 石川 朗
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.160-167, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)
参考文献数
30

本研究の目的は,AMPSを用い在宅COPD患者の動作特性を明らかにすることと,COPD特有の重要なアウトカムとの関連性を明らかにすることである.対象は,在宅酸素療法未導入かつ自宅でAMPSが測定できた13例とした.呼吸機能検査,mMRC息切れスケール,CAT,NRADL,PFSDQ-m,AMPSを測定し,AMPSと各項目測定値との相関を検討した.結果,AMPSの運動技能・プロセス技能ともにCAT,NRADL,PFSDQ-mと相関を認めた.またAMPS運動技能は呼吸機能,mMRC息切れスケールとも相関を認めた.AMPSは既存の疾患特異的ADL尺度と相関を認めたことから,COPD患者のADL能力を反映することが示唆された.
著者
髙橋 一揮 藤沢 拓也 佐藤 光 菊地 優太 鈴木 沙斗美 松本 栞 沖 侑大郎 石川 朗 藤澤 宏幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0578, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】足踏み運動は,麻痺の改善や歩行能力改善など運動の中に多く取り入れられている。しかし,その運動強度に関して詳細な検討はなされていない。そのため,本研究では1分間当たりの足踏み回数(以下,ステップピッチ)と上肢支持の有無を変数として運動強度を中心に呼吸循環応答を検討することとした。【方法】対象者は健常若年成人女性13名であった。測定は運動負荷試験と足踏み運動とし,それぞれ別日に実施した。運動負荷試験は自転車エルゴメータを用いたramp負荷試験(10W/min)とした。一方,足踏み運動は股関節屈曲角度を45度と設定して算出した高さに紐を張り,対象者には紐に軽く触れるまで脚を上げるよう指示し,鏡を使用してフィードバックを促した。足踏み試験の設定条件はステップピッチ60・90・120(以下,P60・P90・p120)の3条件と上肢支持(手すり)の有無の2条件の計6条件としてランダムにて実施した。なお,ステップピッチはメトロノームを用いてコントロールし,上肢支持の手すりは大転子の高さとした。測定プロトコールは各条件の足踏み運動を3分間,休憩3分間を繰り返した。データは酸素摂取量を中心に呼吸循環パラメータを呼気ガス分析装置にて測定し,各条件終了直前の30秒間を平均化して代表値とした。統計処理は,R(3.2.1)を使用し,呼吸循環パラメータに関して上肢支持の有無による2要因について2元配置分散分析を,host-poc testとしてHolm法を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】運動負荷試験の結果,平均最高酸素摂取量は23.3±3.4mi/kg/min,平均ATは12.2±2.1ml/kg/minであり,比較的低体力層であった。足踏み運動の結果では,酸素摂取量にてステップピッチと上肢支持の有無には有意な主効果が認められたが,交互作用は認められなかった。多重比較では,P60・P90・P120間にいずれも有意差が認められ,P60では上肢支持無が有に対して有意に高値を示した。他の呼吸循環パラメータも類似傾向を示した。また,各条件におけるMETsと%ATでは上肢支持の有無による違いは小さく,P60(約2.5METs/約75%),P90(約3.0METs/約85%),P120(約3.5METs/約100%)であった。また,歩行率から算出した健常者の相対的平均歩行速度でのMETsと比較したところ,いずれのステップピッチにおいても足踏み試験が低値であった。【結論】本研究は対象が若年成人女性であったが,体力は60歳男性に相当していた。この対象者において,ステップピッチが増加することにより有意に呼吸循環応答が増大したが歩行に比して低負荷であったこと,ならびに,おおよそATレベルまで運動として容易に実施できる可能性を示した。よって,ステップピッチを変数とすることで合目的であり運動耐容能改善の方法となりうることを示唆した。
著者
沖 侑大郎 田中 直次郎 沖田 啓子 渡邉 光子 岡本 隆嗣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0991, 2012

【はじめに、目的】 延髄外側症候群(以下:Wallenberg症候群)とは、1895年にAdolf Wallenbergが発表し広く知られるようになった。球麻痺、小脳失調、交代性解離性感覚障害の所見を呈し、50%以上に嚥下障害を合併するといわれている。今回、Wallenberg症候群で嚥下障害を呈した症例に対し、理学療法学的観点から頸部可動性、舌骨上筋群の機能を中心に評価し、アプローチすることで改善が認められたので報告する。【方法】 本症例は、60歳代男性で、右椎骨動脈閉塞による右延髄外側の梗塞を発症し、左片麻痺、左失調症状、右側温痛覚障害、構音障害、嚥下障害を呈し発症51日目に当院に入院した。独歩でADLは自立しており、意識障害、高次脳機能障害は認めず、嚥下障害が主な問題点であり、藤島の摂食・嚥下能力のグレード7であった。神経学的所見として、Brunnstrom stageは左上下肢ともに6レベル。体幹機能は頸・体幹・骨盤帯運動機能検査で5レベルであり、座位および立位保持は安定。Berg's Balance Scaleで56/56でADL上バランス機能に問題は見られなかった。嚥下障害に対する問題点を頸部可動域低下、舌骨および喉頭挙上不全、舌骨上筋群筋力低下とし、Videofluorography(以下VF)上で軟口蓋および舌骨の挙上不全により十分な嚥下圧が得られないことによる喉頭蓋谷、梨状窩の残留を認めた。今回の評価方法として、藤島による摂食・嚥下能力のグレード(以下Gr.)、頸部伸展および回旋の関節可動域、相対的喉頭位置(以下T-position)、舌骨上筋群筋力評価スケール(以下GSグレード)、VF上で第3頸椎の内側縦長を基準とし、舌骨と喉頭それぞれの最大前方移動距離と最大挙上距離(前方/挙上)を用い、退院までの経過を評価した。問題点に対し、頸部可動域改善に向け、頸部・肩甲帯リラクゼーション後、舌骨上筋群へのマイオフェイシャルリリース、ダイレクトストレッチおよび舌骨モビライゼーションを行った。また、舌骨上筋群を強化して舌骨および喉頭運動を改善させ、食道入口部の開大を目的に、頭部挙上練習30回反復後、頭部挙上位1分間保持3回を1セットで構成されるシャキア法を、1日3セットを週5回で退院までの1ヶ月間継続的に行った。その際、通常のシャキア法では、腹筋群での代償が生じやすいと考え、頭部挙上練習は背臥位でセラピストが頸部を軽度屈曲位になるように後頭部を介助することで頭部の重さをサポートし、患者が顎を引くことに対し、セラピストが抵抗を加えた。頭部挙上保持は、セラピストが両肩関節を床面に向かい抵抗を加えながら行うことで腹筋群の代償の軽減を図りながら舌骨上筋群の筋力強化を図った。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例には症例報告をさせて頂く主旨を紙面上にて説明し同意を得た。【結果】 上記の評価項目を用い、退院までの経過を評価した。評価結果(入院時評価→退院時評価)として、(食形態)Gr.7→9、(頸部伸展)50°→60°、(頸部回旋左右)50°→60°、(T-position)0.44→0.416、(GSグレード)1→3、VF上で舌骨・喉頭移動距離(前方/挙上)は、(舌骨)11.7/4.4cm→12.9/14.7cm、(喉頭)22.0/10.4cm→25.9/12.9cmの項目に改善が見られた。【考察】 本症例に対し頸部・舌骨上筋群を中心としたストレッチを行うことで、頸部伸展および回旋可動域、T-positionの改善が認められた。頸部の可動域制限は、舌骨や喉頭を過剰に固定し挙上運動の制限因子となる。頸部ストレッチを行うことで伸張刺激が加わり舌骨・喉頭の挙上運動が働きやすい状況になったと考える。更にGSグレードの改善からも分かるようにシャキア法により喉頭挙上筋である舌骨上筋群の筋力が改善している。つまり、筋の長さ-張力曲線の原理から考え、頸部の伸張性が改善したことにより喉頭挙上に関する筋力が動員されやすい状態となった。さらに舌骨上筋群の筋力が改善したことにより舌骨・喉頭挙上運動が増大した。このことは、VF所見から舌骨前方および挙上移動距離の改善していることから明らかである。以上より今回の症例に対して舌骨上筋群のストレッチ、シャキア法が、嚥下機能改善に対する有用なアプローチ法であること、加えて詳細な評価が有効であることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回理学療法の観点からの嚥下障害に対する間接的アプローチを行うことで、改善が見られた。吉田らによると嚥下障害改善群は、頸部伸展・回旋、舌骨上筋群筋力が有意に改善すると報告しており、本症例においても嚥下機能改善に伴い、頸部伸展・回旋、舌骨上筋群筋力、T-positionの改善が見られておりアプローチ方法は有用であったと考える。今回着目した頸部の可動性、舌骨上筋群の筋力を中心に正確な評価指標をもって病態を把握し、嚥下運動に対してのより効果的なアプローチが可能になると考える。