- 著者
-
河島 伸子
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.4, pp.295-306, 2011
都市再生戦略において,文化的施設の建設や文化フェスティバルの開催などを核とする手法が世界各国で定着しつつある.ここでは都心部の整備と美化,都市ブランディングとイメージ向上戦略,文化観光の発展やコンベンション・ビジネスの誘致による入込客の増加策が中心にある.このような,文化を核としてその経済波及効果をねらう政策に加え,産業育成策としての都市文化政策が世界各国に広がった.これには,公的文化政策の対象である芸術文化に加え,映像や電子ゲーム産業など商業性の高い領域が合わさり,「創造産業」と呼ばれるようになったことも影響している.進展する経済のグローバル化,サービス化は,このような状況に拍車をかけている.経済波及効果を目的とする都市文化政策において,また近年急速に発達した創造産業振興型の都市文化政策においても,課題として残るのは,ここで想定されている発展シナリオに理論・実証面において,不十分な点や矛盾,齟齬が残されていることである.今後の都市文化政策においては,優れて多様な文化を育成・普及するという文化政策の基本目標に立ち返り,これらを達成するための環境整備として何をすべきかを十分に検討する必要がある.創造産業のメカニズムに関する研究を,特にデジタル化とグローバル化によりその基本構造がどのように変化しているかに留意しつつ,進展させていくことは,この下地作りのための重要な研究課題である.