著者
加藤 康子
出版者
文化経済学会 (日本)
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.36-44, 2016-03

人間の創造性こそが都市経済の今後の担い手であるとする創造都市論において、創造人材とされるクリエイティブクラス以外の市民の潜在力については、ほとんど注目されて来なかった。本研究は、都心でのアートと趣味縁をテーマとした市民有志による活動の場が、クリエイティブクラス以外の市民層が各自の潜在的な創造力を発現させる契機となっている事例に着目し、敷田の「ハーフシフト」概念を応用しながら、その機制(メカニズム)について事例からの分析を試みる。
著者
松永 直幸
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.53-61, 2003-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
20

博物館、美術館、資料館の立地に関して、現地を訪れた際しばしば疑問に思うことがある。どうしてこんな辺鄙な所に作ったのか? 特に交通の便に関して不満が多い。本稿は、こうした素朴な疑問から出発して、ミュージアムの立地について考察する。まず、立地の失敗の原因と克服の方法、最近の傾向等を分析する。そして望ましい立地条件として交通の便と類似施設の集積の他に、特性のある土地をあげ、それを多くの事例を挙げて類型化している。
著者
出口 正之
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.19-25, 2003-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
26

大恐慌時に大統領に就任したフランクリン・ローズベルトはいわゆるニューディール政策を展開した。日本では1933年からの第一期ニューディール政策はよく紹介されている。1935年に始まる第二期ニューディール政策では、雇用促進局 (WPA) を中心に連邦美術プロジェクト、連邦演劇プロジェクト、連邦音楽プロジェクト、連邦作家プロジェクトなどの芸術・文化政策が展開された。これらの政策は日本ではほとんど紹介されたことはない。本論文では、不況期の財政政策として社会資本整備の公共投資だけではなく、文化資本整備とも言うべき芸術・文化政策が存在していたことを紹介し、現在の日本の芸術・文化政策、景気対策へのヒントとしたい。
著者
工藤 安代
出版者
文化経済学会〈日本〉
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-37, 2006

1930年代のニューディール芸術文化政策は、現代米国社会の文化政策の基盤となっていると言える。ニューディールの芸術政策は2つの性格を持っており、一つは国民の芸術享受の機会を創出し、大不況のなかで芸術家を救済するという社会福祉的視点であり、二つ目は国家の芸術レベルを向上させ精神的アイデンティティを構築していく国家の文化向上政策の視点である。後者の担い手となったのは財務省の管轄下で実施された「セクション」である。ニューディール芸術政策は、第二次大戦と共に中断されるが、セクションの思想は1962年に設立した「米国公共施設管理庁 (GSA)」によるパブリックアート政策に引き継がれる。本稿はまず、ニューディール芸術政策の目的と各プログラムの特色を概観した後、「セクション」の政策に的を絞り、プログラムの目的、作品選定の手順・評価方法等の特性を考察する。その上で「セクション」の思想が現代パブリックアート政策の基礎を形成したことを論じる。
著者
勝又 英明
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.85-90, 1998-05-31 (Released:2009-12-08)
参考文献数
3

小劇場・小空間は、音楽・演劇活動の出発点として重要な存在である。しかしこれらの劇場は経営上、法律上などの多くの問題を抱えている。そこでこれらの劇場の施設・運営上の実態及び問題点を明らかにすることを目的として本調査を行った。調査は関東圏にある客席300席以下程度の劇場を対象とし、アンケート調査により行った。本調査により小劇場・小空間の運営上の実態、特に民営劇場の運営上の問題点が明らかになった。
著者
瀬藤 康嗣 丹羽 順子
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.43-56, 2005

インターネット時代に適合した音楽著作物のビジネスモデルの提案を行う。そのため、著作権の中でも財産権よりも人格権を優先する『弱い著作権』の可能性について検討を行った。その結果、『弱い著作権』の音楽情報財を無償で流通すると、著作権の『弱さ』ゆえに容易かつ広範囲に流通するのでプロモーション効果が上がり、またコンサートなどの補完財との抱き合わせにより収益をあげられることを確認した。
著者
渡部 薫
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.31-41, 2005-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
49

本稿は、都市の創造性の議論に対して、消費的視点の重要性を主張し、消費者の文化創造能力を切り口に文化消費と創造的環境の関係について考察を行った。消費者の文化創造能力は都市の文化空間において表現活動を中心にして発揮されるが、この能力が都市の創造的環境の形成に貢献するためには、文化空間において消費者の活動を創造的なものに方向付ける創造的な文化資本が備わっていることが一つの条件になる一方で、消費者の文化創造能力が生産する意味はこのような創造的な文化資本の維持・更新に寄与していることが示された。
著者
曽田 修司
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.47-55, 2007-03-31 (Released:2009-12-08)
参考文献数
31

公立文化施設は、従来アートの愛好家だけを対象としがちであり、公共財としてのアートという認識は一般的ではなかった。近年、ワークショップやアウトリーチなどの手法により、非愛好家に対してもアートの価値を目に見える形で提示する機会が増加している。これは、非愛好家を含む地域住民が地域文化形成への参加の保証を得ることにつながり、公立文化施設をめぐる異なる立場間の対立に「対話の可能性」をもたらすものと考えられる。
著者
閔 鎭京
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.41-56, 2005

本研究は、韓国のオペラ公演の歴史的な変遷を跡付けるとともに、今日のオペラを取り巻く状況について分析したものである。歴史的な変遷としては、韓国のオペラ団体によるオペラ制作の方法を基準とし、大きく4段階 (胎動期、成長期、拡大期、展開期) に分け、各段階において行われた制作方法の推移を把握しつつ、それぞれの特徴を分析した。そして、最後の展開期に当たる今日の状況として、(1) オペラ団体相互のネットワークを強める共同制作が多重化の様相を呈するとともに、公演数が拡大していること、(2) 観客掘り起こしのための多様な観客サービス戦略が展開され、チケット売り上げの増加が期待されるようになったこと、(3) 観客の拡大とその維持のための手法の違いによるオペラ界の細分化、の3つの特徴が見られることを明らかにした。
著者
持元 江津子
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.97-106, 2000-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
68

ケインズの多様な活動と著述から、彼独自の“芸術論”がありそうだが、彼自身は“芸術論”としてまとまった著作を残していない。しかし、彼の初期における美学的な考察と、ロジャー・フライの影響を受けたケインズの芸術に関する政策提言的な著述とから、彼の“芸術論”を推測することが可能になる。結局、彼の“芸術論”は、芸術のもつ‘公共性’に関する観察に根ざした独自のものに発展していったことが明らかになった。
著者
青木 幸子
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.135-144, 2007-03-31 (Released:2009-12-08)
参考文献数
15

高校における表現教育のアポリアの1つに、何を表現していいかわからないという生徒の反応がある。生徒が自己の見方に自信を持ち、想いを言葉にして他者に届けるにはどうすればよいか? ラジオドラマ制作を通して生徒に反映された効果を分析したところ、(1) 物語創出能力 (2) 物語構築能力 (3) 物語表現能力 (4) 物語共感能力が検証された。その4つの能力を表現教育に敷術化する試みの中で、生徒は想いを言語化することが可能となった。