- 著者
-
渡辺 肇
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
ミジンコは環境に応じて異なった生殖戦略をとることが知られている。適切な環境下では、単為生殖によりメスがメスを産むことにより急速に増殖する一方で、個体密度の上昇、餌の枯渇、日照時間の短縮、水温の低下など、その生存環境が悪化した場合には生殖戦略は単為生殖から有性生殖へと変化する。この有性生殖においてはまずメスがオスを産生し、このオスと交尾したメスは耐久卵と呼ばれる特殊な卵を産生する。この耐久卵は長期の乾燥にも耐えることから、生存戦略上有利に働いていると考えられる。特に個体密度が上昇した場合に生殖戦略が変化することは、ミジンコがその個体密度を何らかの方法で感知していることを示唆している。すなわち微生物などでよく知られ研究が進んでいるクオラムセンシングに類似したシステムがミジンコにおいても存在している可能性がある。このセンシングシステムの実態を明らかにするために、耐久卵を人工的に産生する条件を設定し解析を行った。耐久卵をつくる割合についていくつかの系統のミジンコについて検討を行い、ベルギー由来のミジンコが高率で耐久卵をつくることを明らかにした。およそ10Lの水槽でミジンコを一定時間培養し、過密状態になるまで飼育し耐久卵の産生を誘導した。耐久卵を高頻度で産生した水槽から飼育水を回収し、固相法により抽出を行った。生理活性については、通常はオス産生かおきない濃度で培養したミジンコの飼育水に溶出画分を添加することにより評価した。その結果、高密度でミジンコを培養した飼育水には、オス産生を誘導するインデューサーの存在が示唆された。さらにこの物質の同定を目指して、より大きな水槽を用いて培養を行い、オス産生誘導成分の精製を進めた。現時点では最終的な画分に至らないものの、バイオアッセイ法と部分精製法を確立したことから最終的な画分まで精製をすすめ最終的にその物質の同定をめざしている。