著者
瀧川 渉
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.113, no.1, pp.43-61, 2005 (Released:2005-07-13)
参考文献数
53
被引用文献数
2 4 3

縄文人と北海道アイヌの両集団間に緊密な近縁関係があるということは,頭蓋や歯冠に見られる計測的特徴や形態小変異などに基づいた各種解析の他,古人骨から抽出されたミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく分析からも積極的に支持されてきた。しかしながら,両者の四肢骨形態については,今まであまり十分な検討が行われてこなかった。 そこで今回,北海道,東北,関東地方を含む東日本における縄文人骨資料をふまえ,北海道アイヌと現代関東人との間で比較を行い,3集団間における四肢骨の計測的特徴について共通点と相違点を確認した。単変量の比較では,まず縄文人と北海道アイヌの遠位骨が現代関東人よりも相対的に長いということ,縄文人男性の腓骨が著しく太く3集団間で最大であること,縄文人とアイヌでは脛骨の扁平性の強さが共通するのに対し,上腕骨の扁平性や大腿骨の柱状性についてはアイヌの方が有意に弱いことが判明した。 また,3集団間で上肢骨と下肢骨の計測値に基づきマハラノビス距離を求めてみると,アイヌは縄文人と現代関東人のほぼ中間付近に位置づけられるか,やや現代関東人に近接する状況が見られた。その一方,いずれの計測項目の組み合わせでも,縄文人とアイヌの間の距離は,縄文人と現代人の間の距離よりも小さくなることが示された。近現代に至る小進化の過程において,縄文人がアイヌと現代関東人の共通の祖先であると仮定するならば,縄文人からアイヌに至る四肢骨の形質変化は,縄文人から現代関東人への変化よりも小さかったことが示唆される。このような形質変化の違いは,頭蓋計測値に基づいた距離分析の結果ともよく一致する。
著者
瀧川 渉
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.113, no.1, pp.43-61, 2005-06-01
被引用文献数
3 4

縄文人と北海道アイヌの両集団間に緊密な近縁関係があるということは,頭蓋や歯冠に見られる計測的特徴や形態小変異などに基づいた各種解析の他,古人骨から抽出されたミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく分析からも積極的に支持されてきた。しかしながら,両者の四肢骨形態については,今まであまり十分な検討が行われてこなかった。<br> そこで今回,北海道,東北,関東地方を含む東日本における縄文人骨資料をふまえ,北海道アイヌと現代関東人との間で比較を行い,3集団間における四肢骨の計測的特徴について共通点と相違点を確認した。単変量の比較では,まず縄文人と北海道アイヌの遠位骨が現代関東人よりも相対的に長いということ,縄文人男性の腓骨が著しく太く3集団間で最大であること,縄文人とアイヌでは脛骨の扁平性の強さが共通するのに対し,上腕骨の扁平性や大腿骨の柱状性についてはアイヌの方が有意に弱いことが判明した。<br> また,3集団間で上肢骨と下肢骨の計測値に基づきマハラノビス距離を求めてみると,アイヌは縄文人と現代関東人のほぼ中間付近に位置づけられるか,やや現代関東人に近接する状況が見られた。その一方,いずれの計測項目の組み合わせでも,縄文人とアイヌの間の距離は,縄文人と現代人の間の距離よりも小さくなることが示された。近現代に至る小進化の過程において,縄文人がアイヌと現代関東人の共通の祖先であると仮定するならば,縄文人からアイヌに至る四肢骨の形質変化は,縄文人から現代関東人への変化よりも小さかったことが示唆される。このような形質変化の違いは,頭蓋計測値に基づいた距離分析の結果ともよく一致する。<br>
著者
瀧川 渉
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.114, no.2, pp.101-129, 2006 (Released:2006-12-15)
参考文献数
140
被引用文献数
8 22

縄文人の身体形質に見られる地域差に関しては,頭蓋や歯の計測的特徴や形態小変異,推定身長に基づく研究が行われてきたが,これらの先行研究から,縄文人の形質の地域差は現代日本人との時代差よりも小さく,全国的にほぼ均質であると認識されてきた。今回,四肢骨の計測的特徴を中心に,北海道から九州までの6地域について,縄文人と現代日本人の地域間変異を比較した。単変量解析では,最大長において縄文人の方が現代日本人よりも地理的な変異幅が大きいこと,骨幹断面示数において縄文人の大半の項目に有意な地域差が見られるが現代日本人にはそれが全く認められないことが判明した。また,両集団の各地域間で四肢骨計測値を基にマハラノビスの距離を求めると,縄文人の地域間距離は現代日本人のそれよりも大きく,二次元展開図でも縄文人の分布領域の方が広くなった。頭蓋計測値で同様の分析を実施したところ,男性では縄文人と現代日本人の平均距離は同程度だが,女性では縄文人の地域間変異の方が大きくなった。この様相は四肢骨と頭蓋の形態を形成する各々の背景の相異を示唆しており,他の解剖学的特徴や遺伝的多型からも縄文人の地域差を検討する必要がある。
著者
瀧川 渉 伊達 元成 小杉 康
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.49-74, 2011 (Released:2011-12-22)
参考文献数
71

北海道・噴火湾北岸の豊浦町小幌洞窟では,1952・1961年の発掘調査により7個体の人骨が出土しているが,このうち出土状況が明らかな人骨は1個体のみで,それ以外は撹乱を受け帰属層位すら不明である。2006年の第二次調査では,洞窟東方の岩陰から頭部を欠いた男性人骨の埋葬が確認された。今回,これらの人骨の帰属時期と性格を明らかにすべく各人骨から試料を採取し,放射性炭素(14C)年代を測定した。噴火湾沿岸の出土人骨は海洋リザーバー効果と海洋深層水の湧昇流の影響で年代測定値が数百年古く示される傾向にあるため,安定同位体分析の結果を参考に陸上・海洋起源の炭素混合比を見積り,これを基にIntCal09とMarine09を合成した暦年較正プログラムにより年代補正を試みた。この方法は伊達市有珠4遺跡において火山灰の降下年代との照合からその有効性が確認されている。検討の結果,小幌洞窟出土人骨の多くが続縄文時代に属すると見なすことができ,一部個体は頭蓋や歯の形態学的検討からも大きな矛盾は生じないが,2号人骨のみ擦文時代に位置づけられる可能性が浮上した。また,岩陰出土人骨は較正年代と副葬品の煙管,四肢長骨・手骨・下顎骨の形態学的検討から勘案し,17世紀後半以降のアイヌと判断された。
著者
瀧川渉編
出版者
同成社
巻号頁・発行日
2012
著者
瀧川 渉
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

筋骨格ストレスマーカー(MSM)15 項目の進行状況について独自の基準を設定し、次のような研究成果を得た。(1)多くの項目において年齢と MSM スコアの間には有意な正の相関が確認された。(2)縄文人 5 地域集団間の比較では、男性の方が女性よりも MSM の出現状況において地域的な変異が大きいことが示唆された。(3)弥生人3地域集団を比較すると、北部九州弥生人は縄文人集団と異なる一方で、種子島弥生人は縄文人集団に類似する様相を示した。
著者
小杉 康 佐々木 亨 橋本 雄一 鈴木 正章 瀧川 渉 山崎 京美 富岡 直人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「噴火湾北岸縄文エコ・ミュージアム」の基本計画を作成し、小幌洞窟遺跡、有珠6遺跡の発掘調査による学術成果に基づいて、それぞれの遺跡をサテライトとして整備して、コア・ミュージアムを開設した。