著者
瀧本 家康 川村 教一 田口 瑞穂 吉本 直弘
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.573-587, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
18

日本の梅雨季から夏季にかけて大雨をもたらす水蒸気が地球規模の大気の運動によって日本付近へ輸送されていることに着目して,WEB気象マップを活用した探究教材を開発し,実践を行った。本実践では3種類のWEB気象マップを活用し,個々の生徒がマップから読み取れる雲,雨,風の情報を複合的に整理し,水蒸気の起源を探究することを授業の軸とした。中学校3年生を対象として,2021年8月の大雨を事例とした実践を行った結果,水蒸気の起源について,複数の異なる情報源を総合的に考察して71%の生徒が少なくとも太平洋やインド洋の遠方から水蒸気が輸送されていた可能性を見いだして表現することができた。本教材の有用性を検討した結果,77%の生徒は複数の情報を複合的に捉えて考察を行うことができたとともに,それを通して日本の気象と地球規模で生じている大気大循環のつながりを考えるきっかけとなった。さらに,37%の生徒はWEB気象マップの利用を通じて気象への興味関心が喚起され,20%の生徒は今後も活用したいと感じており,本稿が開発したWEB気象マップを利用した探究教材の有用性は一定程度示されたと考えられる。
著者
瀧本 家康 川村 教一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>近年,日本では各地で豪雨や台風による災害が頻発している.大雨による災害である浸水域や浸水深は概ね沖積平野の微地形の分布や特性から説明が可能である.したがって,生徒に平野における気象災害と土地の特徴を関連付けて考察させるためには,地形図に加え,河川の周囲の地形分類図や地形断面図などを適宜併用させることが必要である.これらの地形分類図や地形断面図を見るには,国土地理院が運用しているウェブ地図「地理院地図」を用いることが有用である.そこで,本研究では,中等教育段階の生徒を対象とした地理院地図の基本的な機能の紹介と水害の自然素因の一つである小地形・微地形を見出させて,水害のリスクを認知させる実習教材を開発し,試行実践を行った.本実習では地理院地図の機能のうち,「標準地図」に加えて,「地形断面図」,「地形分類図」,「浸水推定段彩図」を用いて,これまでに起こった2つの水害を事例とした2つの実習教材を開発した.2つの実習教材ともに水害をテーマとして,地理院地図を用いて土地の特徴を捉えた上で,浸水被害の状況の差異や想定される洪水リスクの分析を行う課題である.実践の結果,ほとんどの生徒が地理院地図の断面図,重ね合わせ機能を適切に利用することができていた.実習直後に,地理院地図の使い勝手や本実習の意義等について調査した結果,ほとんどの生徒が地理院地図の使いやすさを実感したとともに,本実習を通して,河川地形や地形と水害の関係などについて興味関心が高まったと回答した.</p>
著者
瀧本 家康
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.17-35, 2013-06-10
参考文献数
25

梅雨明け時の熱帯対流活動活発化領域の位置の違いと日本周辺域の高度場の変化との関係を検討した。<br> 1979年から2002年の24年間において,日本付近のOLRを指標に梅雨明けが明瞭な20年間の梅雨明け日を定めた。これらの年について,梅雨明け日前後のOLRの合成図を比較した結果,フィリピン付近と西部北太平洋で対流活動が活発化する年(WP型,2年),フィリピン付近で活発化する年(P型,7年),西部北太平洋で活発化する年(W型,5年),両地域で活発化が起こらない年(N型,6年)の4つの型があることがわかった。P, W, N型の梅雨明け時の高度場の変化を調査した結果,梅雨明けには① 熱帯からの定常ロスビー波および偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(P型),② 偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(N型),③ 太平洋高気圧の東への後退(W型),という3つの機構があることが明らかとなった。また,熱帯対流活動が活発化する領域の違いが梅雨明けの引き金となる熱帯からの定常ロスビー波の発生の有無に関係している可能性が示唆された。
著者
瀧本 家康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.209-216, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

神戸市の六甲山地中腹において,冷気流の気温低減効果を明らかにするために,2016年7~11月を対象として風と気温の観測を実施し,解析を行った.山地中腹では,15時以降,北寄りの風が定常的に吹き始めるとともに,気温が急激に4~5°C低下する.この北寄りの風は冷気流であり,その吹送時間は15~07時で,風速は約1~2 m/sである.神戸市街地で広域海風の卓越する時間帯に,六甲山地中腹では冷気流が発生し,神戸市街地と異なる局地循環が成立することが明らかになった.