2 0 0 0 OA 情動と行動

著者
上田 敬太
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.266-273, 2018-12-25 (Released:2019-01-09)
参考文献数
11

行動,特に目的志向型の行動においては,目的の設定の段階で情動が大きく影響する.一方で情動そのものの処理過程は,少なくとも情動の知覚,認知,内的反応,表出の段階に分けることが可能で,それぞれの段階で生じる障害が,結果として行動に影響を及ぼすことが想定される.主なものとして,内的反応の障害であるapathy,表出の段階の障害であるpathological crying and laughingなどが挙げられ,本稿ではそのような障害について定義,想定される機序などを解説した.
著者
田畑 阿美 谷向 仁 上田 敬太 山脇 理恵 村井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.227-234, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
13

今回, 脳腫瘍摘出術後に Bálint 症候群を呈し, 視線計測装置を用いた評価が患者と医療者の症状理解に有用であった症例を経験した。症例は, 40 代右利き男性で, 再発脳室内髄膜腫摘出術後に, 右同名半盲, 複視, Bálint 症候群, 視空間認知機能障害, 健忘を認めた。日常生活上の問題点として, 文字を読み飛ばす, 他者が指さした対象物を見つけられないなどの症状を認めた。そこで, 視線計測装置 Gazefinder を用いて, 視覚性課題遂行時の視線計測を実施した。その結果, 日常生活上の問題点の多くは, 視野障害に対する代償手段の未獲得に加えて, 固視点の動揺, 眼球運動速度および衝動性眼球運動の正確性の低下, 両側視空間内における注意のシフト困難が原因と考えられた。Bálint 症候群に対するリハビリテーションでは, 眼球運動や視覚性注意に対する介入に加えて, 患者自身が理解しやすい評価法を用いて疾病教育を行うことが重要であると考えられる。
著者
村井 俊哉 生方 志浦 上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.5-9, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
11

社会的行動障害は高次脳機能障害の主要 4 症候の 1 つであり, 依存性・感情コントロール低下, 対人技能拙劣, 固執性, 引きこもりなどの多彩な症状を含む。これらの社会生活上問題となる行動や症状は, 1. 脳損傷の直接の結果として理解可能な, 前頭葉の関与する社会的行動障害 (遂行機能障害・アパシー・脱抑制) , 2. 他の認知機能障害 (せん妄や健忘症候群) を基盤とした社会的行動障害, 3. 心理社会的要因の関与の大きい社会的行動障害に分けることができると考えられる。こうした背景を理解した上で, 社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるのか, 生活や訓練場面における文脈の調査に基づき評価を行う。リハビリテーションにおいては, 症例の生活で必要とされる具体的なスキルの獲得を目指すことが必要である。
著者
上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.283-290, 2015-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

社会認知障害は, 高次脳機能障害の定義の中で, 他の認知障害と並んで中心的な症状とされ, 近年改訂された DSM-5 の neurocognitive disorders の診断基準の中でも同様の扱いを受けている。社会認知障害を含めた認知機能の障害は, それぞれある一定の脳内基盤を持つと考えられ, 外傷性脳損傷でも, 損傷部位の特徴から, 出現する認知機能障害の特徴を理解しうると考えられる。本稿では, 外傷性脳損傷を局所脳損傷とびまん性軸索損傷の 2 型に分類した上で, それぞれの特徴的な脳損傷部位, およびそれを基盤として生じる認知機能障害について紹介した。特にアパシーについては, その定義, 神経基盤を含め詳述した。
著者
植野 仙経 上田 敬太 村井 俊哉
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3+4, pp.172-181, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
42

【要旨】1900年ごろ、Kraepelinはその『精神医学教科書』において人物に対する見当識の障害を含むさまざまな見当識障害を記述した。また見当識障害について、健忘やアパシー、認知機能の低下が関与するものと妄想性のものとを区別した。その後、精神医学において妄想性人物誤認の現象は既知性や親近感・疎遠感といった気分ないし感情の側面から考察されるようになった。また1930年前後にフランスの精神医学者が記述したカプグラ症候群とその類縁症状は、1980年前後に妄想性同定錯誤症候群としてまとめられ、神経心理学的なアプローチが盛んに行われるようになった。1990年、Ellisらは同定錯誤に関する鏡像仮説を提唱した。それによれば、相貌の認知には顕在的認知の経路(相貌の意識的な同定)と潜在的認知の経路(相貌に対する情動的応答)とがあり、前者が損なわれれば相貌失認、後者が損なわれればカプグラ症状が生じるという鏡像的な関係がこれらの症状にはある。この仮説は妄想性人物誤認において感情や情動に関わる異常が果たす役割を重視しているという点で、伝統的な精神医学と同様の観点に立っている。一方でKraepelinの見解が示唆するように、妄想的ではない人物誤認(人物に対する見当識障害)にはアパシーや健忘を背景として生じる場合が多い。
著者
上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.288-293, 2021-09-30 (Released:2022-07-04)
参考文献数
3
被引用文献数
1

厚生労働省の定める「高次脳機能障害」の定義の中の「社会的行動障害」とは, 原因を問わず社会的場面で生じる行動の障害全般を指す雑多な概念である。社会的行動障害を生じる主な 3 つの原因として, (1) 社会的認知そのものの障害, (2) 他の認知機能障害, (3) 心理社会的因子が挙げられ, 原因が何かによって対策は異なる。本発表では, 臨床で困る場面が多い「怒り情動の表出」に話題を絞り, どのような理由で「怒り情動の表出」が行われるのかを解説し, その対処法についても, 薬剤による治療や, そもそも怒り情動を生じる場面をいかに少なくするか, という観点から解説を行った。基本的考えとしては, 脳損傷者の生活がうまくいくことが大切であり, それを支援するという視点での対処が重要であることを解説した。
著者
今橋 久美子 深津 玲子 武澤 信夫 辻野 精一 島田 司巳 上田 敬太 小泉 英貴 小西川 梨紗 川上 寿一 森本 茂 河地 睦美 納谷 敦夫 中島 八十一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.459-465, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
21

本研究では, 脳損傷後に高次脳機能障害と診断された人のうち, 社会的行動障害を主訴とする相談事例 86 名 (在宅生活者 70 名, 施設利用者 15 名, 不明 1 名) について, 臨床背景因子と神経心理学的評価 (Wechsler Adult Intelligence Scale-Third edition : WAIS-III および Neuropsychiatric Inventory : NPI) を分析した。その結果, 対象者の半数に認知機能の低下がみられたことから, 行動の背景にある認知機能を評価し, 適切にアプローチすることの重要性が示唆された。さらに, 問題となる症状とNPI を説明変数, 転帰 (在宅か施設か) を目的変数として判別分析を行った結果, 標準化判別係数は, 「夜間行動」「ギャンブル」「拒食」「多飲・多食」「脱抑制」の順で高いことが示され, 施設利用者のほうがそれらを呈する人の割合が高かった。正準相関係数は 0.694 (Wilksʼλ=0.52, P <0.001) であり, 判別に対して有意な有効性が確認された。交差確認後の判別的中率は 90.2 %であった。
著者
西田 野百合 草野 佑介 山脇 理恵 梅田 雄嗣 荒川 芳輝 田畑 阿美 小川 裕也 宮城 崇史 池口 良輔 松田 秀一 上田 敬太
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.24-29, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
14

協調運動障害は小児髄芽腫治療後の主要な晩期合併症の一つであるが,学校生活への適応や社会参加の制約につながる可能性があるにも関わらず,標準化された検査法で評価し,適応行動やHealth-Related Quality of Life(健康関連QOL:HRQOL)への影響を詳細に検討した報告はない.本研究では手術,放射線治療,化学療法による治療終了後2年以上経過した髄芽腫男児患者2例を対象に,協調運動障害はThe Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition (BOT-2),適応行動やHRQOLについては半構造化面接や質問紙を用いて評価し,その影響について検討した.2症例ともに,四肢の協調性やバランス能力,巧緻運動速度が低下していた.適応行動は外出,友人との交流,粗大運動に関わる項目が低下し,HRQOLは運動やバランスに関する項目が低下していた.好発部位が小脳である髄芽腫生存者においては,協調運動障害が出現する可能性は高いと考えられる.髄芽腫患者の適応行動やHRQOLの改善および社会参加の拡大のためには,協調運動障害に対する標準化された検査法による評価と継続的なリハビリテーション介入,ライフステージに合わせた合理的配慮が重要である可能性が示唆された.
著者
上田 敬太
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

外傷性脳損傷の内、局所脳損傷特に前頭葉眼窩面損傷では、社会認知に影響を与える他者の情動表情認知に障害があることが明らかになった。また、びまん性軸索損傷においては、白質・灰白質ともに体積の減少を生じやすい脳部位が明らかとなった。白質では主に脳梁の膨大部、灰白質では前部帯状回や視床などの中心構造に加え、島皮質の体積減少が認められた。一方で、認知機能障害の特徴としては、びまん性軸索損傷では、局所脳損傷群と比較して、トレイル・メイキング・テストやウェクスラー成人知能検査における処理速度で有意な低下を認めた。アパシーなどの精神症状で両群に有意差は認めなかった。