著者
永見 慎輔 福永 真哉 戸田 淳氏
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.134-141, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
26

現在,誤嚥性肺炎は我が国における重要な社会問題であり,その多くの罹患者が高齢者とされている.摂食嚥下障害を発症した際には,速やかに摂食嚥下リハビリテーションを開始する必要があり,国際的に様々な方法論と手法が選択されている.しかし,その方法論は国際的に明確なコンセンサスが得られておらず,より戦略的な摂食嚥下リハビリテーションが展開される必要がある.近年,医療機器の導入や従来の方法を改良することにより,多彩なアプローチが行われるようになっている.今後は,引き続き様々な摂食嚥下訓練の方法について検証を行い,より適切な選択が可能になるように常に最新の知見を入手する必要がある.しかし,方法論は経口摂取を行うための手段であり,介入の目的は対象者のQOL に寄与することである.戦略的に摂食嚥下リハビリテーションに取り組むことによって,より質の高い介入を実現することが重要である.
著者
横関 彩佳 森田 倫正 小浜 尚也 永見 慎輔 福永 真哉
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.173-179, 2022-12-31 (Released:2023-04-30)
参考文献数
26

【目的】高齢者の嚥下障害の有無は誤嚥性肺炎と密接に関連し,その発症リスクを増加させることが指摘されている.そのため,早期から嚥下機能の評価や対応を行うことが望ましい.当院では,嚥下障害が疑われた症例に対し,主に嚥下内視鏡検査(VE)を用いて評価を行っている.VE 検査は簡便に実施することができ,質の高い評価が可能であるものの,本邦ではVE 検査所見から誤嚥性肺炎発症との関連因子を検討した報告は少なく,十分な研究が行われていない.そこで本研究では,臨床現場でしばしば遭遇する高齢者の誤嚥性肺炎に焦点をあて,VE 検査所見から嚥下動態を解析することで,誤嚥性肺炎の発症に関連する因子を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】当院にて嚥下障害が疑われVE 検査を受けた65 歳以上の高齢者254 例を対象とし,1 カ月以内に誤嚥性肺炎発症の既往がある群(54 例)と非発症群(200 例)で,VE 検査における嚥下動態について統計学的に比較検定を行い,関連性を検討した.加えて,検査時の姿勢,藤島の摂食嚥下能力グレード(FILS),栄養状態について統計学的に比較検討を行った.【結果】誤嚥性肺炎既往群と非既往群の群間比較では,男性,高年齢,神経変性疾患の有無,検査時の姿勢,FILS で有意差を認めた(p<0.05).VE 検査所見では,声門閉鎖の程度,梨状陥凹唾液貯留,早期咽頭流入,水分の梨状陥凹残留で有意差を認めた(p<0.05).誤嚥性肺炎の既往の有無を目的変数,2 群間の比較で有意差を認めたVE 検査項目を説明変数としたロジスティック回帰分析では,早期咽頭流入が抽出された.【結論】本研究の結果,誤嚥性肺炎の既往がある高齢者のVE検査所見から,誤嚥性肺炎の既往に関連する因子として早期咽頭流入に着目する必要があると考えられた.
著者
藤本 憲正 中村 光 福永 真哉 京林 由季子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.201-207, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
18

比喩文の理解課題を作成し,健常高齢者(統制群),コミュニケーション障害を認めない右半球損傷者(右なし群),それを認める右半球損傷者(右あり群),左半球損傷の失語症者(失語群),それぞれ15名に実施した.比喩文は一般的になじみの低い直喩文30題とし(例:道は,血管のようだ),検者がそれを読み上げた後,その意味に最も合う文を4つの選択肢から選ぶよう求めた.さらに同じ比喩の口頭説明課題とトークンテスト(TT)を実施した.結果は,統制群と比較し,右なし群では比喩理解課題,TTともに同等の得点であり,右あり群では特に比喩理解課題で有意な低下を示し,失語群では比喩理解課題,TTともに有意な低下を示した.比喩理解課題と比喩説明課題の得点には有意な相関関係が認められた.右半球損傷における比喩理解障害を議論する際は,コミュニケーション障害の有無を考慮する必要があると考えた.
著者
福永 真哉 矢野 実郎 戸田 淳氏 池野 雅裕 原山 秋 永見 慎輔
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.519-524, 2021

現在,介護保険において算定が認められている認知症短期集中リハビリテーションによって,老人保健施設における認知症高齢者の認知機能や意欲,行動・心理症状の改善が報告されている.しかし, 認知症高齢者では同時に摂食嚥下障害を有している高齢者も少なくない.本研究では,認知症短期集中リハビリテーションが,認知症高齢者の認知機能,意欲に加え,摂食嚥下機能に与える影響とその要因を検討した.対象は,老人保健施設において経口摂取を行っている認知症高齢者27名であった.方法としては,約3ヵ月間の認知症短期集中リハビリテーションによる介入を行い,その介入前後で,認知機能のスクリーニング検査である Mini Mental State Examination,HDS-R,前頭葉機能の指標として Frontal Assessment Battery,注意機能の指標として Trail Making Test Part-A,意欲の指標として,やる気スコアならびに Vitality Index と,摂食嚥下機能は,反復唾液嚥下テスト,舌圧の測定,/pa/,/ta/,/ka/ の言語性交互反復運動能力の測定,ならびに Food Intake LEVEL Scale での摂食嚥下状態の判定を実施し変化を検討した.その結果,介入前後で,認知機能は注意機能の Trail Making Test を除き有意な変化は認められなかった.しかし,摂食嚥下機能は/ka/ の交互反復を除き,有意な変化が認められた.老人保健施設入所の認知症高齢者に認知症短期集中リハビリテーションを 実施したところ,注意機能と摂食嚥下機能が改善した.この摂食嚥下機能の改善は,注意機能の改善によって,2次的に随意的な摂食嚥下動作の改善や,全般的な摂食嚥下能力の改善につながった可能性が示唆された.
著者
八田 徳高 福永 真哉 太田 富雄
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.449-455, 2018

標準純音聴力検査の結果は正常であるが,日常生活,特に職場での聞こえの困難さを訴える成人2例に対して,聴覚情報処理に関する検査を実施し,聞こえの困難さについて分析を行った.また,聞こえの問題と同時に注意や記憶など他の背景要因の関連についても検討するために神経心理学的検査を実施した.その結果,2名とも聴覚情報処理に関する問題をもっていることが明らかになった.1名は,神経心理学的検査の結果では成績の低下はなく,聴覚情報処理障害の可能性が考えられた.もう一方の症例は,記憶及び注意に関する検査においても成績の低下がみられたことから,他の要因からくる聞こえの困難さが疑われる結果となった.このことから聴覚情報処理機能の評価では,神経心理学的検査を実施し,その背景にある要因について検証することの重要性を確認することができた.
著者
福永 真哉 服部 文忠 田川 皓一 生方 志浦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.96-101, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

純粋失読の読字障害は,漢字と仮名の両方にみられるとされているが,一方が強く障害されて乖離するという報告もあり,いまだ一定の結論が出ているとは言いがたい。また,漢字と仮名のなぞり読みにおける乖離について,漢字の条件を統制し,仮名と比較した検討はこれまで行われていない。我々は,左後頭葉から脳梁にかけての損傷で,純粋失読を呈した一症例を経験した。本症例は,標準的な失語症検査において,仮名の読みが漢字の読みに比して良好であった。しかし,漢字の条件を統制して比較を行ったところ,音読,なぞり読みともに,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と仮名との間では有意差を認めなかったが,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字の間では有意差が認められた。また,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字においては,なぞり読みが有効な傾向にあった。本症例において,漢字の読字過程は複雑さ,親密度,頻度によって,異なっている可能性が考えられた。
著者
藤本 憲正 中村 光 福永 真哉 京林 由季子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.201-207, 2016

比喩文の理解課題を作成し,健常高齢者(統制群),コミュニケーション障害を認めない右半球損傷者(右なし群),それを認める右半球損傷者(右あり群),左半球損傷の失語症者(失語群),それぞれ15名に実施した.比喩文は一般的になじみの低い直喩文30題とし(例:道は,血管のようだ),検者がそれを読み上げた後,その意味に最も合う文を4つの選択肢から選ぶよう求めた.さらに同じ比喩の口頭説明課題とトークンテスト(TT)を実施した.結果は,統制群と比較し,右なし群では比喩理解課題,TTともに同等の得点であり,右あり群では特に比喩理解課題で有意な低下を示し,失語群では比喩理解課題,TTともに有意な低下を示した.比喩理解課題と比喩説明課題の得点には有意な相関関係が認められた.右半球損傷における比喩理解障害を議論する際は,コミュニケーション障害の有無を考慮する必要があると考えた.