著者
藤原 広臨 上床 輝久 内藤 知佐子 小西 靖彦 上本 伸二 村井 俊哉 伊藤 和史
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.46-51, 2017-03-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
15

近年,特に若年者においてうつ病が多様化し,医学教育の現場でも対応困難な場面を体験することは多い.本稿では,「ゆとり世代」の特徴も踏まえたうえで若者のうつ病について概説し,医学生・研修医のメンタル面での初期対応に資する情報を提供する.
著者
村井 俊哉 生方 志浦
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.164-170, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
11

【要旨】脳損傷後には、依存性、感情コントロール低下、対人技能拙劣、固執性、引きこもりなど、社会的場面における行動に様々な問題が生じてくる。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが、その損傷の直接の結果として生じる行動障害は、アパシー、脱抑制、遂行機能障害という3つの症候群として考えることが可能である。アパシーは内側前頭前皮質、脱抑制は眼窩前頭皮質、遂行機能障害は背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張も見られるが、実際には病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。個々の症例における評価と対応においては、実生活の中で問題となる社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるかを分析し、必要とされる具体的な能力の獲得を目指すことが必要である。
著者
船曳 康子 村井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.175-184, 2017 (Released:2017-07-04)
参考文献数
14
被引用文献数
3

目的:ASEBA(Achenbach System of Empirically Based Assessment)の原本に従い,CBCL(Child Behavior Checklist)/6-18の行動チェックリストについて,日本語版による標準値作成を試みた。方法:参加者3,601人を,男児・6-11歳群(924人),男児・12-18歳群(849人),女児・6-11歳群(880人)および女児・12-18歳群(948人)の4グループに分けて,素点をもとに「不安/抑うつ」,「引きこもり/抑うつ」,「身体愁訴」,「社会性の問題」,「思考の問題」,「注意の問題」,「規則違反的行動」,「攻撃的行動」の症状群尺度,内向尺度,外向尺度および全問題尺度のT得点を算出した。信頼性と妥当性は,Cronbachのα係数,尺度間相関とASSQ(The high-functioning Autism Spectrum Screening Questionnaire)との基準関連妥当性を検討した。8症状群への性および年齢群の影響を重回帰分析を用いて検討した。結果および考察:α係数は良好で,尺度間の相互相関は全て有意であり,ASSQとも正の有意な相関を示して,尺度としての妥当性に問題は認めなかった。また,重回帰分析の結果からは,男児は「注意の問題」と「規則違反的行動」において問題を生じ,女児は「不安/抑うつ」と「身体愁訴」に問題を生じる傾向があった。年齢では,低年齢群が「不安/抑うつ」,「社会性の問題」,「思考の問題」,「注意の問題」,「規則違反的行動」および「攻撃的行動」に問題を生じており,高年齢群は特に「引きこもり/抑うつ」に問題を生じる傾向があった。
著者
堀内 由樹子 坂元 章 秋山 久美子 寺本 水羽 河本 泰信 松本 正生 村井 俊哉 佐々木 輝美 渋谷 明子 篠原 菊紀
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-11, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
31

本研究では,ゲーム障害尺度であるIGDT-10 (Király et al. 2017, 2019)に基づいて,子どもから大人まで適用できる日本語版の尺度を作成した.IGDT-10の著者の協力のもと,原文の項目文をより平易な日本語の文章に変更することを行った.作成した尺度について,小中学生を対象とした学校での一斉回収による郵送調査(N=1006),高校生を対象としたウェブ調査(N=219),18–79歳の大人を対象としたウェブ調査(N=1308)の3つの調査により,信頼性及び妥当性の検討を行った.対象者は,年間でのゲーム利用者及び過去にゲーム利用をしたことがある経験者であった.結果として,クロンバックのα係数が3つの調査のいずれでも0.8を超えており,本尺度は信頼性があることが示された.また,確認的因子分析及び外的基準となる尺度及び変数との相関の結果から,因子的妥当性及び基準関連妥当性があることが示された.
著者
村井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.18-25, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

脳損傷後には,依存性,感情コントロール低下,対人技能拙劣,固執性,引きこもり,など,社会的場面・対人場面での行動にさまざまな問題が生じてくる。これらの問題は,脳損傷に伴う身体障害や社会的困難に対する心理的反応などとして理解できる場合もあるが,脳損傷の直接の結果として理解するほうが妥当と考えられる場合もある。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが,その損傷によって生じる行動障害は,アパシー,脱抑制,遂行機能障害という3 つの軸で大別することも可能である。この 3 症候群が内側前頭前皮質,眼窩前頭皮質,背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張もみられるが,病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。社会的行動障害の基盤となる情報処理の障害が何であるのかは十分には明らかにされていないが,たとえばアパシーについては,目標へと方向づけられた行動(goal-directed behavior)の量的減少として理解できるのではないかとの考えが提案されている。
著者
川崎 真弘 米田 英嗣 村井 俊哉 船曳 康子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.33, 2014 (Released:2014-10-05)

発達障害児に見られる「逆さバイバイ」のように、視点と身体表象の重ね合わせはコミュニケーション時の発達障害の一つとして重要な未解決問題である。本研究では、視点と身体表象の重ね合わせを健常者と発達障害者で比較し、発達障害の方略の違いを調べた。PCディスプレイ上に呈示された人の両手のうち一方がタッピング動作をし、被験者はその動作と同じ手でタッピングをすることが要求された。方略の聞き取り調査より、定型発達者の多くが視点取得の方略を取るのに対して、発達障害群の多くは逆に心的回転の方略をとった。その方略の違いは発達障害のスケールと有意に相関した。また発達障害者は定型発達者とは異なり、自分がとった方略と異なる方略を強制されると有意にパフォーマンスが悪化した。今後の課題として同時に計測した脳波・光トポグラフィの結果を合わせて発達障害の方略の違いに起因する脳ネットワークを明らかにすることを目指す。
著者
田畑 阿美 谷向 仁 上田 敬太 山脇 理恵 村井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.227-234, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
13

今回, 脳腫瘍摘出術後に Bálint 症候群を呈し, 視線計測装置を用いた評価が患者と医療者の症状理解に有用であった症例を経験した。症例は, 40 代右利き男性で, 再発脳室内髄膜腫摘出術後に, 右同名半盲, 複視, Bálint 症候群, 視空間認知機能障害, 健忘を認めた。日常生活上の問題点として, 文字を読み飛ばす, 他者が指さした対象物を見つけられないなどの症状を認めた。そこで, 視線計測装置 Gazefinder を用いて, 視覚性課題遂行時の視線計測を実施した。その結果, 日常生活上の問題点の多くは, 視野障害に対する代償手段の未獲得に加えて, 固視点の動揺, 眼球運動速度および衝動性眼球運動の正確性の低下, 両側視空間内における注意のシフト困難が原因と考えられた。Bálint 症候群に対するリハビリテーションでは, 眼球運動や視覚性注意に対する介入に加えて, 患者自身が理解しやすい評価法を用いて疾病教育を行うことが重要であると考えられる。
著者
村井 俊哉 生方 志浦 上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.5-9, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
11

社会的行動障害は高次脳機能障害の主要 4 症候の 1 つであり, 依存性・感情コントロール低下, 対人技能拙劣, 固執性, 引きこもりなどの多彩な症状を含む。これらの社会生活上問題となる行動や症状は, 1. 脳損傷の直接の結果として理解可能な, 前頭葉の関与する社会的行動障害 (遂行機能障害・アパシー・脱抑制) , 2. 他の認知機能障害 (せん妄や健忘症候群) を基盤とした社会的行動障害, 3. 心理社会的要因の関与の大きい社会的行動障害に分けることができると考えられる。こうした背景を理解した上で, 社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるのか, 生活や訓練場面における文脈の調査に基づき評価を行う。リハビリテーションにおいては, 症例の生活で必要とされる具体的なスキルの獲得を目指すことが必要である。
著者
村井 俊哉 後藤 励 野間 俊一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

病的賭博に代表されるなんらかの行為の対する依存は「プロセス依存」と呼ばれ、物質への依存症と共通する病態機構を持つのではないかと推測されている。プロセス依存の基盤となる認知過程・脳内過程の解明を目的とし、病的賭博群に対して、報酬予測や意思決定課題を用いた機能的神経画像研究を実施した。結果、病的賭博群において報酬予測時における報酬系関連脳領域の神経活動の低下を認め、さらにその賦活の程度と罹病期間の関連が見出され、同神経活動が病的賭博の臨床指標になりうる可能性が示唆された。
著者
小西 行郎 秦 利之 日下 隆 諸隈 誠一 松石 豊次郎 船曳 康子 三池 輝久 小西 郁生 村井 俊哉 最上 晴太 山下 裕史朗 小西 行彦 金西 賢治 花岡 有為子 田島 世貴 松田 佳尚 高野 裕治 中井 昭夫 豊浦 麻記子
出版者
同志社大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

発達障害とりわけ自閉症スペクトラム障害(以下ASDと略す)について、運動、睡眠、心拍、内分泌機能、体温などの生体機能リズムの異常を胎児期から学童期まで測定し、ASDにはこうした生体機能リズムの異常が症状発生の前、胎児期からでも見られることを発見した。それによって社会性の障害というASDの概念を打ち破り、生体機能リズムの異常としてのASDという新しい概念を得ることができた。この研究を通して、いくつかのバイオマーカを選択することが可能になり、科学的で包括的な診断方法を構築すると共に、障害発症前に予防する先制医療へ向けて展望が開けてきた。
著者
植野 仙経 上田 敬太 村井 俊哉
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3+4, pp.172-181, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
42

【要旨】1900年ごろ、Kraepelinはその『精神医学教科書』において人物に対する見当識の障害を含むさまざまな見当識障害を記述した。また見当識障害について、健忘やアパシー、認知機能の低下が関与するものと妄想性のものとを区別した。その後、精神医学において妄想性人物誤認の現象は既知性や親近感・疎遠感といった気分ないし感情の側面から考察されるようになった。また1930年前後にフランスの精神医学者が記述したカプグラ症候群とその類縁症状は、1980年前後に妄想性同定錯誤症候群としてまとめられ、神経心理学的なアプローチが盛んに行われるようになった。1990年、Ellisらは同定錯誤に関する鏡像仮説を提唱した。それによれば、相貌の認知には顕在的認知の経路(相貌の意識的な同定)と潜在的認知の経路(相貌に対する情動的応答)とがあり、前者が損なわれれば相貌失認、後者が損なわれればカプグラ症状が生じるという鏡像的な関係がこれらの症状にはある。この仮説は妄想性人物誤認において感情や情動に関わる異常が果たす役割を重視しているという点で、伝統的な精神医学と同様の観点に立っている。一方でKraepelinの見解が示唆するように、妄想的ではない人物誤認(人物に対する見当識障害)にはアパシーや健忘を背景として生じる場合が多い。
著者
川島 啓嗣 諏訪 太朗 村井 俊哉 吉岡 隆一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.168-174, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
24

電気けいれん療法の刺激を構成する個々のパラメータは,それぞれ固有の神経生物学的効果を有し,有効性や認知機能障害に大きく影響するが,本邦においてそれらのパラメータについて十分な注意が払われているとは言い難い。本稿ではパルス波治療器で調節可能なパラメータである刺激時間,パルス周波数,パルス幅に焦点を当ててこれまでの議論を概観し,刺激時間が長いこと,周波数が低いこと,そしてパルス幅が短いことが効率的な発作誘発に有利であることを確認した。最後にパルス波治療器の最大出力で適切な発作が誘発できない場合に,刺激パラメータ調節が有効な場合があることを特にパルス幅に注目して論じ,その理論的な手がかりについて考察した。
著者
村井 俊哉
出版者
日本リハビリテーション医学会
巻号頁・発行日
pp.46-51, 2018-01-18

高次脳機能障害とは,社会的行動障害とは 高次脳機能障害とは,もともと精神科,神経内科,脳神経外科などで医学的病名として用いられていた脳梗塞後遺症,頭部外傷後遺症,器質性精神障害などにまたがるわが国特有の行政用語である.行政用語としての「高次脳機能障害」という名前が作られた背景には,脳梗塞や頭部外傷,脳腫瘍などさまざまな疾患により生じる後遺症が,これらさまざまな診療科の狭間にあり,どの科でも十分な診療や支援が受けられないという状況があった. 2001年度に開始された高次脳機能障害支援モデル事業において,脳損傷患者のデータの分析が行われた結果,脳損傷後の後遺障害の中でも,特に記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害に着目し,これらの障害を示す一群を,「高次脳機能障害」と呼ぶことが定められた.高次脳機能障害の4症状領域のうち,記憶障害,注意障害,遂行機能障害は「認知」の障害とみなすことができるが,そこに分類できないようなさまざまな「行動」の障害はすべて「社会的行動障害」に含まれている.「高次脳機能障害者支援の手引き」では,社会的行動障害として,意欲・発動性の低下,情動コントロールの障害,対人関係の障害,依存的行動,固執が列挙され,訓練プログラムの章では,抑うつ,感情失禁,引きこもり,被害妄想,徘徊もそこに加えられている1).同じ高次脳機能障害として並列に挙げられてはいるものの,記憶障害・注意障害・遂行機能障害と社会的行動障害はその概念的な基盤が異なる.すなわち,記憶障害・注意障害・遂行機能障害は特定の情報処理過程の障害として定義され,脳の特定のネットワークの損傷がその神経基盤として想定されている.一方で,社会的行動障害は特定の脳領域が障害されると起こるという,脳との明確な対応関係があるものではなく,さまざまな問題行動の総称として用いられる.すなわち,概念を規定する背景理論が希薄なのである.このことが社会的行動障害を神経心理学的に理解することを難しくしており,高次脳機能障害を専門とする臨床家の中でも社会的行動障害に苦手意識をもつ者が多い原因となっているのである.しかし,社会的行動障害は,高次脳機能障害に伴うそれ以外の主要症状以上に脳損傷患者および介護者の生活に多大な困難をもたらすことが多く,高次脳機能障害の臨床を行ううえで社会的行動障害は避けて通ることはできない.