著者
杉橋 陽一 長木 誠司 川中子 義勝 石光 泰夫 一條 麻美子 田中 純 中村 健之介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究からは芸術のメディア的戦略をめぐり、次のような成果が得られた。1.中世から近世への歴史的展開のなかで、文学や神学が印刷術などによるコミュニケーション上の組織化を通じて社会層や価値共同体の形成に寄与した実態が、実証的に究明された。2.身体表現を中心に複数の芸術が総合されて実現されたマルチ・メディア的な芸術の新しい情報伝達手法が、オペラやバレエ作品の実例に即し、歴史的に分析された。3.文学や文字メディアにおける俗語革命や出版の資本主義とその他のメディアによる情報流通のシステムの相互作用が、市民社会的共同体形成途上にあった近代のドイツにおける事例、および明治以降の近代日本における事例を相互比較しながら分析された。4.建築や音楽の言語性と象徴性が20世紀にかけて生じた機能性の増大と形態の抽象化等々の変動のなかで獲得した新たな意味論を、シェーンベルク以降の音楽および現代建築を対象として考究した。5.近代的な「イメージ」の成立機制を、19世紀に発明された写真というメディアをめぐる言説分析を通じて考察し、写真的<メディア戦略>のパラダイムの所在を追跡した。6.マクルーハン以降、現在のドゥブレによるメディオロジーやキットラーのメディア理論の批判的検討を行い、その理論的可能性を現代の舞踊・音楽などの芸術的実践の分析を通じて探究した。7.メディア・アートの領域において、芸術家同士、あるいは技術メディア自体のインタラクティヴな活動がはらむ新たな芸術形態の可能性を、現在の多様な創作状況に即して検証した。