- 著者
-
田島 知之
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
- 巻号頁・発行日
- pp.66, 2014 (Released:2014-08-28)
オランウータンの雄には、二次性徴が発達した大型のフランジ雄と、未発達で小型だが生殖能力のあるアンフランジ雄の2形態が存在し、それぞれ異なる繁殖行動をとると考えられている。群れをつくらないオランウータンの生活様式において、アンフランジ雄は、フランジ雄が雌と近接していない間に交尾を試みていると考えられる。本研究では、行動観察からアンフランジ雄の交尾成功について調べるとともに、DNA分析を用いてそれが実際に繁殖成功に結びつくかどうかについて調べた。2010年から2012年にかけて、マレーシア・サバ州セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター周辺の森林内において、自由生活下のボルネオオランウータンの雄4頭(フランジ雄1頭、アンフランジ雄3頭)と、受胎可能な経産雌3頭を対象として個体追跡法による行動観察を1331時間おこなった。並行して、調査地で生まれた子ども8頭を含む28頭からDNA試料を採取し、12領域のマイクロサテライトマーカーを用いて父子判定をおこなった。フランジ雄は受胎可能な経産雌と最も長い時間近接していたが、3頭のアンフランジ雄も経産雌との交尾に成功していた。アンフランジ雄は未経産雌とも交尾していたが、フランジ雄では観察されなかった。受胎当時に調査地周辺に存在していた全てのアンフランジ雄の試料が採取できた7頭の子のうち、未経産雌による初産の子は1頭であり、アンフランジ雄が父親となったのはその1頭のみであった。フランジ雄が経産雌との間で高い繁殖成功を収めた一方で、アンフランジ雄はフランジ雄が不在の間に経産雌に対して交尾を試みるだけでなく、受胎可能性は低いと考えられるが未経産雌を交尾相手とすることでフランジ雄との競合を避け、繁殖成功を得ていることが示唆される。