- 著者
-
河野 健一
森山 善文
矢部 広樹
西田 裕介
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1464, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】糖尿病性腎症は透析導入の原因疾患として最も多く,それに廃用性,加齢性変化も加わるため,透析導入時点で身体機能が低下している者も少なくない。加えて,経年的な透析治療は,異所性石灰化による関節可動域制限や関節痛,慢性的な低蛋白血症や骨格筋機能の低下,身体活動量の低下を引き起こす。当該患者は,急性疾患等への罹患を契機に身体機能や運動能力が低下し要介護状態に陥りやすく,健康寿命の喪失に至る。これは,透析医療に関する医療費以外の社会保障費を増大させ,また,患者やその家族の生活の質を低下させるという点において重大な問題である。透析患者に対する運動指導を中心とした理学療法は,糖尿病等の予防的管理だけでなく,経年変化として運動能力の低下を防ぎ,健康寿命を延伸することにも重要な意義を持つ。そこで,本研究の目的は,一定期間内に運動能力の低下する危険性の高い透析患者を把握すべく,評価指標とその基準値を明らかにすることとした。【方法】対象は,初期評価時に歩行ならびに日常生活が自立した維持血液透析患者180例とした。患者背景因子(年齢,性別,糖尿病やその他合併症の有無,透析歴,透析管理状況),栄養状態(geriatric nutritional risk index,GNRI),炎症状態(c-reactive protein,CRP),身体機能(握力,除脂肪量),運動能力(歩行速度,歩行周期変動係数,short physical performance battery,SPPB)を初期と1年後の2回評価した。1年後にSPPBの得点が3点以上低下した状態を運動能力低下と定義し,運動能力低下を従属変数,その他評価指標を独立変数とし,単変量解析,多重ロジスティック回帰分析を実施した。また,独立した関連因子に対してROC解析を行いカットオフ値,感度,特異度を算出した。【結果】歩行速度が運動能力低下の独立した危険因子であった(OR=0.168,95%CI=0.037~0.762)。また,そのカットオフ値は0.84m/sec(感度0.71,特異度0.68,曲線下面積0.68)であり,0.84m/sec以下の歩行速度の患者は,そうでない患者と比較し,1年後に運動能力が低下する危険性が5.38倍高く(OR=5.381,95%CI=2.058~14.073,p=0.001),年齢,性別,透析期間,糖尿病の有無,栄養状態,炎症状態にて補正後も同様の結果が得られた。【結論】歩行速度の遅い透析患者ほど,1年間という比較的短い期間において運動能力が低下する危険性が高いことが明らかとなった。基準値として0.84m/secを参考とし,これを下回る患者に対して,運動指導を中心とした理学療法の必要性が示唆された。