著者
神谷 香一郎
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.9-14, 2004-01-23 (Released:2010-09-09)
参考文献数
29

β遮断薬が心不全患者の予後を改善することは, 大規模臨床試験で明らかにされている.β遮断薬の作用は多岐にわたっており, 心肥大, 線維化, アポトーシス, 酸化ストレス, レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系などを介して心臓リモデリングを抑制するほかに, 抗不整脈作用も関与すると考えられるがその詳細は明らかでない, β遮断薬の抗不整脈作用は, 当然のことながらその発生機序にβ受容体刺激が関与する不整脈に対して発揮される, β1受容体刺激は, アデニルシクラーゼ・サイクリックAMP系そしてプロテインキナーゼAを活性化する.その結果, Ca2+チヤネルのみならず, IKsチヤネルそしてIfチャネルなど多くのイオンチャネルをリン酸化してこれらのチャネルを介する電流を増加させる.Ca2+電流の増大は房室結節やプルキンエ線維の自動能を亢進し, 心房や心室で遅延および早期後脱分極をもたらす.自動能の亢進にはIf電流の増大も関与するとされている.β遮断薬はこれらの自動能亢進の責任イオン電流を正常化することにより抗不整脈作用を示す.リエントリー性不整脈に対しても, 房室結節と副伝導路を含む大きなリエントリー回路などの場合には抗不整脈作用を示す.またQT延長も認められることからIII群抗不整脈薬作用も期待される.特にカルベジロールは, β遮断薬としての上記クラス作用のほかに直接的にイオンチヤネルを抑制する可能性がある.本稿では, 心不全や不整脈に対するβ遮断薬の薬効について, β遮断薬に共通するクラス作用, そしてカルベジロール固有のイオンチャネルへの急性・慢性作用, に分けて述べる.
著者
山口 喬弘 荒船 龍彦 佐久間 一郎 大内 克洋 柴田 仁太郎 本荘 晴朗 神谷 香一郎 児玉 逸雄
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.43-49, 2005

In heart failure, QT interval and action potential duration (APD) is prolonged and <i>I</i><sub>Ks</sub>, a slow component of delayed rectifier potassium current, decreases. We have reported that the KCNE1 gene, coding <i>I</i><sub>Ks</sub> channel, increases and QT interval is prolonged in patients with heart failure. Since it is known that increasing KCNE1 increases the maximum conductance of the <i>I</i><sub>Ks</sub> channel, the mechanism of APD prolongation is not explained by the over expression of KCNE1. In this study, we construct a cardiac membrane action potential simulation model based on the experimental data from oocytes expression to investigate the relationship between the increase of KCNE1 and APD. In the experiment of oocyte expression, 1 ng and 5 ng of KCNE1 were co-injected with 5 ng of KCNQ1. Expressed currents were recorded 1-2 days after injection by the double-microelectrode voltage clamp method at 35 degrees centigrade. Maximum <i>I</i><sub>Ks</sub> conductance and relationships between time constants, maximum activation parameter and membrane potential were obtained from fitting functions describing <i>I</i><sub>Ks</sub> channel properties in the Luo-Rudy model to experimental results with the Nelder-Mead simplex method. In simulations, APD was prolonged by increasing the co-injected amount of KCNE1. APD at 5 ng KCNE1 was 183 ms, which is 3.4% longer than that at 1 ng KCNE1 (APD=177 ms). This study shows that increasing the KCNE1 expression level makes maximum <i>I</i><sub>Ks</sub> conductance increase and <i>I</i><sub>Ks</sub> channel open slowly and <i>I</i><sub>Ks</sub> conductance decrease according to the APD time scale. Therefore increasing the KCNE1 expression level may prolong APD with this mechanism. This method of constructing a simulation model based on experiments helps to explain the relationship between KCNE1 expression ratio and QT interval prolongation.
著者
神谷 香一郎
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.337-343, 2010 (Released:2011-03-04)
参考文献数
19

不整脈薬物治療に関する注目すべき最近の話題は,我が国でもアミオダロン静注薬が承認され(2007年),経口投与と静脈内投与双方の使用が可能になったことである.日本循環器学会による「不整脈薬物治療ガイドライン(2009年改訂版)」においても,心室頻拍・細動などの重症心室不整脈に使用すべき薬剤として,アミオダロンが高い優先順位で記載されている.アミオダロンの心臓薬理作用の特徴は,多彩な分子標的を持つこと,および急性作用と長期作用が異なることである.静脈内投与では急性作用が中心で,電位依存性チャネルとしてはNa+チャネル,L型Ca2+チャネル,および遅延整流K+チャネル(特にIKr)の遮断が重要である.ウサギ灌流心を用いた光学マッピング実験では,心室に誘発した渦巻き型の旋回興奮(スパイラル・リエントリー)に対して,アミオダロンがリエントリーの機能的ブロックラインを延長させて旋回速度を遅くするとともに旋回中心のドリフトをもたらし,心室頻拍の早期停止を促すことが判明した.このようなスパイラルダイナミクスの変化は,アミオダロン急性作用のうちのNa+チャネル遮断とIKrチャネル遮断の複合効果によると考えられる.
著者
本荘 晴朗 神谷 香一郎 佐久間 一郎 児玉 逸雄 山崎 正俊 荒船 龍彦
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

多階層生物現象である心臓興奮伝播を高分解能光学マッピングを用いて定量的に解析し、そのダイナミクスが心筋イオンチャネル機能と細胞間電気結合および組織構築の相互作用により規定されることを示した。また、旋回性興奮(スパイラル・リエントリー)では興奮波の形状が興奮伝播を規定する重要な要因であることが明らかにした。スパイラル・リエントリーは細動や頻拍など頻脈性不整脈の基本メカニズムであり、旋回中心の不安定化が細動や頻拍の停止を促す不整脈治療戦略となることが示された。