著者
福島 宏器
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.301-321, 2018 (Released:2020-01-18)
参考文献数
136
被引用文献数
4

Adequately recognizing one’s own emotion is an important ability for a healthy emotional life and appropriate behavior. This review article features interoception—the sensation of the internal and physiological bodily state—as a crucial factor in emotional experience. This review discusses a possible mechanism of emotion recognition through interoception, arguing several conditions for a healthy or unhealthy relationship between the body and the mind. First, a brief introduction to interoception is provided. It is proposed that the concept of interoception should be organized into two levels of process. The lower level is the process of individual internal organs (e.g., heart, gut, etc.), which corresponds to the interoception in a narrow sense. The higher level is the integrative process of these individual sensations, which is the interoception in a broad sense. The second section then reviews theories on the relation between the body and emotion, suggesting that interoception directly contributes to the subjective experience of arousal level. In addition, depending on the precision of arousal recognition, interoception may also indirectly underpin the identification of emotion. The third section of this paper discusses the clinical aspects of interoception. With regard to the pros and cons of interoceptive sensitivity, it seems to benefit the regulation of emotions, but it is also associated with certain clinical conditions such as high anxiety. It is important to examine the condition of alexithymia (i.e., affective agnosia), which usually involves the phenomena of alexisomia (i.e., difficulty in recognizing one’s physical condition) and somatosensory amplification (i.e., negative hypersensitivity). By reviewing the condition of autism spectrum disorders, which frequently accompany alexithymia and anxiety, the last section discusses several factors for body-mind interaction such as the difference between the accuracy of sensation and hypersensitivity, the balance between bottom-up and top-down process, and particularly the pivotal role of the sensory integration process.
著者
劉 晶妮 福島 宏器
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PH-014, 2021 (Released:2022-03-30)

アレキシサイミアは,映像や言語刺激などに対する感情的な経験の乏しさと相関することが報告されている。しかし近年,質問紙調査によって,音楽という刺激に対する日常的な感情経験については,逆にアレキシサイミア傾向が高いほど感情的な経験が強いことが示唆されている。本研究は,こうした知見をさらに直接的に検討するため,参加者に実際に音楽を聴取させ,音楽聴取前後の顕在・潜在的な感情の変化とアレキシサイミア傾向との関連を明らかにすることを目的とした。参加者間計画としてHappy音楽を聴取する群とFear音楽を聴取する群に分けて調査を行った。結果として,音楽聴取に対する顕在・潜在的な感情反応の仕方は,音楽の感情価(HappyとFear)による差異が見られたものの,アレキシサイミア傾向と音楽による感情誘導効果の大きさとの間にほぼ正の相関があることが示された(つまり,先行研究の知見が再確認された)。特に,Happy音楽を聴取する群ではアレキシサイミア傾向が高い人ほど顕在的なネガティブ感情が低下していた。一連の結果は,音楽聴取がアレキシサイミアに伴うメンタルヘルスの問題に良い効果をもたらす可能性を示唆している。
著者
福島 宏器
出版者
関西大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

眉間を寄せる,口角を上げる,といった表情筋の操作によって,対象への印象などが左右される「顔面フィードバック」という現象の認知生理的メカニズムを検討した.具体的には,脳波(事象関連電位)を利用して,実験参加者が口角を上げたり口を閉ざしたりする操作が利益や損失の認知処理に及ぼす影響を分析した.その結果,表情筋の操作は,意識的な感情コントロールに比べ,より早い知覚プロセスと明確な自律神経系への影響を及ぼし,より深い水準での心身の態度に影響を及ぼしていることが示唆された.
著者
福島 宏器
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、他者にたいする共感(感情の共有・理解)が強化または抑制されるメカニズムを明らかにし、さらに共感の強さにおける個人差の原因を解明することである。3年目となる今年度は,米国カリフォルニア州における社会性の研究プロジェクトに参加し,(1)他者の感情理解の正確さの個人差の検討,および(2)感情の理解にともなう生理活動の連動が他者理解において果たす役割の検討,の二点に関わる研究に従事した.具体的には,30名の実験参加者が,注意や感情を制御する練習を3ヶ月間集中的に行うことによって,心身にどのような効果が現れるかを研究した.実験では,感情を推定される側と推定する側の両者の推定の一致度から「共感の正確さ」を数値化し,同時に,両者の生理指標(心拍・血圧(指先脈派)・発汗・呼吸)の連動を解析することにより,共感の正確さと,共感課題時の生理活動の連動が評価された.その結果,注意と感情制御のトレーニングによって,実験参加者の共感性尺度(Davis,1983)は有意に上昇していた.他者の感情理解の正確さについては,一部の課題にのみトレーニングの効果が見られたが,感情制御の訓練による社会不安(とくに愛着不安)の低減が,他者のポジティブ感情の正確な理解に関連することが示唆されている,また,課題中の生理指標から,他者の感情の推測と,その課題中の自分自身の生理的反応(とくに血圧系や皮膚電位系)の連動が変容することも示唆されている.申請者は昨年度までに,自分の身体生理活動の調整に関わる神経機構が,他者理解,そして日常場面での共感性と関わっていることを示唆してきた(例えば,Fukushima et al.2011).3年目の研究はなお進行中であるが,申請者のこれまでの成果と合わせて,他者に対する共感の強さや正確さを左右する大きな要因の一つとして,身体の生理的活動と,これに対する認知・神経活動が関わっていることをさらに示唆した.