著者
吉村 太彦 久野 純治 棚橋 誠治 諸井 健夫 日笠 健一 福島 正己 福来 正孝
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者の吉村は、宇宙論と素粒子物理の接点で焦眉の課題である、物質・反物質不均衡の問題をレプトジェネシス理論で解決するときの諸問題を整理して、今後、実験で解明すべき研究を明らかにするとともに、新たな実験原理を提唱した。特に、励起準安定原子のニュートリノ対生成のレーザー増幅過程が、ニュートリノ質量のマヨラナ性の確定と質量絶対値、混合角度の精密測定に有用であることを指摘して、大きな世界的反響を得た。諸井は、超対称模型に基づく宇宙進化のシナリオに関する研究を行なった。特に、宇宙初期に作られるグラビティーノが宇宙初期元素合成に与える影響を調べ、インフレーション後の宇宙再加熱温度の上限を求めた。この仕事は、関連する一連の研究の決定打として世界的に高い評価を得ている。久野は、超対称模型における暗黒物質探索のための理論研究を行なった。特に、暗黒物質と原子核との散乱断面積、暗黒物質の対消滅過程における量子補正の効果の評価を行なった。棚橋は、TeVスケールコンパクト化された余剰次元模型における電弱対称性の破れ(素粒子質量の起源)のメカニズムを考察し、いくつかの素粒子標準模型を超える模型を提唱した。また、これらの模型に対する現象論的制限を求めた。
著者
福島 正己 佐川 宏行 垣本 史雄 荻尾 彰一
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2009

米国ユタ州に宇宙線観測装置テレスコープアレイ(TA)を設置し、極高エネルギー宇宙線の観測をおこなった。2014年までの5年間に10^<18>から10^<20> 電子ボルト(eV)にいたる宇宙線を約80,000例とらえ、銀河系外の宇宙で発生して地球まで伝搬してくる陽子宇宙線の特徴をもつことを示した。また10^<19.76> eV 以上の72例には、ある特定の方向から偏って到来する傾向があることを見出した。今後の観測で発生源の天体を特定し、宇宙空間で粒子が極高エネルギーに加速される仕組みの理解をめざす。
著者
福島 正己 吉田 滋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.924-932, 2000-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
21

地球に降り注ぐ宇宙線には極めてエネルギーの高いものがあって,1020電子ボルトを超えるものが,これまでに8例発見されている.超高エネルギーの宇宙線は,3Kの背景放射に遮蔽されて3億光年より長い距離を伝播することはできないから,これらの宇宙線は銀河系近傍の天体で加速されたと考えるのが自然であるが,その到来方向には加速源となる高エネルギーの天体が見つからない.この矛盾を説明するために,宇宙紐,磁気単極子,寿命の長い超重粒子などの崩壊による2次粒子起源説,あるいは特殊相対論の破れなど,宇宙論や素粒子論に関連した仮説が提案されている.宇宙線望遠鏡(Te1escope Array)計画は,米国ユタ州の砂漠に空気シャワーの発生する大気蛍光を検出する反射望遠鏡群を設置し,数万平方キロの領域に到来する超高エネルギーの宇宙線を観測する.これによって宇宙線のエネルギー・到来方向・粒子種を精密に決定し,超高エネルギー宇宙線の発生起源解明を目指す.
著者
福島 正己
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.20-27, 2005-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
31

1020電子ボルト(eV)を超える巨大なエネルギーを持った素粒子が宇宙から飛来し,AGASAやHiResなどの空気シャワー観測装置で検出されている.これらの宇宙線は銀河系外の高エネルギー天体で発生し,長距離の宇宙空間を伝播して地球に到達したと考えられるが,到来方向には起源となる候補天体が見当たらず,その起源は謎である.またAGASAによる観測は,宇宙背景放射との衝突から期待されるエネルギー限界を超えてスペクトラムが続いていることを示しているが,HiResの観測はエネルギー限界の存在とほぼ一致している.「極高エネルギーの宇宙線は何処で生まれるのか」,「宇宙線のエネルギーに限界はあるか」を巡って続く議論に終止符を打つべく,大規模な観測装置の建設が南米アルゼンチンと米国ユタ州で始まった.宇宙ステーションからの観測も計画されている.新たな観測によって,極高エネルギー宇宙線の発生起源と伝播機構が解明され,標準的な素粒子と天体の理論を超える新たな物理への糸口となることが期待される.
著者
荻尾 彰一 千川 道幸 福島 正己 有働 慈治 奥 大介 芝田 達伸 冨田 孝幸 松山 利夫 山崎 勝也
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

宇宙から飛来する極限的高エネルギーを持った素粒子を検出し、その到来方向・エネルギー・粒子種を求め、活動銀河、銀河の衝突など宇宙における極限的高エネルギー現象を解明するための観測装置が、日米韓露の国際共同研究として、2008年から米国ユタ州で稼働し続けている。本研究では、この観測装置のエネルギー較正のための「標準光源」として、射出方向可変で、持ち運び可能な紫外線レーザー光源を製作し、その性能を評価し、較正装置として十分な性能を有していることを確認した。本格的な較正装置としての運用は2011年度から開始される。