- 著者
-
渋谷 園実
桐谷 圭治
福田 健二
- 出版者
- 一般社団法人 日本昆虫学会
- 雑誌
- 昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.1, pp.19-31, 2017-01-05 (Released:2019-01-05)
- 参考文献数
- 60
クロツヤヒラタゴミムシは,日本全国に分布し,幅広い標高に生息する森林性の種で,生息地の変化に鋭敏な反応を示すことから,生物指標種として期待されている.しかし,その生態については不明な点が多い.そこで,本研究では,本種の生活史を明らかにするため,千葉県柏市の里山で2012年4月から2013年4月の期間,32個のピットフォールトラップで44回の定期調査をした.定期調査に加え合計196個のトラップを使用して6月と7月,9月,10月に拡大調査を実施した.さらに,本種の飛翔の有無を確認するために,2013年に年間を通じマレーズトラップ(3基),衝突板トラップ(10基)を設置した.定期調査で捕獲した1,272個体のうち142個体を解剖し,生殖器官の成熟度と飛翔筋の経時的変化を調べた.また,体長と後翅長については,拡大調査で捕獲した901個体を測定した.本種は,5月に新成虫が出現し,7月までの間は未成熟で活動性は低い.その後10月までは活動を停止することから,夏眠すると考えられる.秋に短期間で斉一的に性成熟し,活動性が高まり多数捕獲される秋繁殖型の種である.活動最盛期の蔵卵数は平均109個で,卵サイズはほぼ斉一の小卵多産型である.後翅は長翅型であるが,体長および前翅長に対する後翅の相対比率が小さく,飛翔筋は認められなかった.さらに,マレーズトラップと衝突板トラップで捕獲されなかったことより,長翅型だが飛翔しないと考えられる.本研究は,フィールド調査と解剖を組み合わせたことにより,生殖器官の成熟度や飛翔筋の発達状態などの経時的変化を把握し,本種の生活史の解明に寄与した.これらの知見は,今後,近縁種との比較研究の基礎的資料となるばかりでなく,本研究で採用した方法は,オサムシ科甲虫の生活史に関する知見を蓄積する際に活用できる.