著者
二瓶 直子 桐木 雅史 高圓 博文 露口 利夫 斉藤 康秀 平 健介 米島 万有子 望月 貫一郎 千種 雄一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.19-29, 2018-03-25 (Released:2018-04-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

Oncomelania hupensis nosophora (Ohn) is the intermediate snail host of Schistosoma japonicum (Trematoda; Schistosomatidae) (Sj) in Japan. The last domestic schistosomiasis infection in Japan has been thought to occur in Yamanashi Prefecture in 1977. In 1985, the intermediate host snail was isolated from paddy fields along the Obitsu River basin in Chiba Prefecture, Japan. At that time, schistosomiasis was assumed to become a past disease in this area. Thus, activities to exterminate Ohn or annual screening programs of residents in this area had not been conducted. Indeed, this disease represents a neglected endemic disease in Japan. This report describes the epidemiological history of the disease from various approaches including clinical information, philological study, interview surveys, snail collection surveys, and changes in land use and environments using geographic information systems. The assumption of disease elimination was based on the lack of reports of new infection for more than 30 years, environmental modifications, and almost no snail infestation from 2012 onward in known habitats. We concluded that continuous monitoring of the snails is not necessary in the studied area, while a certain level of attention to redistribution of the snail from hidden habitats may be required.
著者
米島 万有子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.16, 2014 (Released:2014-10-01)

1.研究背景と目的 終戦後まもなく蚊の発生原因としてみなされていた彦根城堀の一部の埋め立ては,マラリア防疫の偉業として知られている(小林1960).しかし,その埋め立てが実際に蚊の発生を抑制した程度は不確かである.さらに,彦根城堀の埋め立てをめぐり衛生土木事業による歴史的景観を問題視する一部の住民組織と行政が対立した経緯も明らかになっている(米島2011).このような歴史的景観としての堀の環境衛生問題は,過去の出来事に限定されない.京都新聞の記事(2010年5月3日付 二条城が蚊の「大量発生源」?住民指摘、京都市が生息調査)によれば,2009年の秋に二条城北側周辺の住民から「蚊が多い」こと,さらに堀を蚊の発生源と指摘する意見が寄せられ,堀に環境衛生上の問題を懸念する意見が表明された.京都市は蚊の発生調査を実施し,記事が掲載された5月の時点において幼虫は確認できなかったとされている.しかし,住民の蚊の被害実態や堀についての歴史的景観としての評価ならびに環境衛生問題への懸念について明らかにされていない点が多い.そこで,本研究は郵送質問紙調査により,二条城周辺の住民の蚊による被害実態および蚊の発生をめぐって堀に対する意識を明らかにし,堀の景観保全と健康・公衆衛生との関係を検討する.2.研究方法 調査は,二条城北側の住宅地から蚊の発生に対する苦情が寄せられたことから,二条城の北側に位置し,堀川通,千本通,竹屋町通,丸太町通の範囲内にある,京都市上京区の12町を対象とした.調査票の配布対象は,これらの町内にある全住宅および事業所2,853軒である.調査票は,指定した地域のポストが設置されている住宅,事業所全て(郵便の受取拒否をしている場合を除く)に配布できる日本郵便のタウンプラスを用いて,2013年1月下旬に上記の町内全戸に郵送配布し,郵送で回収した.調査票の回収数は882通(30.9%)であり,そのうち自宅752通(85.3%),事業所70通(7.9%),自宅兼事業所47通(5.3%),その他7通(0.8%),無回答6通(0.7%)だった.3.結果 アンケート調査の結果,蚊による吸血被害に「毎日」あるいは「2,3日に1回」の高頻度で遭っている回答者が全体の48.2%を占めた.特に高頻度の吸血被害は,二条城の堀に隣接しない町(42.6%)よりも,堀に隣接する町(54.5%)の居住・勤務者の方が多い.また,自宅ないし事業所敷地内で蚊に刺されることについて,気になるという回答率は71.1%にのぼった.すなわち二条城北側の住宅地,とりわけ堀と隣接する町では,蚊に悩まされていることが明らかになった.京都市が二条城堀において蚊の発生調査を行った結果,蚊の発生は認められなかったことを伝えた上で,堀が蚊の発生源になっていると思うかについて問うたところ,高頻度で蚊の吸血被害を受けている人ほど堀が蚊の発生源と認識している傾向があった. 次に,二条城の堀から蚊が発生する疑いを受け,堀に対してどのような対策をとった方がよいのかについて質問した.ここでは,A:現段階で,堀から蚊が発生する可能性に備える場合,B:将来,堀から蚊の発生が確認された場合,C:将来,堀から発生した蚊からウエストナイル熱ウイルスが確認された場合の3つの状況を設定し,それぞれの好ましいと思う対策について回答を求めた.その結果,Aの蚊の発生がない段階では,将来の蚊の発生を未然に防止する対策には消極的であった.しかし,C堀から発生した蚊からウイルスが検出される状況では,「堀を埋め立てる」べきとの回答数が著しく増加した.他の質問項目と照らしてみると,地域住民は,城(建造物)と堀をひとまとまりとして,歴史的価値ないし観光資源としての価値を認めてはいるものの,感染症という脅威にさらされた場合には,彦根市のマラリア対策と同様に,健康・身の安全を守るためには堀を埋め立てる選択肢もやむを得ないと考える意見も多く示された.4.おわりに 蚊による被害を受けている人ほど堀を蚊の発生源としてみなしている傾向があり,堀の水の衛生環境が悪い印象を与えていることが考えられる.また,堀の景観上の価値を認めつつも,仮に堀が原因で健康に支障が生じる場合には,保全よりも堀の埋め立てを推進する意見がみられることから,彦根の事例と同様に堀の保全と衛生的と思われる環境の形成との間には,潜在的に対立しうる関係が認められる.歴史的景観としての堀の保全には,その景観が「衛生的である」ことにも配慮する必要がある.
著者
渡辺 護 渡辺 はるな 米島 万有子 沢辺 京子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.25-32, 2019

<p>We investigated the occurrence of mosquitoes in both disaster areas of the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami and the 2016 Kumamoto earthquake in the summers after the disasters respectively. In the former area, <i>Culex pipiens</i> group was the most common taxa in adult stage (157.01 individuals per trap per day; 82.55%). In larval stage, <i>Cx. pipiens</i> gr., <i>Cx. tritaeniorhynchus</i> and <i>Anopheles sinensis</i> were collected. While in the latter area, <i>Aedes albopictus</i> (19.29; 62.21%), <i>Cx. pipiens</i> gr. (5.23; 16.87%) and <i>Armigeres subalbatus</i> (4.34; 14.0%) were common in adult catch. The larvae of the three species were also commonly collected in the larval sampling. We compared the mosquito's occurrence between the two areas to find that abundance and species composition were completely different. In the 2011 Japan earthquake and tsunami area, a great number of comparatively large sized water bodies were made by the tsunami, and they became good habitats for <i>Cx. pipiens</i> gr. In contrast in the Kumamoto earthquake area, there were collapsed houses and a large number of small artificial containers left there as well as the tarpaulins used to cover damaged property, all of which served as good breeding sites for <i>Ae. albopictus</i>.</p>
著者
米島 万有子 中谷 友樹 安本 晋也 詹 大千
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000217, 2018 (Released:2018-06-27)

1.研究背景と目的 デング熱は,熱帯地域や亜熱帯地域を主な流行地とする代表的な蚊媒介性感染症の一つである.近年,温暖化や急速に進む都市化,グローバル化に伴い国内外の人や物の流れが活発になり,これまでデング熱の流行地ではなかった温帯の地域においても,デング熱の定着が懸念されている.日本では,2013年に訪日観光客のデング熱感染が報じられ,国内感染による流行が警告された(Kobyashi et al. 2014).翌2014年には首都圏を中心に,約70年ぶりの国内感染に基づくデング熱流行が発生した.これを受けて,防疫対策上,デング熱流行のリスクを推定することは,重要な課題となっている. これまでデング熱流行のリスクマップ研究では,様々な方法が提案されているものの,その多くはデング熱流行地を対象としている(Louis et al. 2014).デング熱が継続的に流行していない地域を対象とした近未来的な流行リスクを評価する方法は,気候条件によって媒介蚊の生息可能性のみを評価する方法(Caminade et al. 2012など)と,デング熱の流行がみられる地域の気候データと社会経済指標から流行リスクの統計モデルを作成し,これを非流行地にあてはめて,将来的な流行リスクの地理的分布を評価する方法がある(Bouzid et al. 2014).本研究ではこれらの先行研究を参考に,媒介蚊の生息適地に関する気候条件と,日本に近接する台湾でのデング熱流行から作成される統計モデルに基づいて,日本における現在と将来のデング熱の流行リスク分布を推定した.2.研究方法 本研究では,はじめにデング熱流行地の中でも日本に地理的に近く,生活様式も比較的類似している台湾を対象とし,台湾におけるデング熱流行リスクの高い地域を予測する一般化加法モデル(GAM)を作成した.デング熱患者数のデータは,台湾衛生福利部疾病管制署で公表されている1999年~2015年に発生した郡区別の国内感染した患者数を用いた.Wen et al. (2006)を参考に,患者数のデータからデング熱の年間発生頻度指標(Frequency index(α))を求め,これを被説明変数とした.説明変数には,都市化の指標として人口,人口密度,第一次産業割合を,気候の指標として気温のデータから算出した積算rVc(relative vectorial capacity)値を,媒介蚊の違いを考慮するための指標として,Chang et al.(2007)をもとにネッタイシマカの生息分布の有無を示すダミー変数を設定した.rVcはデング熱ウイルスに感染した蚊が人間の間に感染を広める能力を示す指標である.rVcは月平均気温の関数として求めており,その詳細については,安本・中谷(2017)を参照されたい. 上記の作成したモデル式に,日本国内の人口や気候値をあてはめて,台湾のデング熱流行経験に基づいた日本での流行発生頻度の予測値を求めた.人口および第一次産業割合のデータは2010年の国勢調査のデータを,2050年の人口データは国土数値情報の将来推計人口を用いた.なお,日本のリスクマップ作成では台湾の郡区と平均面積がおおむね一致する2次メッシュ単位で作成した.3.結果 台湾の郡区別にみたデング熱の発生頻度を従属変数としたGAM分析結果,気候指標の積算rVc,都市化の指標の人口密度,第一次産業割合に有意な関係性が認められた. このモデルを用いて,日本の2010年と2050年のデータを用いて,現在と将来のデング熱の流行リスクマップを描いた.現在では,リスクの高い地域は大都市圏の中心部に分布している.しかし,気候変動の影響によってデング熱の流行リスクの高い地域は著しく拡大することが推定された(図1).4.おわりに 本研究は,台湾のデング熱流行経験に基づいて,現在の日本のデング熱の流行リスク分布と気候変動の影響による流行リスク分布の推定を定量的な手法によって行った.2014年の流行発生地は,本研究の結果においてもリスクの高い地域であった.長期的にも気候の温暖化の影響によって,デング熱流行リスクの地理的分布は拡大することが示された.付記:本研究は,JST-RISTEX「感染症対策における数理モデルを活用した政策形成プロセスの実現」(代表:西浦博)において実施した.
著者
米島 万有子 中谷 友樹 渡辺 護 二瓶 直子 津田 良夫 小林 睦生
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.138-158, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
60

本研究では,琵琶湖東沿岸地域を対象に,国内の代表的な2種類の疾病媒介蚊(成虫)の捕集調査を実施した.そこで観測された捕集個体数の空間的変動を,偏相関最小二乗法(PLS)回帰分析に基づき調査定点周辺の土地被覆の構成(種目別面積比)と関連づけて検討した.また,得られたPLS回帰モデルを利用して,当該媒介蚊の生息分布を面的に推定した.その結果,コガタアカイエカの捕集個体数は,主に水田によって土地被覆が構成されるような農村景観の卓越する地域で多く,平野部に好適な生息場所が多く認められた.シナハマダラカ群の捕集個体数は,水域とそれに付随するヨシなどの植生から構成されるような湿地景観の卓越する地域で多く,水域周辺に好適な生息場所が存在することが判明した.こうした媒介蚊の捕集データから推定した生息分布域は,媒介蚊による吸血被害を生むリスクの分布を示すものであり,蚊媒介性感染症の流行対策に有用な地理情報と考えられる.
著者
米島 万有子 渡辺 護 二瓶 直子 津田 良夫 中谷 友樹 小林 睦生
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.63, pp.51, 2011

国内最後のマラリア浸淫地として知られた滋賀県琵琶湖東岸地域において,現在の蚊の発生状況を把握するために,2008年からCDC型トラップを用いて蚊の捕獲調査を行っている.2010年は,琵琶湖に注ぐ犬上川流域を縦断的に,また内湖である西の湖周辺を対象として,地点間による蚊相と捕獲数の差異を明らかにするために調査を行った.方法は,ドライアイス1kgを誘引剤としたCDC型トラップを用いて,6月18日から10月2日まで,3週間毎に2日間連続で行った.調査地点は,犬上川の上流から下流にかけて12地点,西の湖沿岸およびそれに注ぐ蛇砂川流域に10地点を設定した.その結果,シナハマダラカ,コガタアカイエカ,アカイエカ,カラツイエカ,ヒトスジシマカ,ヤマトヤブカ,オオクロヤブカ,ハマダライエカ,フトシマツノフサカの10種類が捕獲された.犬上川流域では,全捕獲数21,233個体のうち約92%がコガタアカイエカ(19,585個体)で,次いでアカイエカが約7%(1457個体),シナハマダラカが0.2%(57個体)であった.トラップの設置地点間を比較すると,犬上川上流および下流ではコガタアカイエカの捕獲数が多いのに対し,中流部では少なかった.また,上流部ではアカイエカの割合が低かった.一方,西の湖周辺では総計40,347個体のうち、約97%がコガタアカイエカ(38,998個体),アカイエカが約2%(608個体)そしてシナハマダラカが約1%(462個体)捕獲された.地点間の比較では,コガタアカイエカは特に西の湖沿岸に多く,シナハマダラカは蛇砂川流域で多いことがわかった.このように地点間比較から,捕獲数および蚊相にはトラップ設置場所によって差異が認められる.この差異について,環境省生物多様性情報システムの第5回植生調査データを資料とし,GIS(地理情報システム)を用いて,トラップ周囲の植生構成比との関係から検討した.また,2009年度の調査データを基に作成した吸血飛来のポテンシャルマップと2010年度の蚊の調査結果がどの程度一致したのかを検証した.
著者
米島 万有子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.研究背景と目的<br></b> 終戦後まもなく蚊の発生原因としてみなされていた彦根城堀の一部の埋め立ては,マラリア防疫の偉業として知られている(小林1960).しかし,その埋め立てが実際に蚊の発生を抑制した程度は不確かである.さらに,彦根城堀の埋め立てをめぐり衛生土木事業による歴史的景観を問題視する一部の住民組織と行政が対立した経緯も明らかになっている(米島2011).このような歴史的景観としての堀の環境衛生問題は,過去の出来事に限定されない.京都新聞の記事(2010年5月3日付 二条城が蚊の「大量発生源」?住民指摘、京都市が生息調査)によれば,2009年の秋に二条城北側周辺の住民から「蚊が多い」こと,さらに堀を蚊の発生源と指摘する意見が寄せられ,堀に環境衛生上の問題を懸念する意見が表明された.京都市は蚊の発生調査を実施し,記事が掲載された5月の時点において幼虫は確認できなかったとされている.しかし,住民の蚊の被害実態や堀についての歴史的景観としての評価ならびに環境衛生問題への懸念について明らかにされていない点が多い.そこで,本研究は郵送質問紙調査により,二条城周辺の住民の蚊による被害実態および蚊の発生をめぐって堀に対する意識を明らかにし,堀の景観保全と健康・公衆衛生との関係を検討する.<br><br><b>2</b><b>.研究方法<br></b><b></b> 調査は,二条城北側の住宅地から蚊の発生に対する苦情が寄せられたことから,二条城の北側に位置し,堀川通,千本通,竹屋町通,丸太町通の範囲内にある,京都市上京区の12町を対象とした.調査票の配布対象は,これらの町内にある全住宅および事業所2,853軒である.調査票は,指定した地域のポストが設置されている住宅,事業所全て(郵便の受取拒否をしている場合を除く)に配布できる日本郵便のタウンプラスを用いて,2013年1月下旬に上記の町内全戸に郵送配布し,郵送で回収した.調査票の回収数は882通(30.9%)であり,そのうち自宅752通(85.3%),事業所70通(7.9%),自宅兼事業所47通(5.3%),その他7通(0.8%),無回答6通(0.7%)だった.<br><br><b>3</b><b>.結果<br></b><b></b> アンケート調査の結果,蚊による吸血被害に「毎日」あるいは「2,3日に1回」の高頻度で遭っている回答者が全体の48.2%を占めた.特に高頻度の吸血被害は,二条城の堀に隣接しない町(42.6%)よりも,堀に隣接する町(54.5%)の居住・勤務者の方が多い.また,自宅ないし事業所敷地内で蚊に刺されることについて,気になるという回答率は71.1%にのぼった.すなわち二条城北側の住宅地,とりわけ堀と隣接する町では,蚊に悩まされていることが明らかになった.京都市が二条城堀において蚊の発生調査を行った結果,蚊の発生は認められなかったことを伝えた上で,堀が蚊の発生源になっていると思うかについて問うたところ,高頻度で蚊の吸血被害を受けている人ほど堀が蚊の発生源と認識している傾向があった.<br> 次に,二条城の堀から蚊が発生する疑いを受け,堀に対してどのような対策をとった方がよいのかについて質問した.ここでは,A:現段階で,堀から蚊が発生する可能性に備える場合,B:将来,堀から蚊の発生が確認された場合,C:将来,堀から発生した蚊からウエストナイル熱ウイルスが確認された場合の3つの状況を設定し,それぞれの好ましいと思う対策について回答を求めた.その結果,Aの蚊の発生がない段階では,将来の蚊の発生を未然に防止する対策には消極的であった.しかし,C堀から発生した蚊からウイルスが検出される状況では,「堀を埋め立てる」べきとの回答数が著しく増加した.他の質問項目と照らしてみると,地域住民は,城(建造物)と堀をひとまとまりとして,歴史的価値ないし観光資源としての価値を認めてはいるものの,感染症という脅威にさらされた場合には,彦根市のマラリア対策と同様に,健康・身の安全を守るためには堀を埋め立てる選択肢もやむを得ないと考える意見も多く示された.<br><br><b>4</b><b>.おわりに<br></b><b></b> 蚊による被害を受けている人ほど堀を蚊の発生源としてみなしている傾向があり,堀の水の衛生環境が悪い印象を与えていることが考えられる.また,堀の景観上の価値を認めつつも,仮に堀が原因で健康に支障が生じる場合には,保全よりも堀の埋め立てを推進する意見がみられることから,彦根の事例と同様に堀の保全と衛生的と思われる環境の形成との間には,潜在的に対立しうる関係が認められる.歴史的景観としての堀の保全には,その景観が「衛生的である」ことにも配慮する必要がある.