著者
粟津 賢太
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.3-31, 2010-06-05 (Released:2017-07-18)

本稿の目的は、沖縄における遺骨収集の展開とその動態を、社会学における集合的記憶研究の枠組から理解しようとするものである。アジア・太平洋戦争において地上戦が行われた沖縄では、わずか3ヵ月の間に20万を超える死者を出した。これは米軍の艦砲射撃、爆撃、上陸戦、掃討作戦による死者であり、敵味方両陣営の軍人・軍属の他、集団自決や戦闘に巻き込まれた民間人の犠牲者たちである。本稿では、今なお遺骨収集が行われている現代沖縄において、独特の喚起力を持つと思われる遺骨をめぐる様々な行為主体の動きを考察する。そこでは、「遺骨」をめぐる言説が開発や行政を巻き込んで新たに人びとを編成している。遺骨収集に携わる人々は、遺骨によって戦争と戦後の沖縄を語り、そして現在の沖縄を語っているのである。その意味で、沖縄における集合的記憶は常に生成され続けているといえる。現代における、このような「沖縄の戦後」の語りには彼ら特有の専有と抵抗をみることができる。
著者
西村 明 森 謙二 村上 興匡 土居 浩 清水 克行 粟津 賢太 中山 郁 ドーマン ベンジャミン 町 泰樹 ドボルザーク グレッグ 飯高 伸五 ミャッカラヤ M.G シェフタル 北村 毅 キース カマチェ 渡邉 一弘 ポール ハインツ スティーブン ブラード イ ヨンジン 木村 勝彦 田村 恵子 矢口 祐人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、日本における戦争死者慰霊の第三者関与と世代間継承の問題を、海外の事例も踏まえながら比較検討した。新たな慰霊活動や慰霊巡拝の創出・開拓といった契機や、時間的推移における慰霊活動の維持等において、死者との直接的関係を持たない宗教的・世俗的エージェントの果たす役割の重要性が確認された。同時に世代間継承における意味変容のあり方がその後の展開に大きく作用することも実証的に明らかとなった。
著者
ウェッシンガー キャサリン 粟津 賢太
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.243-273, 2012-09-30 (Released:2017-07-14)

二〇〇五年八月二九日にニューオーリンズをはじめルイジアナ州やミシシッピ州のメキシコ湾岸地域を襲ったハリケーン・カトリーナによる災害は、さまざまなタイプのおびただしい宗教的応答を促した。個人化されたスピリチュアルな応答もあれば、特定の宗教教団の見解に沿ったものもあった。一方で、災害を罪に対する神の懲罰であるとみなすネガティヴな宗教的対応もあった。(なにゆえに神は人々が苦しむことを許したのかを説明する)懲罰的な神義論は、個人や会衆によって組織化された救済活動を阻むものではなかった。しかしながら、救済するつもりのない外部の者によって示された懲罰的神義論は、ある特定の政治的神学的な意図を普及させる手段であった。他方で、カトリーナ災害への宗教的応答のほとんどはポジティヴな宗教的対応を示しており、人々に高次の力からの慰籍を与え、他者を助けようと志向させ、被災者を非難しない思慮深い神学的な説明を受け入れさせた。宗教的観点から動機づけられているか否かにかかわらず、傍らに寄り添い、同情的かつ共感的に耳を傾ける存在はカトリーナの被災者たちにとって大きな助けとなった。
著者
中野 毅 粟津 賢太
出版者
創価大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

連合国の対日政策や占領に関する日本で公刊・発掘された最新の史資料を多数収集し、米国および英国、沖縄、韓国の各公文書館所蔵の日本占領関連文書の所在確認と再調査を行なった。米国では、宗教政党「第三文明党」の設立(1948年)に関する文書を発掘し、それが戦後初の伝統諸教団による宗教政党であった事実、また沖縄でも戦前の「宗教団体法」が本土復帰するまで存続していた事実、戦没者の遺骨収集が沖縄本島中心部で現在も続けられている事実など、新たな知見および研究法を獲得できた。