著者
坪井 潤一 片野 修 水本 寛基 荒木 仁志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2224, (Released:2023-09-08)
参考文献数
38

オオクチバスMicropterus nigricansは水圏生態系に大きな影響を与えることからIUCNの世界の侵略的外来種ワースト100に指定されている。オオクチバスの駆除は多くの湖沼や河川で行われているが、小規模な水域における池干しを除くと、完全駆除に成功した事例は少ない。そこで本研究では、長野県の金原ダム湖において2007年からオオクチバス根絶のため、シュノーケリングによる産卵床の除去、仔稚魚のすくい取り、未成魚と成魚のカゴ網、投網、刺し網、手づかみ、釣り、水中銃による捕獲を行い、シュノーケルを用いた潜水調査や環境DNAの解析により個体群のモニタリングを行った。幼魚の捕獲にはアイカゴが、大型魚を除く未成魚、成魚については岸の水深変化に対応した「かけ上がり用刺し網」が、大型魚については水中銃が効果的であった。年間捕獲個体数は2010年に1,472個体に達した。産卵床数は2012年に131箇所に達したが、その後急速に減少した。2014年には産卵床の見逃しにより約5,000個体の稚魚が生じた。しかし、陸上および水中から、たも網を用いて捕獲を行い、その大部分が捕獲された。興味深いことに、オオクチバス駆除にともなって、トウヨシノボリRhinogobius kurodaiが増加し、オオクチバスの卵を捕食するところが確認された。2016年以降産卵床は形成されず、成魚についても、2018年に1個体が捕獲されてから観察されなくなった。以上の結果から、金原ダム湖のオオクチバスは完全に駆除されたか、わずかに生息していたとしても残存個体が高齢化するなどして新たに繁殖することができず、機能的に根絶したものと考えられる。一方、オオクチバスの種特異プライマーを用いた環境DNA解析は2018年から2022年にかけての計4回全てで微量ながら陽性となっており、少なくともダム湖周辺にはオオクチバス生息の可能性が示唆された。このことから、ダム湖のオオクチバス根絶後も再導入リスクは依然残されており、今後も継続的・定期的なモニタリングが重要と考えられる。
著者
小粥 淳史 八柳 哲 神戸 崇 井上 頌子 荒木 仁志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2216, (Released:2023-09-01)
参考文献数
37

日本に生息する汽水・淡水魚のうち、約4割が環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されており、なかでもタナゴ類の減少は顕著である。その一要因として外来種の影響が挙げられ、国内の溜池に広く見られるオオクチバスやカムルチーによる捕食、タイリクバラタナゴによる競合のほか、産卵母貝の生活史に必須なハゼ類の減少による間接的影響が懸念されている。既存生態系保全のためにはこれら外来種による生物群集への影響を正しく評価し、優先順位に基づく管理を行う必要がある。しかし、外来種の影響を総合的に評価するのは技術的に難しく、研究事例は限られている。そこで本研究では、上記三種の外来魚と在来タナゴ類が生息している秋田県雄物川流域の溜池に注目し、35地点から採集した水サンプルおよび魚類ユニバーサルプライマー MiFishを用いて環境DNAメタバーコーディング解析を行い、外来種が在来タナゴ類、ハゼ類をはじめとする溜池の魚類群集に与える影響を複合的に評価した。その結果、非計量多次元尺度法を用いた群集解析においてはオオクチバスの強い影響が示され、本種のDNAが検出された溜池では平均検出在来種数・Shannon-Wienerの多様度指数が共に約4割も減少するなど、在来群集構造を大きく改変している可能性が示された。またタイリクバラタナゴは在来タナゴ類と同所的に生息し、タイリクバラタナゴDNAの検出地点では在来タナゴ類の平均DNA濃度がタイリクバラタナゴDNA非検出地点平均のわずか2.4%と有意に低い傾向が確認された(p =0.0070)。一方、オオクチバスは在来タナゴとは共存しない傾向があり、オオクチバスとカムルチーのDNA検出地点では有意差はないものの共に在来タナゴ類の平均DNA濃度が低い傾向がみられた(外来種DNA非検出地点平均のそれぞれ6.6%、8.0%)。これらの結果から、オオクチバスは高い捕食圧によって溜池の魚種群集構造全体に大きな影響を与える一方、タイリクバラタナゴは在来タナゴ類と競合することで後者の生物量に強い負の影響を与えている可能性が示唆された。北日本における溜池の既存生態系保全のためにはオオクチバスの迅速な駆除と拡散防止が最優先となる一方、在来タナゴ類が生息する場所ではタイリクバラタナゴやカムルチーの個体数管理も併せて重要となるものと考えられる。
著者
速水 将人 石山 信雄 水本 寛基 神戸 崇 下田 和孝 三坂 尚行 卜部 浩一 長坂 晶子 長坂 有 小野 理 荒木 仁志 中嶋 信美 福島 路生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.20-00043, (Released:2021-07-10)
参考文献数
47

河川上流域に多数設置された治山ダムは,渓流や森林の荒廃を防ぐ重要な役割を果たす一方で,渓流魚の河川内の自由な移動を阻害している.こうした状況に鑑み,河川生態系の保全を目的とした改良事業(魚道の設置,堤体の切り下げ)が国内の多くの治山ダムで実施されている.本研究では,北海道 3 河川に設置された治山ダムを対象に,魚道設置と切り下げによるダム改良工事が,その上下流の渓流魚類相に与える影響について,改良工事前後で行われた採捕調査によって検証した.同時に,ダム改良後の採捕結果と環境 DNA メタバーコーディングによる魚類相推定結果を比較し,治山ダム改良事業における環境 DNA メタバーコーディングを用いた魚類相推定の有効性を検討した.採捕調査の結果,治山ダムの改良事業によって,遡河回遊魚であるアメマスとサクラマスのダム上流への移動を可能にし,10 年後においても効果が確認された.環境 DNA メタバーコーディングでは,採捕された全 9 種に加え,採捕では確認されなか ったニジマスの計 10 種が検出され,治山ダム上下流に設定した各調査地点における遡河回遊魚のアメマス・サクラマスや,ハナカジカの採捕結果との一致率は 70-90 %であった.環境 DNA メタバーコーディングを治山ダム改良事業に適用する場合,評価対象魚種の特性や過去の採捕記録を考慮する必要はあるものの,改良前の治山ダムにおける魚類の遡上阻害の推定や,改良後の河川の魚類相・生息状況の推定に有効であることが示唆された.但し,治山ダムの切り下げを例にとると,遡上阻害の改善効果が維持される期間は工法によって異なる可能性もあり,正確な評価には様々な河川・工法を対象としたさらなる研究の蓄積が必要である.