著者
藤吉 康志
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

雪片を灯油中で融かすことにより、個々の雪片が融解する際に、どのような粒径分布の水滴を形成するかを測定した。その結果、平均的には、雪片の質量が増大するにつれて、ほぼ直線的に生成される水滴の個数が増大することが明らかとなった。これは、本研究によって世界で初めて明らかとなった事実である。雪片の質量の増加によって、急激に分裂する水滴の個数がふえるため、生成される水滴の平均粒径は、雪片の質量が増えるにつれて逆に減少することも明らかとなった。また、生成される水滴の粒径分布を調べると、質量の大きな雪片ほど相対的に小さい粒径の水滴を作りやすいことが示された。雪片の最大粒径、雪片の断面積、雪片の凹凸度、雪片のモーメントと生成された水滴の個数との関係をしらべると、数多くの水滴を生成する雪片は、最大粒径、断面積、凹凸度及び質量が大きいが、しかし、これらの値が大きいからといって必ずしも数多くの水滴が生成されるとは限らない(必要ではあるが十分条件ではない)ことが明らかとなった。各特徴量との間の相関を調べると、凹凸度と断面積、及びモーメントと質量との間にはほとんど相関が無いことが分かる。即ち、雪片がどの程度複雑な形をとり得るかは、雪片の大きさによらないということが分かる。言い換えれば、雪片が大きかろうと小さかろうと、その形は等しく複雑であると言える。また、重い雪片(あるいは大きな雪片)であるからと言って、中心部に質量が集中しているとは限らず、逆に、軽に雪片(あるいは小さな雪片)であるからと言って質量が一様に分散しているとは限らないことを意味している。モーメントも凹凸度も、何れも空中での雪粒子の併合様式に関係した値である。従って、雪粒子の併合様式は、その大きさや重さによらないランダムな現象であることが示唆された。
著者
金田 幸恵 耿 驃 吉本 直弘 藤吉 康志 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.135-154, 1999-02-25
被引用文献数
1

1993年7月25日未明に台風9304が紀伊半島南端に最接近し、その後四国に上陸したことに伴い、半島南東斜面に多量の降水が観測された。この台風に伴い形成された対流性降水雲の地形による変質過程が、2台のドップラーレーダを用いた観測により調べられた。7月24日1900LSTから25日0000LSTにかけてのドップラーレーダ観測期間中、多くの対流性降水雲が上陸した。それらのレーダエコーは、様々な発達段階で海岸に達したにもかかわらず、海岸の10-20km手前で強まり、海岸線付近でいったん弱まった後、上陸後に再び強化されるか、あるいは広がるという共通の特徴を示した。また、対流性エコーは、海上で強まる前、海岸から30-40km沖付近で後面上部で強まり、その後、海岸に近づくにしたがって、進行方向前面のエコーが強まるという特徴も見出された。2台のドップラーレーダの観測データから導出された海上の水平風を時間平均したところ、平均風速は海岸に近づくにつれ減衰すること、海岸から約10km海上に10^<-4>s^<-1>以上の水平収束域が存在することが見いだされた。以上の観測事実にもとづき、また一般風に対する半島の地形効果に関する数値実験の結果も考慮して、対流性降水雲の地形による変質過程と効率的な降水形成過程が議論された。海上から接近、上陸する対流雲に対するこのような地形効果の総合的な結果として、紀伊半島南東斜面に多量の降水がもたらされたと考えられる。
著者
藤吉 康志 川島 正行 山崎 孝治 塚本 修 岡本 創 杉本 伸夫 三浦 和彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

当該研究期間、2002年と2004年の2回、北極海上に発生する雲と降水システムの総合的な観測を実施した。まず、北極海に出現する大きな気象擾乱には、背の低いタイプと背の高いタイプがあり、前者は北極海起源、後者は北太平洋起源の低気圧であるとを示した。次に、北極層雲の水平構造を調べ、対流性と層状性の構造の2つの水平パターンが存在することを見出した。この結果は、詳細な数値モデルによるシミュレーションの結果と整合的であった。また、雲レーダーを用いた観測で、雲の鉛直構造を明らかにし、雲頂高度がほぼ-45℃に存在すること、2km以下と5km付近の2高度で雲の出現頻度が高いこと、更に、北極海では雲は多層構造を示していることなどを明らかにすることができた。さらに、雲レーダーとライダーと組み合わせるアルゴリズムによって、雲粒の粒径分布も求めることができた。海洋と大気との乱流フラックスも実測し、放射収支と合わせて、北極海での熱収支を見積もることができた。また、客観解析データとレーダーデータを基に、北極域での水収支とその季節変動も見積もることができた。更に、エアロゾル-海洋-大気-雲の相互作用を新たに見出した。これは、海水温の変化と、海起源の雲核の数濃度や大気境界層内の雲の発達とが良く対応していることを観測事実として示したもので、北極海上における下層雲の形成過程が、温暖化に伴う海水温変化に影響を受けることを示した画期的な成果である。以上の成果は、国内外での学会で発表し、他国の研究者から高い評価を受けた。更に、熱帯・中緯度との観測結果との比較も行い、2012年にESA(Europe Space Agency)とJAXAとで共同で打ち上げ予定の雲観測衛星(EarthCARE)の科学的基礎データとしての重要性を強調した。
著者
藤吉 康志 村本 健一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.343-353, 1996-06-25
被引用文献数
6

暖めたケロシン中で雪片を融解させ, その際形成される水滴の粒径分布を調べた. この実験結果を基に, 雪片の融解分裂過程が, 雨滴の粒径分布に与える効果について考察した. 合計50個の融解前の雪片について, その最大直径, 断面積, 質量も同時に測定した. 1つの雪片から生じる水滴の総数は, 雪片の質量と最も相関が高く, 少なくとも質量が3.0mg以下の場合には, 平均的な水滴の個数は質量と共に直線的に増加した. ただし, 質量が同じでも形成される水滴の粒径分布には大きなバラツキがあった. 生成された水滴の平均粒径分布は, 質量が1.0mg以下の場合は指数関数で, 2.0mg以上の場合はガウス分布で近似出来た. 初めGunn-Marshall型の粒径分布をしていた雪片が, ここで得られた実験式にのって融解分裂したと仮定すると, 得られた雨滴の粒径分布の勾配はMarshall-Palmer分布の勾配と極めて良く一致した.
著者
石原 正仁 藤吉 康志 新井 健一郎 吉本 直弘 小西 啓之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.727-742, 2009-09-30

1998年8月7日にメソスケール降雨帯が大阪湾上を南下し,その中で特に発達した積乱雲が関西国際空港(「関西空港」という)に近づいた.同空港において低層ウィンドシアーを監視している空港気象ドップラーレーダー(DRAW)は,この積乱雲が同空港に到達するまでの間にマイクロバーストを延べ24回自動検出した.このとき低層ウィンドシアーに関する共同調査を実施中であった関西航空地方気象台と北海道大学低温科学研究所は,この積乱雲を対象としてDRAWと同研究所の可搬型ドップラーレーダーによるデュアル観測を行った.この積乱雲は少なくとも4つのマイクロバースト(MB)を,7〜9分間隔で発生させていたことがわかった.このうちの2つのMBについて,その振舞いと内部・周辺の風の3次元分布を詳細に解析した.2つめのMBについては,DRAWの自動検出では水平距離4kmで17m/sの風の水平シアーが測定され,デュアル解析によると高度3kmで7m/sの下降流,及び高度500mで14m/sの水平風が形成されていた.またMB 3が到達した関西空港では21m/sの瞬間風速が記録された.これらのことから,DRAWの自動検出はMBの位置,形状,風の水平シアーの強さを精度よく算出していることがわかった.同時に,MBの非軸対称性が水平シアーの測定に誤差を生じさせる可能性のあることも分かった.MBの微細構造として,1つめのMBにともなう地上付近の発散流は非軸対称的な分布を示し,MBの移動方向の右前方に強く吹き出していた.このMBにともなう発散流の先端のガストフロントでは上昇流が作られ,その上昇流によって上空に形成された降水コアが着地するとともに,2つめのMBが発生した.MBの生成には,降水粒子の蒸発による下降流内の空気の冷却,及び落下する降水粒子が空気を引きずり下ろす力の両者が作用していたと推測された.航空機がこのMBに進入した場合,飛行経路に沿った風の水平シアーにともなう揚力減少の効果は,下降流が航空機を直接降下させる効果より2.7倍以上であったと見積もられた.