著者
福留 広大 藤田 尚文 戸谷 彰宏 小林 渚 古川 善也 森永 康子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.183-196, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
34
被引用文献数
3 6

本研究の目的は, 自尊感情尺度(Rosenberg Self-Esteem Scale; RSES)において, 逆転項目に対する否定的反応(Negative Self-Esteem; NSE)と順項目に対する肯定的反応(Positive Self-Esteem; PSE)がそれぞれ異なる心理的側面を持つことを提案することである。研究Iでは, 様々なサンプルの計5つのデータセットを分析した。確認的因子分析の結果, RSESにPSEとNSEの存在が示唆された。研究IIでは, 中学生に調査を行い, 因子構造の検証とそれらの弁別性について検討した。中学生においてもPSEとNSEの構造が支持され, NSEはPSEよりもストレス反応と強い負の相関関係にあった。つまり, RSESの否定的な項目に対して否定的な回答をするほどストレス反応が低い傾向にあった。研究IIIでは, 中学生を対象にして, RSES2因子の弁別性の基準として攻撃性尺度を検討した。その結果, NSEがPSEよりも敵意と強い負の相関関係にあった。これらの結果は, RSESに「肯定的自己像の受容」と「否定的自己像の拒否」の存在を認めるものであり, この解釈と可能性について議論した。
著者
藤田 尚文 福留 広大 古口 高志 小林 渚
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.12-25, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究の目的は自尊感情などのストレス防御因子と心理的ストレス反応の関係を説明することであった。ストレスの窓モデルと命名されたモデルは4つの仮定をもっている。(a)ひとはストレスを受け取る窓を1個以上もっており, ストレスはその窓を通して個人内に侵入してくる。(b)個々の窓の受け取るストレスの強度分布は, 認知的評価をした結果, 値が基準化され, 平均を0, 分散を1とする正規分布の右側半分である。(c)個々の窓は, それぞれ独立に機能し, 侵入してきたストレスを受け取り, ストレスの強度を2乗したものがストレス反応となり, 最終的に個人のストレス反応は各窓から受け取った総和となる。(d)ストレスの窓の個数は防御因子と密接に関連し, 防御因子が強ければストレスの窓が少なく, これが弱くなるにつれてストレスの窓が多くなる。これらの仮定の数学的帰結として, 防御因子の強弱によって層化された各群のストレス反応が, 窓の個数分の自由度をもつχ2分布となる。本モデルは防御因子として消極的自尊感情や楽観性を用いたときストレス反応の分布をよく近似できた。さらに素因ストレスモデルにおける交互作用は本モデルから数学的に導かれることが本論文で議論された。
著者
入江 隆 藤田 尚文 中西 秀男 太田 学
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.162-171, 2008-01-01
被引用文献数
4

軟物体に手で触れるときに感じるやわらかさには,「かたさ-やわらかさ」の次元と「弾力」の次元がある.これまでの研究では,心理的なやわらかさを単にばねの性質として理解することが多く,両者を区別して議論することはなかった.軟物体の力学的特性は,平衡弾性係数と緩和弾性係数を用いたマクスウェルモデルによる表現が可能である.本論文では,感性評価実験による心理量と力学特性計測による軟物体の粘弾性係数との関連について解析を行った.その結果,「かたさ-やわらかさ」と「弾力」ともに平衡弾性係数の寄与が大きいが,「かたさ-やわらかさ」には緩和弾性係数が正の寄与をしており,「弾力」には負の寄与をしていることを明らかにした.また,指で軟物体を押す荷重を制限した実験と指先の機械受容器に与える情報を制限した実験を行うことにより,やわらかさ知覚における深部感覚の重要性と機械受容器の関与について,新たな知見が得られたので報告する.
著者
藤田 尚文
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

曲面の違いの影響について調べた。また、図形の向き(上向きか下向きか右向きか左向きか)の違い、比べる曲面(同じ曲面か異なる曲面か)の違い、図形の置く位置(右と左か上と下か)の違いの影響についても調べた。3次元の曲面では他の要因の影響を受けやすいため、曲面を2次元のものに限定して実験を行った。実験において被験者はアイマスクをして机の前に座り、提示された刺激図形を右手の人さし指で触れる。被験者には1個の標準図形と1個の比較図形が提示される。被験者の課題はそれらの提示された図形を比べてより高い図形(より深い図形)を選ぶかあるいは両者が同じかを判断することである。極限法により主観的等価値(PSE)を測定した。実験で用いた標準図形と比較図形には山曲面を持つ図形と谷曲面を持つ図形の2種類がある。山曲面と谷曲面は、一山または一谷のsin曲線であった。標準図形の曲面の幅は5.1cmの1種類;高さ(深さ)は1.0cmの1種類。比較図形の曲面の幅は3.4cmの1種類;高さ(深さ)は0.1cmから1.5cmまで0.1cm刻みで15種類。実験1〜4において以下の4点が影響を及ぼしていることが分かった。この4点は、図形の位置(右と左か上と下か)に関係なく影響を及ぼしていた。図形の位置については、標準図形の位置が右(上)の時と左(下)の時の数値には差がないことから、影響はないと考えられる。(1)幅5.1cmと幅3.4cmでは幅3.4cmを高く(深く)知覚し、幅5.1cmを低く(浅く)知覚する。(2)標準図形の向きを下向きにした時に高く(深く)知覚し、標準図形の向きを左向きにした時、低く(浅く)知覚する。(3)幅3.4cmの山曲面と谷曲面では山曲面を高く(深く)知覚し、谷曲面を低く(浅く)知覚する。(4)比べる曲面、比べる曲面の幅が異なる時、比較図形を高く(深く)知覚する。(山曲面と谷曲面、幅3.4cmと幅5.1cmを比べた時、比較図形を高く(深く)知覚する。)比較図形(幅3.4cm)の山曲面、谷曲面の影響の原因については、山曲面の時は指が外側を通り、谷曲面の時は指が内側を通るためと思われる。標準図形(幅5.1cm)では影響がなかったことから、曲面の幅が広くなる程、影響力はなくなると推測される。向きの影響については、前後の平地の高さをずれて知覚するためだと思われる。上、下、右向きの時は、後ろの平地を低く感じるために高く知覚し、左向きの時は、後ろの平地を高く感じるために低く知覚すると考えられる。図形の触りやすさ、触りにくさも影響していると思われる。